簡易懸濁法とは?
- 公開日: 2017/2/12
粉砕法の問題・デメリット
経鼻胃管・胃瘻・腸瘻といったチューブから錠剤を投与する方法として、「つぶし(粉砕法)」で注入することだけを想像していませんか。そして、粉砕法で注入した際に「チューブが閉塞してしまった」という経験をもつ人も少なくないかもしれません。
錠剤は一見すると、どれでも粉砕できそうですが、粉砕後の粉末が水に均等に懸濁しなければ、チューブから注入したときに閉塞する可能性が高くなります。そのため、チューブから錠剤を投与する際には、その薬剤が粉砕できる薬剤かどうか、チューブから投与できる薬剤かどうかを薬剤師に相談することが大切です。
なお、粉砕法にはチューブの閉塞をはじめ、次のような問題やデメリットがあります。
粉砕法の主な問題・デメリット
1)チューブの閉塞の問題
2)調剤・保管段階での薬剤の吸湿性や光による分解の問題
3)薬剤を準備する際に看護師や患者・家族が吸入することによる健康被害
4)分包紙に薬剤が付着することによる投与量の減少
5)視覚的に全て粉末となるため、印字の有無によっては用法や薬剤そのものの間違えの原因にもなりかねない問題
6)粉砕法では用法ごとに調剤されることが多いため、1回に服用する分包紙が複数にわたることより管理も複雑となること
簡易懸濁法とは
粉砕法のデメリットを解消する投与方法として「簡易懸濁法」があります。
簡易懸濁法とは、錠剤をつぶしたりカプセルを開封せず、投与時に錠剤・カプセル剤をそのまま水に入れて崩壊・懸濁させる方法です(図1)。
図1 簡易懸濁法の手順
簡易懸濁研究会、編:簡易懸濁法とは,簡易懸濁法実施例(倉田式経管投与法Ver.2),http://kendaku.umin.jp/about/index.html(2017年1月26日閲覧)をもとに作成
■簡易懸濁法のメリット
簡易懸濁法には次のようなメリットがあります。
1)簡易懸濁法適応薬剤は崩壊・懸濁する薬剤であるため、閉塞リスクは最小限ですむ
2)調剤・保管段階では剤形を破壊しないため吸湿性や光分解は受けない
3)粉砕していないため粉末を吸引することはない
4)粉砕していないため付着しない
5)錠剤やカプセルを視覚的に確認できる
6)一包化調剤することにより「朝食後」「昼食後」「夕食後」など服用時期でまとめて調剤することで管理しやすくなる1、2)(図2)
図2 粉砕法、簡易懸濁法の服薬管理
■工夫次第でどの材質でも対応可能
カプセルの材質は主にゼラチンでお湯で溶けるため、約55℃の温湯に入れて自然放冷します。水に入れて崩壊しない錠剤(例:プラビックス錠)の場合は、水が入りやすいようにコーティングを破壊(フィルムに亀裂を入れる)し、懸濁・崩壊しやすくします(図3)。
図3 崩壊・懸濁をしやすくするポイント
■遮光環境での崩壊・懸濁
ビタミンB12製剤などの光に不安定な一部の薬剤では、簡易懸濁法における10分間の崩壊・懸濁時間でも光による分解を受けて、含量が低下することが報告されています。
例えば、メコバラミン錠においては、室内光下で10分放置することで約80%、30分で約50%まで含量が低下します3)。その場合、懸濁中の注入器もしくは容器を遮光ボックスなどに入れることで簡単に遮光環境を作り出すことができます。または、簡易懸濁法容器(図4)を用いることでも、遮光環境での崩壊・懸濁を行うことができます4)
なお粉砕法においても、剤形が破壊されていることや調剤から服用までの保管時間が長いことにより、光の影響を受けることを考慮するなどの注意が必要になります。
図4 簡易懸濁法容器「けんだくん」(エムアイケミカル株式会社)
■手技に慣れない人も安心
簡易懸濁法は図1で示したように注入器に直接薬剤を入れる方法か、別の容器で崩壊懸濁させた懸濁液を注入器で吸って投与する方法に分かれます。
手技に慣れていない状態では注入器に薬剤を入れる際の取り扱いや、別容器で懸濁させた懸濁液を取り扱う際のこぼれの問題などがあります。
これらの問題は、簡易懸濁法における崩壊・懸濁段階と投薬段階を同じ容器で行うことができ、なおかつ注入器を使わない懸濁容器を使用することで解決できます(図5、図6)。ただし、医療機器として承認されていないため、事前のインフォームドコンセントが必要です。
図5 懸濁容器「けんだくボトル®」(株式会社シンリョウ)
図6 懸濁容器を用いた崩壊・懸濁と投与方法
引用・参考文献
1)倉田なおみ:簡易懸濁法Q&A Part2-実践編-、じほう、2009、p8-9.
2)岸本真、東園美千代:長期療養型病院における簡易懸濁法の導入と効果、 日本病院薬剤師会雑誌、42(9)、1231-1234、2006.
3)座間味義人、安藤哲信:光に不安定な薬は簡易懸濁で投与できる?、薬局、60(8)、2925-2928、2009.
4)倉田なおみ:簡易懸濁法Q&A Part2-実践編-、じほう、2009、p95-98.
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