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【連載】ナースのための消化器ケアに役立つ基礎知識

胃がん手術―ドレーン管理と観察のポイント

  • 公開日: 2017/1/29

ドレーン留置による疼痛や離床の遅れ、逆行性感染といったデメリット、また、「ERAS」の観点からドレーンを入れないことがあるかもしれません。ですが、縫合不全などの術後合併症を早期に発見でき、適切な処置にもつながることから、胃切除後にドレーンを留置するケースは少なくありません。ドレーンの排液状況や熱型、身体所見、炎症所見などの検査結果を総合的に判断することで適切な術後管理ができます。


【関連記事】
腹腔ドレーンの目的、種類、挿入部位
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▼ドレーン(ドレナージ)について、まとめて読むならコチラ
ドレーンとは|ドレーンの種類と管理


ドレーンの目的と種類

 消化器外科で留置されるドレーンは目的によって3つに分類されます。

情報ドレーン

 術後早期の腹腔内の異常[術後出血、消化液(腸液、胆汁や膵液など)の漏れなど]をいち早く発見するために行います。

予防的ドレーン

 リンパ節郭清後の浸出液や死腔内の貯留液、消化管吻合時に流出した消化液などの汚染物質を腹腔外に排泄させ、術後早期の腹腔内感染を予防するために行います。

治療的ドレーン

 汚染手術、腹膜炎手術などの手術時に留置するもので、遺残膿汁や壊死物質、細菌などを排除・洗浄するために行います。

 通常、胃がん手術後のドレーン留置は、情報ドレーン、予防的ドレーンの両方の目的で行われます。

ドレーンの留置位置

 幽門側胃切除術後のビルロートⅠ法再建では、右側より残胃十二指腸吻合部~肝下面~膵上縁(図1)、ルーY法再建では十二指腸断端~肝下面~膵上縁に留置することが通常です(図2)。ドレーンの位置がずれるのを防ぐために、ウインスロー孔を経由させることもあります。

ビルロートⅠ法再建説明図
図1 ビルロートⅠ法再建

ルーY法再建説明図
図2 ルーY法再建

 胃全摘では右側より肝下面~食道空腸部に留置します(図3)。脾臓や膵体尾部を合併切除した場合は膵尾部や膵断端からの膵液漏の危険性が高くなるため、左側より左横隔膜下へのドレーンが追加されることがあります(図4)。膵上縁のリンパ節郭清はほぼ必須ですので、いずれの術式でも膵上縁の浸出液を排液できるようにドレーンの位置を工夫します。

胃全摘術後のドレーンの留置位置1
図3 胃全摘術後のドレーンの留置位置1

胃全摘術後のドレーンの留置位置2
図4 胃全摘術後のドレーンの留置位置2

ドレーン排液の性状の変化

 術直後から術後1日目のドレーン排液の性状は、淡血性~淡々血性です。術中に使用した洗浄液も排出されるので200~300mLの排液がありますが、術後2~3日目には排液量が減少し、色も薄くなり漿液性(淡黄色)に変化します。

 また、術直後は短期間で排液の量や性状が変化する場合があるため、頻回な観察が必要です。排液の異常から以下のような合併症を早期診断することができます。当院では経験の浅いナースでもすぐに異常に気付けるように、排液の色調スケールを作成しています(図5)。

排液の色調スケール説明写真
図5 排液の色調スケール

ドレーン排液の異常から診断できる合併症

後出血

 術直後から術翌日は、ドレーンから出血がないかを確認します。血性排液が続くほか、急に排液が血性になったり、凝血塊が混入してきたら要注意です。

 血性排液が100mL/時以上持続し、バイタルサインに異常がみられる場合は、再開腹や血管造影による止血術が適応になります。直ちに主治医に報告をしてください。腹部膨満の有無、バイタルサイン(血圧、脈拍など)、貧血の程度の確認も必要です。また、術後しばらくしてからの出血は膵液瘻、縫合不全などの炎症に基づく血管の破綻の可能性があります。

膵液漏

 胃がん手術ではリンパ節郭清が必須ですが、膵臓の周囲にも大切なリンパ節が存在します。手術中に膵組織を傷つけ、膵液の漏出を認めることがあります。

 膵液瘻は術翌日から判明することが多くあります。膵液の組織融解能のため溶血を起こし、ワインレッド色の排液になるのが特徴で、ドレーン排液のアミラーゼ値は異常高値を示します。

 ドレナージ不良により膵液が周囲組織を融解して血管が破綻すると大出血が生じるほか、吻合部を障害すると遅発性の縫合不全を引き起こすことがあります。

 さらに、感染を併発すると腹腔内膿瘍となり長期の治療が必要です。そのため、ドレナージが極めて重要であり、持続吸引や持続洗浄を行うこともあります。

縫合不全

 術後4~7日目で診断されることが多く、透明な漿液性であった排液が混濁したり、浮遊物の混入がみられたら要注意です。消化液や胆汁が混ざっているのが認められれば、縫合不全や消化管損傷の可能性が高いと診断できます。食事開始後に判明することもよくあります。

 ドレナージが良好ならば保存的に軽快することも多いですが、ドレナージ不良の場合にはエコーやCTガイド下でドレーンを追加します。場合によっては再開腹によるドレーン留置が必要になります。

乳び腹水

 手術操作で比較的太いリンパ管が損傷されると、食事を開始してからドレーン排液が乳白色になることがあります。これは腸間から吸収された乳化した脂肪分がリンパ管から腹水中に漏出するためです。

 乳び腹水は吸収されにくく、脂肪分の摂取を続けていると治りにくいため、脂肪制限食への変更や、絶食する必要があります。

漿液性滲出液

 慢性肝炎および肝硬変の患者さんや、大動脈周囲リンパ節郭清を行った際、多量のリンパ液の排出が続くことがあります。ほとんどの場合、量は徐々に減少していきますが、持続する場合は血清タンパクの低下や循環血漿量の減少に注意が必要です。感染がなければドレーンを抜去して皮膚を縫合し、閉鎖することもあります。

腹腔内膿瘍

 縫合不全や膵液漏のドレナージが不良の場合、腹腔内膿瘍をきたすことがあります。発熱や腹痛を起こしますが、ドレナージ不良が原因のため、ドレーン排液には大きな異常を認めないこともあります。ドレーンを過信することなく、CTやエコー検査で腹腔内の液体貯留を確認することが重要です。必要であればドレーンの追加を検討します。

ドレーンの合併症、トラブル、インシデント

逆行性感染

 最近は閉鎖式のドレーンが主体ですが、術後数日後からは逆行性感染の危険性が出現してきます。特に持続吸引システムでない場合は、ドレーンバックが患者さんより十分低い位置にないと、逆行性感染の危険性が高くなります。そのため、ドレーンバックの位置にも注意します。

閉塞

 術後出血による凝血塊などでドレーンが閉塞すると、排液が増加しないことがあります。また、膵液漏に感染が生じると非常に粘稠な膿性排液となり、ドレーンが閉塞することもあります。

 また、ドレーンの固定があまく、ドレーンが屈曲したり、ねじれたりすることでも閉塞します。ドレーン排液が急に少なくなった場合にはドレーン閉塞の可能性も考え、固定状態をチェックすることが大切です。

 ドレーンを過信せず、患者さんの発熱、腹痛、腹満の増強やバイタルサインの変動がみられた場合は、すぐ主治医に報告します。

自然抜去、自己抜去

 高齢者や術後せん妄がある患者さんでは、自己抜去のほか、固定が不十分だと意図せずにドレーンがずれたり、自然抜去してしまうことがあります。しっかりと固定して、刺入部にマーキングをし、ずれや抜けがないことを確認します。

 その際、適切な部位に固定しないと体位や衣類の影響でドレーンが屈曲、閉塞してドレナージ不良となるため、固定部位にも注意が必要です。また、ドレーンの縫合固定部に過度の緊張がかかると患者さんが強い痛みを感じるため、ドレーンはある程度たわみを持たせて固定するようにします。

腹腔内への落ち込み

 開放式ドレーンを徐々に抜去する際、多くの場合において固定の糸を外します。ドレーンが腹腔内に迷入する事故を防ぐため、確実に安全クリップがドレーンにかかっていることを確認します。

【この連載の他記事】
簡易懸濁法とは?
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経腸栄養剤の選択の仕方

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