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【連載】今さら聞けない! 基礎看護技術をおさらい

術後創傷に対する創傷処置|目的・手順・観察項目

  • 公開日: 2021/6/19

術後創傷に対する創傷処置の目的

 創傷は、治癒に要する期間によって、急性創傷と慢性創傷に分類されます。1960年代頃から、手術創などの急性創傷では、創傷部位からの滲出液を創部に留める湿潤環境が治癒促進に有効であることが明らかになり、現在では湿潤環境下療法(moist wound healing)が一般化しています1)


 急性創傷の滲出液中には、活性化した血小板、血管から遊走する好中球やマクロファージなどの白血球、さらに細胞増殖因子が豊富に含まれ、感染防御や治癒に深く関係しています。


 術後創傷処置の一番の目的は、創部をできるだけ早く、そしてきれいに治癒させることです。そのために、創部を乾燥させることなく、滲出液を適切に管理し、創位で起こる細胞の活性化や遊走を妨げない、適切な湿潤環境を保持することが重要です。


術後創傷の治癒過程

 術後創傷の治癒過程は、真皮より深層(真皮、皮下組織、筋膜)と表皮とで、治癒過程が異なります。


 真皮より深層では、皮膚損傷直後に血小板が活性化し、サイトカインや増殖因子を産生します。その後、速やかに白血球が創部に集積し、創部の清浄化が起こる炎症期に移行します。炎症期は通常、術後3日程度で収束します。


 炎症期と一部オーバーラップする形で、血管新生やコラーゲン合成が起こる増殖期が進行し、3~6週間で瘢痕により治癒に至ります(図1)。組織が修復されて一定の強度を得るには、真皮では4週間、筋膜では6週間以上を要するため、それまでの期間は皮下や筋膜を縫合した糸により強度を維持する必要があります2)


図1 術後創傷の治癒過程(真皮より深層)



 一方、表皮は表皮細胞(ケラチノサイト)が創縁から増殖し、再生が起こります。通常の縫合創では48時間程度で創縁が接着するため、適切に縫合され、離開がない創傷であれば、術後3日目以降にシャワーなどが可能となります。


術後創傷に用いる創傷被覆材(ドレッシング材)

 以前は、創部の固定にガーゼを用いており、ガーゼ交換のたびに消毒液で消毒し、再度ガーゼをあてて固定していました。しかし、消毒やガーゼ交換が再生してきた表皮細胞に損傷を与えることがあるため、消毒は行わず、創部に固着するガーゼも用いなくなりました。


 先に述べたように、術後創傷の治癒には、術後数日間の湿潤環境(創部滲出液管理)が重要です。湿潤環境の形成・維持に軟膏と不織布を用いることもありますが、近年では、湿潤環境コントロールにすぐれているドレッシング材を使用することが多くなっています。


 術後は、出血や滲出液などを頻回に観察する必要があるため、一般的に透明なフィルムドレッシング材が使用されます。


 表皮を非吸収糸、真皮を吸収糸で縫合した後、滲出液が少ない創部にはポリウレタンフィルム、滲出液の量が中程度の場合は、吸水性を有するフォーム材とポリウレタンフィルムからなるドレッシング材や、ハイドロコロイドなどが用いられています(表)。創部にドレッシング材を貼付した様子を図2に示します。


表 術後創傷に用いるドレッシング材の例

タイプ(主材料)特徴製品例
ポリウレタンフィルム
・片面が粘着面の透明フィルム
・密閉性にすぐれるうえ、水蒸気や酸素を透過する
・滲出液が多い創には不向き
・3MTMテガダームTM トランスペアレント ドレッシング(スリーエム ジャパン)
・パーミエイド®S(日東電工)
・IV3000(スミス・アンド・ネフュー)
フォーム材とポリウレタンフィルム
・吸水性を有するフォーム材とポリウレタンフィルムからなる
・被覆材を剥がさず創部の観察ができる
・フィルム部分の粘着性がやや弱い
・オプサイトPOST-OPビジブル(スミス・アンド・ネフュー)
ハイドロコロイド
・外層がフィルム、内層が親水性コロイドを含む粘着面
・滲出液がやや多い創に適応
・カラヤヘッシブ・クリアータイプ(アルケア)
・3MTMテガダームTM ハイドロコロイドドレッシング(スリーエム ジャパン)

図2 創部へのドレッシング材貼付

ドレッシング材の貼付

写真提供:東北大学大学院医学系研究科 看護アセスメント学分野 准教授 菅野恵美先生


 頻繁なドレッシング材の交換は、表皮細胞の増殖や進展を妨げる可能性があることから、術直後の創傷では、2~3日間はドレッシング材を貼付したままとします。それ以降は、滲出液がみられなければ、創部をやさしくシャワー洗浄することが可能になります。通常、抜糸までは、創部の汚染を防ぐためにドレッシング材の貼付を継続します。


 ドレーンを留置している場合も、チューブを丸めた上からポリウレタンフォームのドレッシング材を貼付すれば、シャワー浴が可能です。


術後創傷に対する創傷処置の手順

 担当医師とともに、上皮化が完了する48時間を過ぎた術後3日目にドレッシング材を除去し、下記のケアを行います。


【必要部品】

・洗浄剤(泡立てた石鹸など)

・温めた生理食塩水(もしくはシャワー)

・防水シーツ

・ガーゼ

・ディスポーザブル手袋

・ビニールエプロン

・マスク

・ドレッシング材(洗浄後に貼付)

・廃棄物入れ(ビニール袋、膿盆など)


【手順】

①手指衛生を行った後、手袋、マスク、エプロンなど個人防護用具を身に着けます。

②患者さんに、術後創部の処置をすることを説明し、同意を得ます。

③創傷処置を実施しやすい体位に整えます。

④防水シーツなどを敷きます。

⑤ドレッシング材を愛護的に剥がします。ドレッシング材などの医療用テープを剥がすときは、皮膚とテープの角度を90℃以上にして、接着部に近い皮膚を押さえながら剥離します(図3)。 脆弱な皮膚の場合は、粘着剥離剤の使用を検討します。


図3 ドレッシング材の剥がし方

ドレッシング材の剥がし方

⑥創部周囲を洗浄剤で洗浄し、温めた生理食塩水でよく流します。

⑦ガーゼで水分をふき取ります。こすらずに軽く押さえるのがポイントです。

⑧創部を圧迫しないように注意して、新しいドレッシング材を貼ります。


術後創傷の観察項目、アセスメント

 創部は、ドレッシング材を貼付したまま連日観察します。透明なドレッシング材を用いることで、剥がすことなく観察することができます。


 以下の客観的、主観的観察項目について観察し、アセスメントします。


【客観的観察項目】

・創部の発赤・熱感・腫脹の有無

・滲出液の量と性状

・創縁の色調・接着状態

・ドレッシング材の状態(術後3日目まで、できる限り剥がさないようにします。ただし、ドレッシング材が剝がれている場合は、適宜交換する必要があります)


【主観的観察項目】

・創部の疼痛


 術後創傷は創部で炎症が起こります。そのため、術後数日は腫脹や滲出液がみられ、炎症期が終わる術後3日目頃より、創部からの滲出液が減少していきます。


 通常の経過では、粘性・膿性の滲出液、創の一部に限局した疼痛が生じることは少なく、そのような徴候がみられた場合は、創部の局所感染、皮下血腫などを考える必要があります。創縁同士の接着がうまく得られない場合には、ドレッシング材の変更や軟膏療法の適応となります。


【SSIのアセスメント】

 術後創傷において最も注意が必要な合併症は、手術部位感染(surgical site infection:SSI)です。


 SSIはアメリカ疾病管理予防センター(centers for disease control and prevention:CDC)により、『術後30日以内(人工物装着手術では1年以内)に発生する手術操作の及ぶ部位の感染』と定義されています3)


 SSIは、特に消化器手術(直腸、食道、肝胆膵など)での発生率が高く、創部の細菌汚染状況、手術時間、部位の異物などがかかわってきます。これらに加えて、高年齢、低栄養、糖尿病、肥満といった、患者さん側のリスク因子もあわせて考える必要があります。


 SSIを早期に発見するためには、創部局所の観察のみならず、ドレーンの排液の性状(膿性でないか)、全身のバイタルサイン(発熱など)、血液データの推移から判断します。


術後創傷における創傷処置時の注意点

 創部には自然治癒力が備わっているため、細胞が活性化しやすい湿潤環境を整えることが肝要です。特に術後3日目までは、ドレッシング材を無理に引っ張って剥がしたり、創部をゴシゴシこすって再生上皮を損傷することのないように、愛護的なケアを行います。


 また、先に述べたように、SSIなどは早期発見が重要であり、術前から患者さん側のリスク因子の有無を把握しておくことが大切です。


引用文献

1)丹野寛大, 他:急性創傷と慢性創傷の治癒過程. 菅野恵美,編.WOC Nursing 2018;6(7):5-12.

2)松村一, 他:術後創傷のアセスメントとケア. 菅野恵美,編.WOC Nursing 2018;6(7):35-41.

3)Mangram AJ,et al:Guideline for prevention of surgical site infection, 1999. Centers for Disease Control and Prevention (CDC) Hospital Infection Control Practices Advisory Committee. Am J Infect Control 1999;27(2):97-132.



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