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炎症性腸疾患(IBD)への理解を深める!

  • 公開日: 2025/2/23
ヤンセンファーマ株式会社が、炎症性腸疾患(IBD)に関する知識と、IBD患者さんの就労上の課題について理解を深めてもらうためのメディアセミナーを開催しました。ここでは、小林拓先生(北里大学北里研究所病院IBDセンター センター長)の講演「炎症性腸疾患の患者さんが働き続けるために」と、村崎仁美さん(ヤンセンファーマ株式会社 メディカルアフェアーズ本部)の講演「IBD患者さんの抱える就労における課題―調査結果より」をレポートします。


炎症性腸疾患の患者さんが働き続けるために

小林拓先生(北里大学北里研究所病院IBDセンター センター長)

炎症性腸疾患とは

 炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)とは、消化管に炎症が起こる疾患の総称です。感染性のウイルスや細菌など原因が明らかな「特異的炎症性腸疾患」と、原因がわからない「非特異的炎症性腸疾患」に大きく分けられ、一般的には、非特異的炎症性腸疾患のうち、特にクローン病と潰瘍性大腸炎をIBDと呼びます。

 クローン病と潰瘍性大腸炎のいずれも指定難病とされていますが、継続的な治療や日常のケアで良好な状態を維持することが目指せるようになってきています。

炎症性腸疾患の疫学

 IBDの患者数は、1970年代から現在に至るまで右肩上がりで増えています。また、多くの指定難病が年齢を重ねるに従って患者数が増えていくなか、IBDは30~40歳代の働き盛りの世代に多くみられ、就職から定年まで疾患を抱えて過ごす患者さんも少なくありません。患者さんが疾患を抱えながらも仕事を続けるためには、治療を継続できる環境を整えることが重要です。

炎症性腸疾患の原因

 はっきりとした原因はわかっていませんが、遺伝的素因があることに加え、衛生環境や食生活の欧米化などの環境要因によって腸内細菌が変化し、その結果として、免疫応答に異常を来たして発症すると考えられています。

炎症性腸疾患の症状

 クローン病は小腸・大腸を中心に、口から肛門まで食べ物の通り道のどこにでも炎症が起こる可能性があり、初期症状では下痢と腹痛が最も多くみられます。ほかに、血便、発熱、体重減少、肛門の異常を認めることもあります。一方、潰瘍性大腸炎は大腸を中心に炎症が起こり、直腸から口側に連続的に広がっていくのが特徴です。主な症状として、下痢や血便、腹痛、便意切迫が挙げられ、重症化すると発熱、体重減少、貧血などを伴うこともあります。

 これらの症状があることを患者さんは表出しにくく、人に知られたくないものです。トイレにすぐ行きたくなる、いつトイレに行きたくなるかわからない状況についても、非常に悩まれている患者さんがいるということを理解してほしいと思います。

炎症性腸疾患の経過

 多くの場合、症状が落ち着いている状態(寛解)と症状が悪化している状態(再燃)を繰り返しながら、慢性の経過をたどります。寛解を長く維持するためには、継続的な治療と定期的な通院が重要です。

炎症性腸疾患の治療

 IBDの治療目標は、腸管の炎症を鎮め、炎症のない状態を維持することです。治療としては、薬物療法や外科的手術などがありますが、治療は進歩しており、入院や手術が必要なケースは減少しています。

 薬物療法では、炎症を抑える作用をもつ薬剤が用いられます。内服薬や注射薬(点滴、自己注射)など多くの種類があり、患者さんの状態によって使い分けられます。また、クローン病については、栄養状態の改善や腸管の安静のみならず、腸管の炎症を抑える目的で栄養療法が実施されるなど、幅広いアプローチが行われています。

 ここでやはり強調しておきたいのは、治療を継続することの重要性です。何らかの理由で服薬や投与が続けられなければ悪化する可能性は高くなるため、継続的な治療が欠かせません。

日常生活上の注意点

 食事に注意が必要な患者さんや、特定のものを避けなければいけない患者さんもいて、特に喫煙は、クローン病の悪化や再燃と関係することが知られています。仕事や運動面でも、いろいろと気を付けている患者さんは多いですが、寛解期であれば制限が必要ない状態を作れるようになってきていますので、多面的に患者さんのことをみていきながら、日常生活上の課題を解決していくことを心がけています。

炎症性腸疾患に対する理解・協力・サポートの必要性

 IBDの治療はかなり進歩してきたにもかかわらず、思うように仕事が続けられない患者さんが依然として多いのが現状です。疾患を抱えながら仕事をすることに不安を感じて自ら退職してしまったり、排便・排ガスにまつわる悩みなどを抱えた結果、希望する形で仕事・学業を継続できなくなる患者さんもいます。

 IBDは、適切な治療によって寛解を維持できていれば、仕事や生活面において、特に制限が必要な疾患ではありません。我々医師は、疾患のコントロールは全力で行いますが、患者さんが思う存分活躍し、自身の人生を全うできるようにするためには、医師や患者さんだけでなく、社会全体の理解と協力、そしてサポートが必要です。

IBD患者さんの抱える就労における課題―調査結果より

村崎仁美さん(ヤンセンファーマ株式会社 メディカルアフェアーズ本部)

 IBD患者さんの就労実態を把握することを目的として、2023年11月8日~21日にインターネット調査を実施しました。調査対象は、潰瘍性大腸炎またはクローン病と診断され、薬物治療を受けながらフルタイムで就労されている 20~49歳の患者さんです。

約2人に1人が就職・転職活動中に苦労や困った経験

 約2人に1人の患者さんが、「就職・転職先に病気のことを伝えるべきか悩んだ」「体調を崩してしまい、就職・転職活動ができなかった」など、IBDにより就職・転職活動中に苦労や困ったことがあると回答しており、就職してからも、病状の悪化で3人に1人は「急な欠勤」を経験していることがわかりました。

 中等症以上の患者さんについては、3人に2人が「月1回程度またはそれ以上」の頻度で、仕事のスケジュール変更を余儀なくされているほか、治療と仕事を両立できているのは約半数程度で、3人に1人は仕事をあきらめたり、症状の悪化や再燃を気にして自分自身で仕事をセーブしたりしていることが明らかになりました。

上司であっても打ち明けにくい実態

 全体のうち8割の患者さんが、職場などでIBDであることを伝えていると回答しましたが、上司にIBDのことを伝えている患者さんは約4割にとどまり、上司であっても打ち明けにくい実態が垣間見えます。

自分らしく働くために求めること

 「自分らしく働くことができている」「やや自分らしく働くことができている」と回答した患者さんは全体の57.5%でしたが、中等症以上では43.8%にとどまりました。また、自分らしく働くために、全体の半数が周囲(職場・社会)の理解を求め、約4割が行政による支援を望むとしています。

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