第2回 小児胃瘻の現状とこれから【PR】
- 公開日: 2017/10/9
小児の胃瘻管理に積極的に取り組んでいる3名の小児外科医師が、それぞれの病院での取り組みの現状について講演しました。小児特有のメリット、そしてトランジションや在宅ケアなど今後の課題が明らかになりました。ここではその一端を紹介します。
長野県立こども病院における小児医療の現状と今後の課題
長野県立こども病院 高見澤 滋先生
当院では小児の胃瘻造設は、PEGではなく開腹手術で行うケースが多いのです。ここでは、小児における胃瘻のメリットを挙げてみましょう。
経鼻胃管・ED(elemental diet)チューブによる栄養法では、チューブが咽頭を刺激するため副鼻腔炎や呼吸障害、唾液の分泌過剰が生じることがあります。胃瘻栄養法ではこれらのトラブルを回避でき、さらにチューブによる嚥下のしにくさから開放され、経口摂取の促進につながります。呼吸状態が安定することで、胃食道逆流症の改善、嘔吐の減少といったメリットもあります。
栄養面では、経腸栄養剤だけでなく、半固形状流動食の注入が可能となることから、栄養状態の改善が期待できます。さらに、鼻腔にチューブを固定することがなくなるため、患児の顔がよく見えるというのも小児医療では大きなメリットです。これらのことから、摂食障害のある児には胃瘻栄養法は非常に有用であるといえます。
当院では2008年に胃瘻外来を開設しました。経腸栄養剤による合併症(胃食道逆流症、下痢・嘔吐、ダンピング症候群、胃瘻栄養後高血糖、微量元素・必須栄養素欠乏など)の対策には、半固形状流動食の有効性が認められています。そこで胃瘻外来では、ミキサー食を使用した半固形状流動食(以下、ミキサー食)短時間摂取法を積極的に導入しています。ミキサー食導入前(経腸栄養剤を使用)と導入後の効果を評価する調査を、89人の患児を対象に実施しました。便性状の変化では、水様便から泥状便であった児が導入前は53人だったのに対し、導入後は13人に減少し、便性が改善しました。この結果について、経腸栄養剤に不足していた食物繊維が補充されたからではないかと推測しています。ほかにも肌つや、髪質(色・太さ)、表情の改善、投与時間の短縮による食事以外の時間の増加、入院回数の減少などの効果が認められています。さらに、導入前と比べてプレアルブミン値が有意に上昇し、栄養状態の改善がみられました。
これまで約150人にミキサー食を導入しましたが、今後も可能な限りミキサー食を進めていく方針です。今後の課題として、学校や福祉事業所におけるミキサー食の普及や行政への働きかけ、ミキサー食投与に適したデバイスの開発などを考えています。
高槻病院における小児医療の現状と今後の課題
愛仁会高槻病院 津川 二郎先生
当院は成人医療とともに総合周産期母子医療センター、NICU、PICU、小児病棟を有し、周産期、小児医療にも力を入れています。低体重児の出生が多く、なかには500gという新生児もいますが、積極的に救命し、生存率が非常に高いのが当院の特徴です。しかしながら、救命した児は何らかの障害をもちながら成長していくことも多いのです。
重症心身障害児、重症染色体異常児に対しても、親が望む場合には積極的な治療を行っています。その結果、気管切開、胃瘻造設手術が増加、NICUの長期入院ならびに慢性的なベッド不足という問題が生じており、安全な在宅医療への移行が課題となっています。
在宅医療には看護師の積極的な介入が必要で、当院では看護師による小児在宅外来が開設されています。一方、訪問看護においては、高齢者のニーズに合わせた整備が中心にあり、まだまだ小児の受け入れ先が少なく、訪問看護ステーションの整備や連携も課題です。当院では大阪府のバックアップを受けて、ほかの4つの高度専門病院とプロジェクトチームを作り、小児在宅医療の促進を図っています。
さらに全国的な問題として、小児期医療から成人期医療への移行(トランジション)があります。児が成人しても、一般の診療科で受け入れてもらえない、また患者さん側も長年の関係性から小児科で診てもらいたいという希望が強く、なかなか成人期医療に移行できないのです。胃瘻の管理においても、そうした問題が起きています。
そもそも当院の小児の胃瘻管理では、半固形食、ミキサー食の導入が進まず、経腸栄養剤の投与が多いことも大きな課題です。今後はトランジションも見据えて、小児科と成人の医師を交えた胃瘻管理のプロジェクトチームを作っていきたいと考えています。
小児の胃瘻管理に関する取り組みについて
神戸大学医学部附属病院 尾藤 祐子先生
小児の胃瘻は成人とは異なる意味合いをもっており、「児が成長するために必要な栄養摂取の方法」 といえます。
小児に特徴的な点としては、①術式を問わず全身麻酔で行うこと(PEGも全身麻酔で施行)、②体幹変形がある場合、造設部位の決定や手術に工夫がいること、③脳性麻痺では側弯による胃食道逆流症が起こりやすいこと、④呑気症の場合に胃の減圧、ドレナージにも使えることなどが挙げられます。
在宅医療においては、小児の場合、高齢者と比べて患者数は少ないですが、人工呼吸管理や胃瘻管理など医療密度の高い患児が多いという現実があります。また、重症であっても年齢が来たら、教育関係者との連携が必須であることも高齢者との大きな違いです。
我々は、胃瘻患児対象の地域連携クリニカルスを作成し、2010年より運用を始めました。胃瘻造設術後の退院後の地域連携パスは、手帳形式の「胃瘻ケア手帳」となっており、患児家族が管理し、各医療機関受診時に持参することで、情報共有ができるようにしています。これにより患児の情報をひとつにまとめることができるようになり、兵庫県神戸市地域の多施設間の医療連携体制が構築されてきています。加えて、医師、看護師、管理栄養士、社会福祉士、養護教諭などが参加する地域連携パスカンファレンスも年に2~3回開催されています。
胃瘻管理をはじめ在宅医療の質向上のためには、かかわる職種が知識と経験値を高めていくことが重要です。そのためにも地域連携の取り組みを続けていきたいと思っています。