脳卒中急性期の栄養管理 嘔吐・逆流に対する乳清ペプチド消化態流動食の有用性【PR】
- 公開日: 2018/3/5
POINT
●早期経腸栄養の有用性は各種ガイドラインで示されており、脳卒中急性期も同様に早期経腸栄養が有用である。しかし、逆流・嘔吐を懸念するあまり積極的な開始がなされていない場合が多い。
●脳卒中急性期の絶飲食・点滴での栄養管理により、消化管の廃用性機能障害や栄養状態の低下、免疫能の低下をきたし、予後不良となる。
●脳卒中急性期に適した開始流動食として、①吸収効率の良い乳清ペプチド消化態、②急性期のタンパク異化亢進とリハビリの早期介入に対処すべく、タンパク含有が優れた栄養剤が望ましい。
事例紹介
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 脳神経外科
はじめに
当院では、脳卒中急性期に生じる経腸栄養のトラブルを回避しつつ、スムーズなエネルギーアップを図れるよう経腸栄養開始時の流動食を見直しました。その変更前後の結果をお示しします。
方法
入院48時間以内に経腸栄養を開始した急性期脳卒中患者52例〔従来使用流動食:半消化態流動食、1.0kcaL/mL=半消化態流動食群〕および42例〔流動食見直し後:乳清ペプチドべース消化態流動食、1.5kcaL/mL=乳清ペプチド消化態流動食群〕を後方視的に検討しました。なお、投与スケジュールは、いずれの群においても100mL-150mL-200mLとステップアップしました。評価項目として、開始までの日数、胃内残量(100mL以上)の発生率、嘔吐の発生頻度を比較しました。
結果
両群間の患者背景と経腸栄養開始までの日数に差は認めらませんでした(1.25日vs1.29日)。100mL以上の胃内残量の発生率については、乳清ペプチド消化態流動食群のほうが少ないという結果になりました(6.4% vs 1.6% 図1)。さらに、乳清ペプチド消化態流動食群において、嘔吐の発生率が低くなりました(7.1% vs 0.8% 図1)。これらに関連して、誤嚥性肺炎に用いていた抗生剤の使用日数割合を調査したところ、乳清ペプチド消化態流動食群において少ないことが明らかになりました(図2)。
考察
胃の中で固形化しない乳清ペプチド消化態流動食は胃排出時間が短く、嘔吐のリスクが低いことから、誤嚥性肺炎の発生リスクの低下による抗生剤減量が実現できたと思われます。また、高濃度で吸収効率が良く、下痢などの不耐症も少ないとされることから、栄養状態の良好な立ち上がりによる予後の改善が期待できます。これらの特徴により、乳清ペプチド消化態栄養剤は脳卒中急性期の経腸栄養開始時に適していることが示唆されました。
Q. そもそも、どうして流動食を変更したのでしょうか? 選択のポイントは?
A. 吸収効率のよい乳清ペプチド流動食を開始流動食として使用することで、スムーズな経腸栄養管理を行い、栄養状態を早期に改善し、リハビリテーションにもつなげていくことを目指しました。
当初、脳卒中急性期の患者さんに対し、いわゆるスタンダードな半消化態流動食を用いて、24 ~ 48時間以内での経腸栄養の導入を進めていました。ところが、不耐症の発生などにより栄養状態が改善しない例が意外と多く、早期経腸栄養を実施してもリハビリテーションへのスムーズな移行については、思ったほど効果がみられないと感じていました。いわゆる侵襲期というのは普段とは全く違う状態ですから、経腸栄養の内容を変える必要があるのではないかと考えました。
そこで、胃の中の滞留時間が短いものをコンセプトに、消化態栄養である乳清ペプチド流動食に変更してみました。乳清は元々筋肉合成に必要なBCAAなどを多く含むタンパク源ですが、ペプチドレベルまで分解した吸収速度が速い流動食のみ選びました(図3、表1)。胃内容の滞留時間が長いとその時間に比例して逆流、嘔吐の危険が高まり、誤嚥性肺炎や窒息につながるおそれがありますが、消化態栄養を用いることでこれらの不安を取り除くことを期待しました。
Q. 乳清ペプチドと胃排出の関係について、もう少し詳しく教えてください。
A. 乳清たんぱく質はヨーグルトの上澄み液に含まれる水溶性の乳たんぱくです。
一般的な流動食に使用されている乳たんぱくであるカゼイン(ヨーグルトの沈殿している方)と比較して、①酸性下でも沈殿しない、②消化吸収が速やか、③BCAA、特にロイシンを多く含むという特徴があります。
牛乳のたんぱく質中、乳清たんぱく質は20%しか含まれませんが、母乳には、60%も含まれています。
これは乳児の未熟な消化機能であっても、良質なたんぱく質を十分に補えるように構成されているためと考えられます。経腸栄養のための流動食のイメージとして、乳清ベースの流動食は母乳、従来タイプのカゼインベースの流動食は牛乳に相当すると考えます。
全身麻酔手術のための術前絶飲食ガイドライン(日本麻酔科学会)においても飲食可能時間として、“牛乳や一般流動食の摂取は麻酔導入6時間前まで”とされている一方、“母乳の摂取は麻酔導入4時間前まで安全”とされています。これは、母乳由来のたんぱく質、つまり乳清たんぱく質のほうが胃の滞留時間が短く嘔吐リスクが低いことが背景になっています。
乳清ペプチドは、乳清たんぱく質をさらに酵素分解したもので、胃液などによるたんぱく変性を受けにくく、より消化吸収がよいものになります。
脳卒中急性期において、頭蓋内圧亢進などにより逆流・嘔吐のリスクを懸念する場合、乳清ペプチド消化態流動食を選択するほうが、胃が空っぽの時間を確実に長くして、そのリスクを下げることができます。
Q. 脳卒中急性期の患者さんにとって、経腸栄養が重要なのはなぜでしょうか?
A. 絶飲食の長期化は、消化管の廃用性機能障害をもたらし、回復の遅れにつながります。解決策は早期からの経腸栄養の実施です。
「重症患者に対する栄養療法ガイドライン(日本集中治療医学会)」では、治療開始後24 ~ 48時間以内に経腸栄養を開始することが推奨されていて、ICUに入室している患者さんには、経腸栄養が積極的に導入されています。ところが脳神経外科領域では、絶飲食で中心静脈栄養による急性期管理が長らく行われてきました。絶飲食は、頭蓋内圧亢進による嘔吐や誤嚥の危険を回避する手段でもあったのです。
一方で、絶飲食が続くと消化管の廃用性機能障害がみられるようになります。こうなると、経腸栄養や経口摂取を始めても、胃内容の滞留や逆流が起こり、増量がなかなか進まず、栄養状態が改善せず、患者さんの回復期間を遷延させます。また、腸を使用していないと全身のリンパ球機能が低下し感染性合併症の発症リスクが上昇します。
これらを防ぐには、絶飲食の期間をできるだけ短縮し、早期からの経腸栄養を行っていくことが必要です。「脳卒中治療ガイドライン2015」では、脳卒中発症後7日以上十分な経口摂取が困難と判断された患者さんには、発症早期から経腸栄養を開始することが勧められています。
Q. 実際の経腸栄養投与はどのように実施されているのでしょうか?
A. 経腸栄養管理を行う看護師が中心となって、経腸栄養プロトコールを作成。
実際に運用しながら、随時ブラッシュアップしていきました。
2014年9月よりプロトコールを作成し、翌年1月から、まず自分のチームから運用を開始しました。実際に使ってみての問題点を修正しながら、現在の形にしていきました(図4)。今現在の投与量を高さで示すことで、ビジュアルで把握できるようにしました。チェック項目を、①胃内残留量100mL以下、②嘔吐なし、③下痢なし、④排便(King’s stool合計点数)の4つに絞って、クリアできたら次の段階に進むようになっています。病態に応じ無理なく安全に設定エネルギーを投与できるため、看護師からのドクターコールが減りました。結果をうけて、脳神経外科内のほかの医師も取り入れるようになっています。