オール岩手で進める! より良い母子ケアのための助産師の活躍と支援【PR】
- 公開日: 2018/2/9
少子高齢化や地方の過疎化が進む日本では、地域医療への関心が日毎に増している状況です。
そうした中、岩手県では、北海道に次ぐ面積の広さや東日本大震災の被災経験から、医療の地域偏在や人材確保・育成などの課題についてさまざまな取り組みを行っています。
岩手県立大学で、周産期医療や母子保健について研究し、地域で活躍する助産師の育成と実践能力の向上などに取り組む福島裕子先生に、県を挙げて行う岩手県の地域医療対策を聞きました。
お母さん1人の出産数は多め、産む場所は減少
岩手県では地方共通の課題である少子高齢化や過疎化が進む中、医療の地域偏在や医療人不足については、早くから県を挙げて取り組んでいます。
県内の出生数は減少傾向にあり、平成26年度には8千人台になりました。ただ、合計特殊出生率は全国平均より高めで、1人のお母さんが出産する子どもの数は横ばいとなっています。
一方で、岩手県内の助産師の就業人数は、平成22年と24年でともに349人だったのが、28年には389人と増加しています。ただ、助産師の就業場所は盛岡などの都市部に集中しています。
問題は、産科の集約化により分娩取扱施設が減っていることです。分娩取扱施設数は、病院では平成22年、29年ともに12か所と維持していますが、診療所では22年に28か所だったものが、29年には19か所に減っています。
活動し、活躍する岩手県の助産師たち
分娩取扱施設が減少し、“お産難民”などの言葉がクローズアップしたころ、岩手県では、岩手県周産期医療情報ネットワーク「いーはーとーぶ」の構築や、院内助産システムや助産外来などさまざまな取り組みがなされました。
市内に分娩取扱施設がない遠野市では、公設公営の助産院を設立し、インターネット回線を活用した遠隔の妊婦健診を実施しています。出産場所が減少する中、助産師たちはその専門性を発揮し活躍してきました。
東日本大震災の際も、県内の助産師たちは他団体と連携しながらいち早く活動し、被災地の母子の内陸部への受け入れ支援、避難所の母子支援に活躍しました。私も内閣府の「東日本大震被災地における女性の悩み・暴力相談事業」に参画し、仲間の助産師たちと被災地の女性支援や相談活動をさせていただきました。震災から7年が経過しますが、岩手県の助産師の一部は、被災地での定期的なママサロンや内陸に避難したママたちのサロンなど、いまでも復興支援を継続しています。
また岩手県の助産師は、地域や学校現場でも、多くの命の教育や性の健康教育をしています。私が顧問をしている「ハッピーバース研究会」では、メンバーの助産師が年間100件以上学校などで講演活動をしているほか、定期的に「助産師さんの母&娘ハッピーサロン」という月経サロンも開催しています。
これからは、妊娠・出産・育児への“切れ目のない支援”のよりいっそうの充実が求められ、産後ケアなど助産師の活躍の場は病院施設から地域へと広がっています。岩手県でも、花巻市で1人の助産師が県で初の産前産後ケアをスタートさせています。地域のママたちのために産前産後ケアに力を注ぎたい助産師たちも増えてきています。
岩手県は四国4県に匹敵する広大な面積を有する県ですが、助産師たちの結束力は強いと感じます。そしてどの助産師も勤勉で実直で、内なる情熱をもって活躍をしています。
岩手県出身で、他県でキャリアを積んでいる助産師の皆さまにも、ぜひ岩手県に戻ってきて、子育て世代の包括支援に活躍していただきたいと思います。
助産師の実践能力を上げる取り組み
情熱をもって活躍している岩手県の助産師たちの後押しをするため、岩手県立大学看護学部では、さまざまな研究や研修を実施しています。
岩手県の周産期医療の危機が注目され始めた10年前には「助産師活動支援プロジェクト in いわて」を立ち上げ、岩手県内の助産師の意識調査や岩手県の助産師活動を支援する研修会やフォーラムを開催しました。また、広大な面積の岩手県では「母体搬送」が重要になるため、そのときの助産師の連携を考える「周産期医療システム内の助産師連携に係る検討会」を企画し、宿泊の研修会で、母体搬送を経験する妊産婦が少しでも安心できる連携を県内の助産師たちと話し合ったこともありました。
平成20年からは、毎年「岩手県助産実践能力強化研修」に取り組んできました。この研修は臨床経験5年以上の助産師を対象にしたもので、助産外来や院内助産システムで自立/自律して助産診断・助産ケアを行うために、経験で積み上げてきた実践能力をさらに強化することを目的としています。
助産外来をもつ病院や都市型の病院、有床助産院など県外の先進的な施設に数日間行って、実践的な研修をしてもらいます。この研修の特徴は、参加する助産師の課題意識と意欲により研修計画を主体的に立案すること、そして実践型研修のあとの報告会を2回継続して実施し、研修者同士の交流・連携を深める工夫をしたこと、そして病棟管理者の推薦状や評価からをもらうことです。
こうして研修で得たものを着実に実践に結びつけてもらえるように工夫をしました。この研修によって、新しい母乳ケアを病棟で実施したり、助産外来での保健指導を充実させたりと、助産ケアの質向上に書く実につなげていくことができたと思います。
このように岩手県立大学看護学部では、岩手で活躍する助産師の実践能力を支援するためのリカレント教育を充実させ、最新のトピックなどさまざまなテーマでの研修会を実施しています。
助け合いの精神が根づく岩手の県民性
国の「健やか親子21」(第2次)では、妊産婦から産後までの切れ目がないケアの充実がうたわれており、今後、助産師の活動の場は、地域の産後ケアにも広がっていくはずです。これからの岩手県では、ますます助産師への期待が高まっています。そのため県内で活躍する助産師を増やすことが重要課題だと考えています。
次年度、岩手県立大学看護学部では、岩手県保健福祉部と協働して、岩手県における助産師支援の在り方を明確化するための調査に取り組む予定です。この調査によって、助産師が偏在化する岩手県において、助産実践能力の質を担保するための研修システムの構築や支援について、行政と一緒に考えていくことを検討しています。
岩手県民は、東日本大震災のときにも助け合い、人と人とのつながりが温かく、思いやり・優しさがある県民性だと、私はつねづね感じています。そのような県で働く助産師だからこそ、連携を深め、協力し合い学びあう、発展しあう、そんな助産師たちの“力”があるのだと思います。
県外でさまざまなキャリアを積んだ助産師の皆さんに、岩手の周産期医療に目を向けていただき、その能力を存分に発揮して、地域で活躍してほしいと願っています。