希少・難治性疾患患者のQOL向上を目指して 「つながるちから ~Take Action Now~」
- 公開日: 2018/4/7
2018年2月1日、大手町サンケイプラザにて「2月28日は『Rare Disease Day 2018』(世界希少・難治性疾患の日) 希少・難治性疾患患者のQOL向上を目指して『つながるちから~Take Action Now~』」をテーマにプレスセミナーが行われました。講演は千葉県こども病院 代謝科部長 村山圭先生と東北大学東北メディカル・メガバンク機構バイオバンク事業部 統合データベース室 室長・准教授 荻島創一先生です。その様子をレポートします。
さまざまな小児希少疾患
まず、「小児希少疾患を取り巻く現状 ミトコンドリア病などを例として」をテーマに村山先生が講演されました。
DNAにはMt(ミトコンドリア)DNAと核DNAがあり、ミトコンドリア蛋白はこれらの2重支配を受けています。そのため、ミトコンドリア病はMtDNAの異常によるものと、核DNA上の遺伝子の変異によるものとがあります。さまざまな症状を呈すのが特徴です。以前は診断がつかず原因不明と言われていましたが、現在は生化学診断や遺伝子診断が可能となりました。次に説明する疾患は、代表的なミトコンドリア病のうちの2つです。
リー(Leigh)脳症は、脳幹または大脳基底核病変の症状・徴候があり、運動・知的発達障害を伴う進行性神経疾患です。2014年に、Leigh脳症の原因であるECHS1遺伝子が発見され、バリン代謝に異常があるということが分かり、治療としてバリン制限が行われるようになりました。
IARS異常症は虚弱子牛症候群と呼ばれる黒毛和種牛との共通遺伝病で、日本、ドイツ、オーストラリアが協力し病態解明に取り組みました。その結果、亜鉛に欠乏があることが分かり、治療で亜鉛の投与がされています。
不明な点が多い希少疾患の情報を世界で共有することで、疾患診断だけでなく、治療にも活かすことができるようになりました。
新生児スクリーニングの重要性
ライソゾーム病(LSD)は、ライソゾーム内の酸性分解酵素の遺伝的欠損によりさまざまな症状を呈します。治療は酵素補充療法で、早期診断・早期治療が重要です。千葉県では全国に先駆けてLSDのスクリーニング体制を構築するなどし、早期発見に努めています。治療可能な希少疾患は、早期診断・早期治療が原則なのです。
続いて、荻島先生が「希少疾患領域の国際連携の現状」をテーマに講演されました。
新たな希少疾患診断方法
2018年1月現在、Johns Hopkins Universityの遺伝性疾患のカタログであるOMIM(Online Mendelian inheritance in Man)には5175もの疾患が記載されていますが、世界ではいまだに多くの診断不明の患者さんの相当数が希少疾患に罹患していると考えられています。また、正確な診断を得るためには時間を要しています。
しかし近年、シーケンス技術が進歩し、疾患原因遺伝子を特定しなくてもエクソーム解析や全ゲノム解析により、確実にゲノム解読ができるようになりました。クリニカルシーケンスの診断は、
1.変異解析
2.フィルタリング
3.変異への注釈付け
4.解釈・レポート作成
5.診断・治療
という流れで行われます。そのため、解析をするためには多くのデータベースが必要になります。
構築される希少疾患データベース
アメリカではデータベースの整備が進み、未診断疾患ネットワーク(Undiagnosed Diseases Network)というものが作られています。データシェアリングで病的バリアントデータベースが構築され、これらは一般に公開されており誰でも閲覧することができます。
一方、日本では2015年より未診断疾患イニシアチブ(IRUD)というプロジェクトが開始し、日本医療研究開発機構の主導のもと未診断疾患を診断するための体制が構築されました。IRUDでは、各地域に拠点病院やそれに連携する協力病院を置き、集めたデータをもとにIRUD診断委員会によるカンファレンスやデータベースの構築などを行います。また、東北大学の東北メディカル・メガバンク機構では、医学・生命科学の促進の貢献することを目的とし、日本人で健康な人たちのゲノム情報が開示されています。
情報を世界中で共有するために
世界中で希少疾患の症例情報を共有するには、正確な記述をすることが重要となり、そこで使用されるのがHPO(Human Phenotype Ontology)です。HPOとはヒト疾患における異常な症状を記述する統制語彙・オントロジーのことで、診療テキストの中のHPO用語を自動認識しキュレーションすることで病名・症状を標準化し、正確に記述することができます。国内外のゲノム医療に関する研究で利用されており、HPOを使用したツールやアプリケーションが多く存在しています。
Global Alliance for Genomics & Healthでは、実際に国際的な交換、共有が可能になり、国際的な病的バリアントや症状の交換による希少疾患研究が進んでいます。変異が見つかったとしても、それがどのような異常なのか、ということを知らなくてはならないのです。
最後に、日本各地のRDD実行委員会よりRDD2018の活動紹介がありました。RDDの活動は日本でも年々広がりをみせ、開催地・参加人数も増えつつあります。RDD実行委員会のメンバーは、健常であること、そうでないことに関係なく、まずは参加してみてほしいと話されていました。
世界希少・難治性疾患の日(RDD:Rare Disease Day)とは
2月の最終日は世界希少・難治性疾患の日(RDD:Rare Disease Day)です。
Rare Disease Day (世界希少・難治性疾患の日、以下RDD)はより良い診断や治療による希少・難治性疾患の患者さんの生活の質の向上を目指して、スウェーデンで2008年から始まった活動です。日本でもRDDの趣旨に賛同し、2010年から2月最終日にイベントを開催しています。 (RDDホームページより抜粋)