1. トップ
  2. 看護記事
  3. 注目ピックアップ
  4. 精神科病棟における下剤に頼りすぎない排便コントロールの試み【PR】

精神科病棟における下剤に頼りすぎない排便コントロールの試み【PR】

  • 公開日: 2018/7/9
  • # 注目ピックアップ
  • # 精神看護
  • # 排泄ケア

目的

 小曽根病院は557病床を有する精神科病院です。新館4階病棟は、精神科一般病棟で、患者数は55名。平均年齢は70歳代と高齢化が進み、長期臥床の人が約半数を占めています。

 精神科病棟では、抗精神病薬の副作用や長期臥床での運動量の低下などによる便秘が切実な問題で、便秘が原因のイレウスを発症する患者もいます。下剤による排便コントロールが必須と考えられ、これに伴う下痢症状は仕方のないこととされてきました。そのため、多くの場合日常的に緩下剤が使用され、本来頓用である刺激性下剤が継続的に使用されることも少なくありません。本院においても、各種下剤の使用量は多く、下痢状態が継続している患者が散見されました。それらの患者は、水様便によって寝具や寝衣が汚染され、皮膚トラブルが生じやすい環境となり、身体的苦痛、経済的負担が増し、看護師のケア負担増にもつながっていました。さらに、ベッドサイドでの独特の便臭にも問題を感じていました。また、刺激性下剤であるアントラキノン系下剤の長期使用による大腸メラノーシスを発生するリスクが指摘されており(図1)、懸念事項となっていました。

大腸メラノーシス
「日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会 編: 慢性便秘症診療ガイドライン 2017,p.36.2017.南江堂」より許諾を得て転載

 こうした状況の中、改善策を模索していたところ、ある流動食の情報を得ました。この流動食には、食物繊維のグアーガム分解物(PHGG)が多く配合されています。PHGGは下痢を防ぐものとして欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)のコンセンサス会議にて推奨度Aの評価を得ています。また、PHGGは高発酵性であり、発酵により生じた短鎖脂肪酸が、下痢も便秘も改善するだけではなく、腸管全体の健全性を高めるといわれています。これを踏まえ、下剤に頼りすぎることのない排便コントロールを試みるためPHGG配合流動食を用いた栄養療法に取り組むことにしました。

試験方法

 対象は、多量の水様便が続いている長期療養患者6例。実施期間は、2017年7~9月までの3カ月間。使用したPHGG配合流動食は、本来は経鼻胃管や胃ろうから摂取するものですが、経口摂取も可能であることから、管理栄養士との相談のもと、日々の食事と置き換える形で取り入れることにしました。全粥や流動食など、PHGG配合流動食1パック(400kcal)に相当するエネルギーの食事と置き換え(被験者に応じて1~2パック/日)、これまでと同様の食事時間に摂取してもらいました。

試験結果

 排便のたびに、便性状と便臭を観察。さらに、1日ごとの下剤投与量、浣腸回数と排便周期、オムツ代についても記録しました。

 便性状はブリストルスケールを用いて観察しましたが、便臭に関してはスケールがなかったため、独自に「おぞね便臭スケール」(表1)を作成しました。便臭に着目したのは、同室の患者や面会家族への影響が大きく病棟内で問題視されていたこと、目視できない腸内環境を評価する1つの基準になると考えたためです。

表1 おぞね便臭スケール

評価 状態
5 廊下にいても感じられる不快な臭い
4 部屋に入ると感じる不快な臭い
3 オムツを開けた時点で感じる不快な臭い
2 オムツを開けた時点で感じるやや不快な臭い
1 正常な便臭

 便臭は、取り組み開始約2週間から改善し始め、便臭スケールでは、1例を除きほぼ正常な便臭となりました(表2)。

表2 おぞね便臭スケール評価

対象者 開始前 開始後
Aさん 3〜1 ほぼ1
Bさん 3〜2 ほぼ1
Cさん 3〜2
Dさん 3〜2
Eさん 3〜2 ほぼ1
Fさん 3〜2

 便性状をみると、導入開始から3カ月後の9月のブリストルスケールの平均値は、導入直後の7月と比べて全例「普通便4」に近づく傾向がみられました(表3)。水様便が泥状便以上になったことで、寝衣やシーツなどの汚染が減少しました。

表3 便性状の変化(ブリストルスケール月平均値

対象者 Aさん Bさん Cさん Dさん Eさん Fさん
7月 5.9 5.5 6.2 6.6 6.3 6.2
9月 4.4 4.1 5.8 6.4 6.0 5.0

 刺激性下剤使用量は、全例で減少していきました(図2)。排便回数は水様便の改善に伴い減少し、下剤ではなく浣腸で
の排便が増えました。

刺激性下剤使用量

 オムツ交換の頻度も減り、オムツ代は、1例を除き、平均して月約5,250円減となりました。

事例

考察

 以上の結果により、食事の一部をPHGG配合流動食に置き換える栄養療法は、精神科病棟入院患者の排便コントロールに役立つことが示唆されました。

 さらに、病棟スタッフ全員で便性状や排便周期などを観察したことで、下剤に頼りきりだった排便コントロールから、腸内環境改善による排便コントロールへと意識の変化がみられ、栄養療法への関心も高くなりました。

 長期臥床の患者の場合、水様便によって背部まで汚染されることが多く、寝衣からシーツまで交換していましたが、PHGG配合流動食によって便が泥状便以上になることで、オムツだけあるいは防水マットだけの交換で済むようなりました。これにより排便ケアの時間が40 ~ 50分/日程度短縮されたと実感しています。その時間を、患者とのコミュニケーションやケアプランの作成など使うことができるようになり、ゆとりあるケアが展開できるようになりました。

 また、血液検査の結果、多少ながら対象者のアルブミン値が改善していました。これは下痢の回数が減少したことで、栄養素の流出や体力の消耗が抑えられたためと推察されました。全身状態の改善も期待できるかもしれません。

おわりに

 対象者6例のうち、5例は現在もPHGG配合流動食を継続しており、排便コントロールは良好です。今回の結果を受けて、新たにこの栄養療法を開始した患者さんもおり、期待をもって経過をみています。

 今後は、PHGG配合流動食摂取の有無による比較検討を行い、栄養療法の有用性をさらに検証していきたいと考えています。

この記事を読んでいる人におすすめ

カテゴリの新着記事

<オンラインセミナー>訪問看護で必要なスキンケアの知識とケアの実践【PR】

訪問看護の現場である在宅では、病院とは異なり限られた物品でケアを行います。今回のオンラインセミナーでは、訪問看護で求められる在宅療養者のスキンケアの基本に触れ、具体的なスキンケアの方法、さらに在宅スキンケアに必要なことについて、詳しく紹介していただきました。その模様をレポート

2022/5/16

アクセスランキング

1位

簡単! 楽ちん! 点滴の滴下数計算 2つの方法

皆さんご存知の通り、点滴指示書には様々な書き方があります。 よくあるパターン ●流速が書かれている (例)「○○輸液500ml 60ml/h」 ●1日の総量が書かれている (例)...

251296
2位

サチュレーション(SpO2)とは? 基準値・意味は?低下

*2019年3月11日改訂 *2017年7月18日改訂 *2021年8月9日改訂 発熱、喘息、肺炎……etc.多くの患者さんが装着しているパルスオキシメータ。 その測定値である...

249818
3位

術前・術後の看護(検査・リハビリテーション・合併症予防な

患者さんが問題なく手術を受け、スムーズに回復していくためには、周手術期をトラブルなく過ごせるよう介入しなければなりません。 術前の検査  術前は、手術のための検査と、手術を受ける準備を...

249741
4位

看護問題リスト・看護計画の書き方|看護記録書き方のポイン

ここでは一般的な看護記録を解説しています。また、看護診断名にNANDA-I看護診断を使用しています。実際の記録は院内の記録規定に従いましょう。 【関連記事】 *看護計画の「観察項目...

249544
5位

心電図でみる心室期外収縮(PVC・VPC)の波形・特徴と

心室期外収縮(PVC・VPC)の心電図の特徴と主な症状・治療などについて解説します。 この記事では、解説の際PVCで統一いたします。 【関連記事】 * 心電図で使う略語・...

250751
6位

採血スピッツ(採血管)の種類・順番・量~血液が足りなくな

多くの看護師が苦手な「針モノ」の手技。今回は主なスピッツの内容と必要量を紹介します。 【関連記事】 * 点滴と同じ腕(末梢から)の採血はOK? NG? * 血管が見えない患者...

250750
7位

吸引(口腔・鼻腔)の看護|気管吸引の目的、手順・方法、コ

*2020年3月23日改訂 *2017年8月15日改訂 *2016年11月18日改訂 ▼関連記事 気管切開とは? 気管切開の看護 吸引とは  気管吸引ガイドライ...

250001
8位

【血液ガス】血液ガス分析とは?基準値や読み方について

血液ガス分析とは?血液ガスの主な基準値 血液ガス分析とは、血中に溶けている気体(酸素や二酸化炭素など)の量を調べる検査です。主に、PaO2、SaO2、PaCO2、HCO3-、pH, ...

249974
9位

【図解】ベッドメイキングの手順とコツ~根拠がわかる看護技

ベッドメイキングには、新しくベッドをつくる方法と患者さんが寝ている状態でベッドをつくる(シーツ交換)方法があります。ここでは基本形として、新しくベッドをつくるための手順を紹介していきます。 ...

249989
10位

【図解】膀胱留置カテーテルの導入手順~根拠がわかる看護技

持続的導尿(膀胱留置カテーテル)は、尿道の損傷や尿路感染のリスクがあり、慎重に行わなければならない難しいケアです。ここでは、手順とともにその根拠や注意すべきポイントを紹介していきます。 ...

249988