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【連載】今さら聞けない! 基礎看護技術をおさらい

スタンダードプリコーション(標準予防策)の基本知識

  • 公開日: 2019/2/19

※ここでは一般的な感染対策について解説しています。実際の対応に際しては、各医療施設で示されている感染対策に従いましょう。


スタンダードプリコーション(標準予防策)とは

 すべての患者さん・家族、医療従事者に対して、標準的に用いる最も重要で基本的な感染対策です。感染やその疑いの有無にかかわらず、医療ケアが提供される現場で実施されます。

 病院内で行う感染対策には、ほかに「感染経路別予防対策」があり、標準予防策とともにCDC(米国疾病予防管理センター)による「医療現場における隔離予防策ガイドライン(2007年)」に示されています。感染経路別予防策は、標準予防策を実施しても感染経路を完全に遮断できない場合に付加して用いられます。

スタンダードプリコーション(標準予防策)の目的

 医療従事者を介して起こる交差感染から患者さんを守り、また患者さんが保有している病原体から医療従事者を守るという目的があります。

標準予防策として実施すること

 原則として、下記の4つは感染性微生物を含んでいる可能性があると考えて対応します。
①血液
②汗を除くすべての体液、分泌液、排泄物
③損傷のある皮膚
④粘膜(気管、 口腔、鼻腔、消化管、眼球、膣など)

 表に具体的な標準予防策を示します。

 標準予防策の中でも、日常的に実施している手指衛生や個人防護具(PPE)の着用はよく知られていますが、ほかにも、布類(リネン)の取り扱いや患者さんの配置・移動などでも標準予防策が必要です。日頃の業務の中で、標準予防策が必要な場面を確認しておきましょう。

表 標準予防策
標準予防策

各感染対策について

手指衛生

 手指衛生は石けんと流水を用いた手洗い、速乾性手指消毒薬(アルコール擦式消毒剤)を指します。

 手指に付着する、主に病原性微生物を除去し、手指や環境を介した間接接触感染の防止が目的です。

→ポイントや具体的な対策はこちら

●手指衛生が必要な場面とは?〜根拠がわかる看護技術
●手指衛生~石けんと流水による手洗いの手順
●手指衛生~アルコール擦式消毒剤による手指衛生の手順

個人防護具(PPE :personal protective equipment)の適切な使用

 個人防護具には、手袋、マスク、ゴーグル、フェイスシールド、ガウン、エプロンなどがあります。状況に応じて、医療従事者の身体や衣服を汚染から守ることができる防護具を選び、正しい方法で着用することが重要です。

→ポイントや具体的な対策はこちら

●ガウンテクニック|目的と手順
●第5回【個人防護具】着脱の正しい手順
●第6回【個人防護具】マスクと手袋、こんなときどうする?

血液媒介病原体曝露防止

 業務によって起こりうる血液媒介病原体(HBV/HCV/HIVなどのウイルス性疾患等)の曝露を防止し、感染を防ぎます。曝露の機会として最も多いのは、針刺し切創(注射針などの鋭利器材によって身体に刺傷や切創を負うこと)などの経皮的曝露です。ほかに、眼、口腔、鼻腔などの粘膜からの曝露、傷などのある皮膚からの曝露などがあります。

→ポイントや具体的な対策はこちら

●血液媒介病原体曝露防止と曝露時の対応

患者の配置・移動

 他者への感染性病原体の伝播リスクがある、環境を汚染する可能性がある場合は、適切な対応を行い、感染の拡大を防ぎます。

【基本的な対策】
●個室管理、集団隔離の実施
 以下に示すような患者さんは、可能な限り個室管理とする。個室管理が難しい場合は、同じ微生物を保菌あるいは感染している患者さんを同じ病室で管理する(集団隔離/コホーティング)。必要な場合は面会の制限を行う。

  • 大量の感染性物質を拡散する
  • 強い病原性微生物に感染した可能性がある
  • 環境を汚染する可能性がある
  • 易感染の傾向がある
  • 感染対策の協力が得られない(乳児・小児・認知機能の低下、精神疾患など)

●患者さんの移動
 個室管理、集団隔離をした患者さんの移動は最小限にとどめる。

 移動時は、創部の被覆、マスクの着用など感染性物質を排出している部位を覆い、拡散防止に努める。

環境管理

 環境管理は常に患者さんに清潔で衛生的な生活環境を提供するために行います。病院における環境管理は、清掃だけではなく空調、給排水、害虫駆除、医療廃棄物処理、洗濯なども含まれます。

→ポイントや具体的な対策はこちら

●環境整備とは|看護師が行う意義と目的、方法~根拠がわかる看護技術
●第10回【環境管理編】環境整備の実施回数は多いほどいい?
●第9回【環境管理編】環境整備のとき、消毒薬使用は必須?

ケア器具および機器の取り扱い

 患者さんに使用した器具や機器は、機器や器材の種類、使用方法に応じて、洗浄・消毒・滅菌の処理を行います。
 
→洗浄・消毒・滅菌の解説はこちら

●第7回【消毒・滅菌・洗浄編】滅菌物の保管期間と汚染度の関係

布類(リネン)の取り扱い

 リネン(寝具、病衣、タオルなど)に付着した病原性微生物のほとんどは、正しい工程で洗濯することによって、感染リスクは減少します。そのため、洗濯工程までの取り扱いが重要になります。

 リネンに付着した病原性微生物が、人や空気、環境表面、清潔なリネン類に拡散しないように取り扱う必要があります。
 
【基本的な対策例】
●使用済みリネン等の取り扱い
汚染した洗濯物を取り扱うための原則は、「感染性のある微生物が拡散する可能性のある方法で取り扱わないこと」です。また、身体や衣類と接触するのを避けること、汚染したものは容器または指定された容器に入れることが必要です。

  • リネン等の処理時にはマスクを着用する
  • 湿性生体物質に汚染されている場合は、マスクのほかに手袋やプラスティックエプロンを着用して取り扱う
  • 感染症の患者さんが使用したリネン等、湿性生体物質に汚染されている洗濯物は、ランドリーバッグ(アクアフィルム)や個別にビニール袋に入れる
  • 感染症の患者さんが使用したリネン、湿性生体物質に汚染されているリネンを入れた袋は、感染性があることを明記する
  • 湿性生体物質に汚染されているリネンは、最初に熱水で洗濯するとたんぱく質が凝固する可能性があるため、微温湯による予洗を行う。その際には、感染性物質の飛散を防止するため、手袋、マスク、ゴーグル、エプロンなどを着用する

●清潔リネンの取り扱い

  • 清潔リネンと使用済みリネンを一緒に置かない
  • 清潔リネンを保管するところには、清潔リネン以外のものを置かない
  • 清潔リネンは床直近に置かない
  • 扉付きの保管庫が望ましい

呼吸器衛生/咳エチケット

 呼吸器病原体(インフルエンザウイルス、RS ウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルスなど)の伝播を防ぐために行います。

 呼吸器感染症の徴候や症状のある患者さんが医療機関を受診したとき、最初に接触する場面で、呼吸器の分泌物を封じ込める方法で感染を防ぎます。

 呼吸器衛生/咳エチケットは、患者さんに限らず、患者さんの同伴者、面会者、訪問業者、職員が遵守する必要があります。

最初に接触する場面の例:トリアージ、救急外来の受付や待合室、外来診療部門など

【呼吸器の分泌物の拡散を防止する方法】
 以下のことを患者さんや同伴者に指導し、医療職者自身も実施する。

  • 咳やくしゃみをするときには、ティッシュペーパーで口や鼻を覆うようにする
  • 使用後のティッシュペーパーは捨てる(廃棄容器も準備)
  • 咳やくしゃみをしたあとは、手指衛生を行う
  • 待合室などに咳エチケット、手指衛生についての情報を提示し、ティッシュペーパーや擦式アルコール製剤を用意する
  • 呼吸器症状がある患者さんには、マスクを提供し、装着するように指導する
  • 呼吸器症状がある患者さんと他の人との空間的距離を、できれば1m(3フィート)以上空ける

安全な注射手技

 血液媒介感染を防ぐために、針・静脈内投与システムなどを適切な方法のもと、取り扱い、使用します。

【基本的な対策例】
●注射器や針などの取り扱い

  • 針・注射器は単回使用とし、複数の患者さんに使用しない
  • 同じ針、注射器を複数の患者さんに使用しない
  • 滅菌された注射器具の汚染を防ぐために、無菌操作を徹底する。

●バイアルの使用方法
* 可能であれば、常に単回量バイアル製剤を使用する。

<複数回量バイアルを使用する場合>

  • 使用する針・カニューレ・注射器は滅菌されたものを使用する
  • 複数回量バイアルはメーカーが提示する方法に従い保管し、無菌状態が疑われる場合は廃棄する
  • 注射用溶液のバッグやボトルを複数の患者さんに共通して使用しない

特別な腰椎穿刺処置での感染制御手技

 脊椎処置時において、医療者の口腔細菌叢の飛沫感染を防ぐために行います。

【基本的な対策例】

  • ミエログラフィー(脊椎造影)、腰椎穿刺、脊椎麻酔、硬膜外麻酔など、脊柱管や硬膜外スペースにカテーテルを留置、もしくは注射をする際、医療従事者はサージカルマスクを着用する

参考文献

● CDC:Guideline for Isolation Precautions (2007).(2018年10月9日閲覧)http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/Isolation2007.pdf
●藤田昌久,編:ステップアップ院内感染防止ガイド.学研メディカル秀潤社,2006.

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