【連載】いまさら聞けない 脳神経外科ドレナージのしくみと管理の基本
スパイナルドレナージ(腰椎ドレナージ)|「部位別」ドレーン管理はここを見る!③
- 公開日: 2019/5/26
- 更新日: 2019/9/4
2019年9月4日改訂
圧設定やクランプ手技など、脳神経外科領域の開放式ドレナージには、特徴的な知識が求められます。ここでは、脳室ドレナージ、脳槽ドレナージ、スパイナルドレナージの管理の実際を解説します。
スパイナルドレナージ(腰椎ドレナージ)
どのような治療で使うの?
●くも膜下出血に対し、くも膜下腔の血腫を排出させることによって、脳血管攣縮を軽減し、水頭症をできるかぎり予防する。
●開頭術だけでなく、脳血管内コイル塞栓術でも施行できる。
●下垂体腫瘍に対する経鼻的手術の際に、ドレーンから人工髄液などを注入して、さらなる摘出を図る。
●髄液漏(鼻漏など)に対し、脳脊髄液を腰部から排出させることによって、髄液漏の自然閉鎖を図り、髄膜炎を予防する。
■ドレナージシステムの原理
通常、脳室・脳槽ドレナージと同じ回路を使用しますが、刺入部が頭蓋ではなく、腰椎になります(図)。したがって、圧のゼロ点は外耳孔ではなく、刺入部の腰の位置(第3~4、または第4~5腰椎間)としますが、水平臥床であれば外耳孔でもかまいません。ただし、頭部を挙上した場合、腰椎をゼロ点とすると物理的に髄液の排出量が増加することを念頭においておきましょう。腰椎の脳脊髄腔は、脳槽や脳室と交通しているので、そこから髄液を排出させることによって頭蓋内圧をコントロールすることができます。
ただし、腰椎穿刺(ルンバール手技)によりドレーンチューブを挿入するので、脳室・脳槽ドレナージよりもさらに細いチューブを使用します。したがって、流出が滞って詰まりやすいという特徴があります。
■排液の観察
脳室・脳槽ドレナージと同様に、性状と排液量に注意します。
くも膜下出血治療のドレナージの場合、急性期の性状は、血性髄液が原則です。数時間以上経過すると、橙黄色になり、1週間くらいするとその後は、わずかに白濁した無色透明に戻っていきます。
髄液漏治療のドレナージの場合、性状は無色透明が原則です。血液が混在することはまずないので、万一、出血が認められた場合には、やはり担当医をコールする必要があります。もし髄膜炎を併発した場合には、白く濁ってきます。
量は、10mL/hrくらいが目安となり、通常は20mL/hr(髄液の産生量)を超えないように注意します。チューブ内の液面の拍動は不明瞭なため、有無を確認することは困難ですが、滴下が確認できれば問題はありません。
■トラブルの発見と予防
脳室・脳槽ドレナージよりも、スパイナルドレナージのチューブは細く、かつ、くも膜下出血治療の場合、血腫をドレナージするのでドレーンの閉塞に最も注意が必要です。排液量が適切であるか、時間ごとにしっかり観察しなければなりません。
また、脳室・脳槽ドレナージと同様に、常に感染のリスクがあります。逆行性感染の予防のために、ドレーン刺入部の定期的な消毒と保護を行います。
特に大量の尿失禁、便失禁などによる刺入部の汚染には要注意です。
■ドレーン管理上の注意点
基本的には脳室・脳槽ドレナージと同じです。クランプ忘れによるオーバードレナージやフィルター汚染、チャンバー内に残った排液によるフィルター汚染、三方活栓からの薬物誤投与、そして、ドレーンチューブの自己抜去に注意が必要です。
スパイナルドレナージの場合、チューブが細く、腰正中部から出るため、チューブを身体で圧迫して排液不良になったり、患者さんの体動によりチューブがちぎれたりするおそれがあります。そのため、腰部から背中を通り、肩からドレーンを出すような形でしっかり固定するという方法もあります9)。チューブの全長にわたり通過障害がないか、余計な張力がかかっていないか、随時観察します。
また、脳槽ドレナージと同様に、排液に血液が混じっているので、フィルター汚染が細菌の培地となり感染の危険がより高くなります。特にフィルター汚染を起こさないように、慎重な管理を心がけましょう。
■抜去に向けた観察と注意
くも膜下出血治療のドレナージの場合、脳槽ドレナージと同様に、脳血管攣縮期を過ぎた2週間以降にドレーンを抜去します。感染のリスクに対して、排液の性状や量、および患者さんの症状を併せて観察し、チューブの閉塞にも注意します。
髄液漏治療のドレナージの場合、長期留置による髄膜炎を発症する前に、チューブを抜去しなければなりません。通常は、1週間程度の安静臥床で髄液漏は自然閉鎖するので、患者さんを座位にして髄液漏がみられなければ、チューブを抜去します。
<まとめ-スパイナルドレナージ>
ドレナージシステム | 廃液 | 抜去の時期 | 特に注意する点 |
---|---|---|---|
開放式ドレナージ | 色 ●くも膜下出血治療の場合→血清~橙黄色~無色透明(わずかに白濁)に変化 ●髄液漏治療の場合の色→無色透明 量の目安→10mL/hr |
●くも膜下出血治療の場合→2週間以降 ●髄液漏の場合→1週間程度 |
●チューブが細いため、体動や圧迫で切れたり、排液不良を起こしやすい ●尿便失禁により汚染されやすい |
脊髄周囲のくも膜下腔に留置 | 色 ●くも膜下出血治療の場合→血清~橙黄色~無色透明(わずかに白濁)に変化 ●髄液漏治療の場合の色→無色透明 量の目安→10mL/hr |
●くも膜下出血治療の場合→2週間以降 ●髄液漏の場合→1週間程度 |
●チューブが細いため、体動や圧迫で切れたり、排液不良を起こしやすい ●尿便失禁により汚染されやすい |
第3~4、または第4~5腰椎間から穿刺 | 色 ●くも膜下出血治療の場合→血清~橙黄色~無色透明(わずかに白濁)に変化 ●髄液漏治療の場合の色→無色透明 量の目安→10mL/hr |
●くも膜下出血治療の場合→2週間以降 ●髄液漏の場合→1週間程度 |
●チューブが細いため、体動や圧迫で切れたり、排液不良を起こしやすい ●尿便失禁により汚染されやすい |
チューブがかなり細い | 色 ●くも膜下出血治療の場合→血清~橙黄色~無色透明(わずかに白濁)に変化 ●髄液漏治療の場合の色→無色透明 量の目安→10mL/hr |
●くも膜下出血治療の場合→2週間以降 ●髄液漏の場合→1週間程度 |
●チューブが細いため、体動や圧迫で切れたり、排液不良を起こしやすい ●尿便失禁により汚染されやすい |
拍動が不明瞭でわかりにくい | 色 ●くも膜下出血治療の場合→血清~橙黄色~無色透明(わずかに白濁)に変化 ●髄液漏治療の場合の色→無色透明 量の目安→10mL/hr |
●くも膜下出血治療の場合→2週間以降 ●髄液漏の場合→1週間程度 |
●チューブが細いため、体動や圧迫で切れたり、排液不良を起こしやすい ●尿便失禁により汚染されやすい |
イラスト/こさかいずみ
【関連記事】
● 脳血管系の解剖生理をおさらい
● ドレーンとは|ドレーンの種類と管理