肝炎の分類・診断と看護ケアのポイント
- 公開日: 2019/8/20
肝炎とは
肝炎は、何らかの原因により肝臓に炎症が起こり、肝細胞が破壊される疾患です。初期の頃は自覚症状に乏しいケースも多く、適切な治療を行わない状態が続くと肝硬変や肝がんなどさらに重い疾患に進展していく場合があるため、早期発見、早期治療が非常に重要です。
肝炎の分類
肝炎は一時的に肝臓に炎症が生じる急性肝炎と、最低6カ月以上炎症が続く慢性肝炎とに分類されます。
急性肝炎
急性肝炎は一時的に肝臓に炎症が起こる疾患です。原因はウイルス、アルコール、薬物、自己免疫などさまざまなものがありますが、原因が解決すると治癒します。しかし、一部で重症化し、劇症肝炎に移行します。
慢性肝炎
慢性肝炎は、肝臓の炎症が最低6カ月以上持続する疾患です。急性ウイルス性肝炎を発症した後も肝炎が持続して、慢性肝炎になります。約60~70%はC型肝炎ウイルス、約10%がB型肝炎ウイルスに起因します1)。
その他、アルコール性肝障害や飲酒が関係しない脂肪肝炎(非アルコール性脂肪肝炎)、自己の肝臓を攻撃することによって生じる自己免疫性肝疾患などがあります。また、ウィルソン病やα1-アンチトリプシン欠乏症など、先天性代謝異常が原因で慢性肝炎を起こすこともあります。
肝炎の原因
肝炎の原因としては、主にウイルス性(A・B・C・E型)、アルコール性、薬物性、自己免疫性があります。それぞれについて以下に説明します。
急性ウイルス性肝炎
急性ウイルス性肝炎は、肝臓にウイルスが感染することで炎症が起きます。肝炎ウイルス(A、B、C、E型)やEBウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルスなどが起因ウイルスです。
◆A型肝炎ウイルス
A型肝炎ウイルスは魚貝類や輸入食材、海外旅行での飲食によって感染します。急性肝炎の原因になりますが、ほとんどの場合において短期間で回復し、慢性化することはありません。
◆B型肝炎ウイルス
B型肝炎ウイルスは、数カ月で身体からウイルスが排除される一過性感染と、長期にわたり体内にウイルスが存在する持続感染とに大きく分かれます。成人で感染した場合、大部分が一過性の感染を経て治癒に向かいます。
しかし、免疫が未発達の乳幼児、免疫力が低下している透析患者さんや免疫抑制薬を使用する患者さんなどでは持続感染になりやすく、慢性肝炎、肝硬変、肝がんへと進展することがあります。また、欧米に多いGenotype Aのウイルス感染でもキャリアになる場合があります。
◆C型肝炎ウイルス
C型肝炎ウイルスは輸血や出産、刺青、性交渉、針刺し事故などにより感染します。劇症化は稀ですが、約70%が持続感染となり2)、適切な治療がなされない場合は肝硬変、肝がんへと移行します。感染を予防するワクチンは未だありません。
◆E型肝炎ウイルス
E型肝炎ウイルスは豚、猪、鹿などの動物の生肉を食べることで感染します。日本でも広い地域で感染が報告されています。ほとんどが自然治癒しますが、生肉を食べないことで予防することができます。
アルコール性肝障害
日常的に過度な飲酒を繰り返すことで起こる疾患で、主にアルコール性脂肪肝、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変の3つが挙げられます。一般に、アルコール量、頻度、期間によって肝障害リスクと重症度が決まります。
◆アルコール性脂肪肝
症状は比較的軽く、常習飲酒家の90%にみられます。なお近年、飲酒の習慣がないにもかかわらず、アルコール性脂肪肝炎と似たような肝障害を呈する、非アルコール性脂肪肝炎の患者さんが増えています。
◆アルコール性肝炎
アルコール性脂肪肝の状態で飲酒を継続することで発症するリスクが高まります。また、重症例として肝性脳症、肺炎、急性腎不全、消化管出血、エンドトキシン血症などを伴う重症型アルコール性肝炎があり、発症すると1カ月以内に死に至ることもあります。
◆アルコール性肝硬変
アルコール性肝炎が重症化しない場合でも、長期にわたり大量飲酒を継続することで肝臓の線維化が生じ、肝硬変へと進展します。
薬物性肝障害
医療機関で処方される薬剤のほか、漢方薬や健康食品、サプリメントなどが原因となり生じます。薬剤を大量に服用することにより生じる中毒性と、服用した量に関係なく、薬物に対する生体反応により発症する特異体質性の大きく2つに分類されます。
自己免疫性肝疾患
何らかの原因により免疫が肝臓を破壊してしまう自己免疫性肝炎と、肝臓の中にある胆管を異物と認識し肝機能障害をきたす原発性胆汁性胆管炎とがあります。両疾患とも多くは中年女性にみられ、細菌やウイルス、薬物、妊娠・出産などとの関連も考えられています。他の自己免疫性疾患を合併することもあります。
肝炎の症状・臨床所見
急性肝炎では、体調不良、倦怠感、食欲不振、易疲労感などの漠然とした症状がみられることがあります。時に微熱や上腹部の不快感もみられますが、黄疸は稀です。
特にC型肝炎ウイルスは気づかないうちに感染していることも少なくないことから、典型的な症状がみられる場合や肝酵素異常を認めた場合、あるいは、以前に急性肝炎に罹ったことがある場合は肝臓専門医を受診し、慢性肝炎や肝硬変、肝がんになっていないか精査する必要があります。ただ、多くの場合は肝硬変になるまで症状はありません。
また、症状の有無にかかわらず、昭和生まれで集団予防接種を受けたことのある人は、注射器の使いまわしによる感染の可能性があるため、B型・C型肝炎ウイルスの感染スクリーニング検査(HBs抗原、HCV抗体)を受けるべきです。
肝炎の検査・診断
慢性肝炎は肝硬変や肝がんなどのさらに重い疾患に徐々に進行していくため、早期発見、早期治療が非常に大切です。
血液検査により肝障害が起きているかどうか(肝機能検査)、肝臓がどの程度機能しているか(肝予備能検査)を評価します。肝炎を引き起こしている肝炎ウイルスの種類を特定するためにも血液検査は重要です。
肝生検では肝炎の炎症の程度や肝硬変の有無を診断します。肝炎の原因を特定する情報が得られることもあります。肝臓がんのスクリーニングには超音波検査や肝ダイナミックCT、MRIが用いられます。腫瘍マーカーとしては、AFPやPIVKAⅡが肝細胞がん、CEAやCA19-9は胆管がんで上昇することがあります。
肝炎の治療と予後
肝硬変や肝がんへの進展を防ぐために継続した治療が重要です。ここでは、主な治療と予後について解説します。
B型慢性肝炎
20~30歳代で急速に進行し、肝硬変に至る場合があります。慢性肝炎の進行を遅らせ、肝硬変そして肝がんへの進展を予防するために、抗ウイルス薬治療でウイルスの増殖を抑え、肝炎による障害を抑えます。
抗ウイルス薬治療で用いられる核酸アナログ製剤(エンテカビルまたはテノホビル)は、いずれも経口薬で非常に効果が高く、薬剤が効かなくなる薬剤耐性ウイルスが出現する可能性はごくわずかですが、ウイルスを完全に排除することは困難です。
また、薬物治療を中止するとウイルスが再増殖する場合が多く、肝炎が重症化するため、決められた用法・用量をきちんと服用する必要があります。そのほかに使用できる薬剤は、注射薬のインターフェロンアルファとペグインターフェロンアルファなどがあります。
B型肝炎患者さんやその家族と濃厚な接触がある人は、B型肝炎ワクチン(HBワクチン)を接種して感染を予防することが重要です。また、B型肝炎ウイルスに対する抗体をもっていない人がB型肝炎患者さんの血液に触れた場合、48時間以内にHBs抗体を多く含む免疫グロブリンを注射し感染を予防します。
日本では1986年に、母親がB型肝炎ウイルス感染者の場合、出産時に免疫グロブリンとワクチンを子どもに接種する「B型肝炎母子感染防止事業」が始まり感染数は減少しています。
さらに、2016年10月より、出産時に全員ワクチンを接種するユニバーサルワクチネーションが始まったことから、今後さらに感染数は減少すると予測されます。
C型慢性肝炎
適切な治療しなければ肝硬変に進行する場合があります。しかし、肝硬変に移行するまでには何十年もかかることもあります。
近年、C型肝炎ウイルスに対する経口治療薬(直接作動型抗ウイルス薬)による治療が急速に進歩し、8~12週の治療でウイルスを95%以上排除できるようになりました。ウイルスを排除できれば、炎症を食い止め、肝硬変への進行を抑えることが可能です。
なお、肝がん治療中の患者さんがウイルス治療を行うことは認められていません。また、妊娠中の使用に関する安全性は確認されていないため、妊婦にも通常使用されません。
アルコール性肝障害
抗酒剤を用いることもありますが、根本的な治療は自主的な節酒や断酒です。肝脂肪の段階で節酒や断酒に取り組むことで改善する可能性は高くなります。
薬物性肝障害
中毒性、特異体質性ともに、原因となる薬剤の服用を中止あるいは変更することが基本です。
自己免疫性肝疾患
自己免疫性肝炎は、基本的にはステロイド(プレドニゾロンなど)あるいは免疫抑制薬(アザチオプリン)で炎症を抑えます。治療を中止すると炎症が再発するため、ほとんどの患者さんは生涯にわたって薬剤の服用を続ける必要があります。
原発性胆汁性胆管炎は肝臓内の胆管に炎症を起こし、肝臓内に胆汁がうっ滞するため痒みなどの症状が現れます。肝機能を改善する薬剤や痒みを抑える薬剤を服用します。
両疾患とも薬剤で病状が落ち着いていれば、予後は比較的よい疾患です。難病の医療費助成の対象になる場合もあります。
肝炎患者さんのケア
特に慢性的な経過をたどる患者さんでは、症状の悪化を防ぐとともに、治療を継続できるようなかかわりをもつことが求められます。ここでは、患者さんへの指導やケアの注意点について解説します。
病状に対する理解度の確認
疾患や検査、治療に関する医師からの説明を十分理解できていない患者さんは少なくありません。患者さんが安心して検査や治療を受けられるようにするためにも、医師からの説明内容についての理解度を確認したうえで、看護師からも説明を行うことが大切です。
感染防止のための指導
B型・C型肝炎ウイルスは血液を媒介して感染します。第3者への感染を防止するために、予防行動について具体的に指導(表)します。
表 ウイルス感染の予防行動のポイント
服薬・栄養指導
治療が長期にわたったり、症状が落ち着いていて服薬の必要性を感じなくなると、自己判断で服薬を中断してしまったり、決められた用法・用量を守れなくなる患者さんもいます。これらは症状の悪化を招くため、適切に内服が継続できるよう薬剤師と協力しながら指導を行います。
また、肝臓に負担をかけないようにアルコールの摂取は控え、バランスのよい食事を適量とることも大切です。管理栄養士と協力しながら栄養指導を行い、食事をするうえでの注意点を患者さんが理解できるよう支援します。
掻痒感のケア
肝機能が障害されるとビリルビンが代謝できなくなり、血中のビリルビン濃度が高くなります。ビリルビンは皮膚の末梢神経に刺激を与えるため、患者さんが強い痒みを訴えることがあります。保湿剤を用いたスキンケアを行うほか、入浴時は身体を強くこすらない、締め付けの弱い衣服を着用するなど、皮膚への刺激を最小限に抑え、負担をかけないよう指導します。
痒みが改善されない場合は、医師に薬剤の処方について相談します。
精神的サポート
患者さんのなかには、罹患して10年以上になる人もいます。長期にわたり内服薬を継続しなければならないなど自己管理が欠かせない患者さんも多く、不安に思うこともさまざまです。看護師は病気に対する思いや理解度を傾聴・確認し、患者さんの気持ちに寄り添いサポートするとともに、必要に応じて医師からの説明を受けられるよう調整します。
0> また、患者さんや家族が療養上の不安や悩みを軽減できるよう、些細なことでも気楽に聞いてもらえるような関係づくりを心がけることも大切です。【引用文献】
1)日本肝臓学会 編:肝臓病の理解のために――肝がんにならないためになにをすべきか平成27年度,p.3.
https://www.jsh.or.jp/files/uploads/1-Liver_cirrfosis.pdf(2019年7月22日閲覧)
2)日本肝臓学会 編:C型肝炎治療ガイドライン(第7版),p.1.