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【連載】知っておきたい!肝胆膵疾患

胆石症の分類・診断と看護ケアのポイント

  • 公開日: 2019/8/13

胆石症とは

 胆嚢は肝臓のほぼ中央で足側に付着するように存在しており、胆嚢管を経由して総胆管に繋がっています。胆嚢は、肝臓で合成される脂肪の消化を補助する成分を含む胆汁を一時的に貯蔵しています。貯蔵している間に胆汁内の水分や電解質を吸収することで濃縮し、食事が通過するタイミングに合わせて十二指腸内に分泌を行っています。

 胆嚢内はその機能上、胆汁のうっ滞・停滞が起こりやすく、結石が形成されやすい場と考えられます。この結石により、疼痛をはじめとするさまざまな症状を引き起こす疾患を総称して、胆石症といいます。日本における胆石症の有病率は約5%1)のため、単純計算で患者数は約600万人と推定されます。

胆石症の分類と原因

 胆石症は結石が形成された位置で分類されます。胆嚢内に形成されたものを胆嚢結石、総胆管内に形成されたものを総胆管結石、肝内の胆管に形成されたものを肝内結石と呼びます。胆石症は70~80%が胆嚢結石です2)

 また、胆石は成分により、①コレステロール胆石、②ビリルビンカルシウム石、③黒色石の大きく3つに分けられます。それぞれ結石が形成される原因としては以下のとおりです。

①コレステロール胆石
 胆汁中のコレステロールの過飽和および結晶化、胆嚢収縮能の低下が主な原因とされています。ほかに、細菌感染や遺伝子異常の関与も指摘されています。

②ビリルビンカルシウム石
 細菌感染による不溶性ビリルビンカルシウムの析出が原因とされています。

③黒色石
 無菌状態の胆嚢で形成されます。溶血性疾患や腸疾患による非抱合型ビリルビン(不溶性)再吸収による非抱合型ビリルビン血症が原因といわれています。

 胆石症の代表的なリスクファクターとして挙げられるのが、5F〔Forty(年齢)、Female(女性)、Fatty(肥満)、Fair(白人)、Fecund・Fertile(多産・経産婦)〕です。

 食生活習慣として影響を及ぼす因子としては、1日の摂取総カロリー数、炭水化物、糖質、動物性脂肪の過剰摂取、身体活動の低い生活、夜間の長時間にわたる絶食などが挙げられ、リスクを増加させます。反対に果実、野菜、ナッツ、多価不飽和脂肪酸、植物性蛋白、食物繊維、カフェイン、適度な飲酒(アルコール)、適度な運動などはリスクを低下させるとされています。

 さらに、胆嚢結石の高リスクとして、上部消化管手術(食道・胃)、肝硬変、急激な体重減少、原発性副甲状腺機能亢進症、溶血性貧血、心臓弁膜症弁置換術後などがあり、既往歴の確認も診断の一助になります。

胆石症の症状・臨床所見

 胆石症では、胆石発作(胆道仙痛)といわれる特徴的な腹痛が生じます。胆嚢の収縮に伴う発作性の疼痛です。疼痛の発生する場所は心窩部から右季肋部であり、右肩に放散することがあります。食後に発症することが多く、脂肪食が誘発因子として挙げられます。

 ほかに、発熱、黄疸、悪心・嘔吐などの症状を認めることがありますが、無症状であることも少なくありません。2013年の日本胆道学会による調査でも、胆嚢結石の症状として、腹痛・背部痛57.1%、発熱9.5%、悪心・嘔吐7.5%、黄疸3.3%、症状なし34.9%と報告されています3)

 無症状な胆石の自然経過としては、2%が軽い症状を、1.3%が中等度、0.2%が重篤な症状を示すとされ4)、軽い症状では胆石発作を生じ、重篤な症状として最も頻度の高いものは急性胆嚢炎です。

 もう一つ重要な腹部所見としてMurphy(マーフィー)徴候があります。吸気時に右季肋部を押さえると痛みのために呼吸が止まる状態を示し、胆石症・胆嚢炎の特徴的な所見です。

胆石症の検査・診断

 右上腹部痛(右季肋部痛)を生じる疾患群としては、肝胆道系疾患・胃十二指腸疾患が多いですが、それ以外にも下記のような疾患が鑑別診断として挙げられます。また、胸部の疾患でも同様の症状が生じることについても、頭の片隅に入れておくことが大切です。

【右上腹部痛を生じる主な疾患】
・消化器系疾患
 胆嚢炎、胆石症、胆管炎、大腸炎、憩室炎、虫垂炎、肝膿瘍、肝炎、肝腫瘤、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、膵炎

・血管系疾患
 急性冠症候群、心筋炎、心内膜炎、心外膜炎、大動脈解離、上腸間膜解離

・尿路系疾患
 腎結石、腎盂腎炎、尿管結石、腎梗塞

・その他
 呼吸器疾患(肺炎、肺塞栓、胸膜炎)、Fitz-Hugh-Curtis症候群

 鑑別のための検査としては、血液・生化学検査、腹部単純X線検査、腹部超音波検査(US)を行います。さらに腹部CT検査や腹部MRI(MRCP)を追加することが多いです。

 胆石症では、発作時以外の血液検査で特徴的な所見はなく、腹部単純X線検査、腹部超音波・CT・MRI検査で胆嚢内の結石を指摘することができます。胆嚢炎では、血液・生化学検査で、WBC・CRPの上昇、時に軽度の肝機能障害を認めます。超音波・CT・MRI検査では、胆嚢の腫大、壁の肥厚、周囲の毛羽立ちなどの炎症所見を認めます。

胆石症の治療

 前述のように、胆石症の80%近くを胆嚢結石が占めます2)。そこでここでは、胆嚢結石の主な治療法について解説していきます。

胆嚢摘出術

 何らかの症状を呈する胆嚢結石に対する治療は、胆嚢摘出術が基本です。胆石発作症例の中には次第に症状が落ち着き、長期にわたり無症状で過ごせる人もいますが、急激に重篤な状態で再燃する場合があります。このことから、何らかの症状を呈する患者さんには手術を行うことが望ましいといえます。

 特に急性胆嚢炎を発症している場合においては、胆嚢摘出術が第一選択となります。急性胆嚢炎の原因のほとんどを胆嚢結石が占めており、全身状態が許される場合においては手術を行うことが胆石症に対しても、胆嚢炎に対しても根治療法となるためです。

 治療時の年齢についても重要です。75歳以上で急性胆嚢炎を発症した患者さんに対して腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うと、周術期の偶発症や入院死亡率が高まります。そのため、予防的な胆嚢摘出術が推奨されています。

 術式については、手術を行う医師の経験や技術に左右される部分もありますが、人材や環境が整った施設においては、開腹胆嚢摘出術に比べて術創が小さく(図)、患者さんへの負担も少ない腹腔鏡下胆嚢摘出術が第一選択となります。

図 開腹胆嚢摘出術と腹腔鏡下胆嚢摘出術
zu

 ただ、術前検査や術中所見で胆嚢がんの合併が疑われる場合や、Mirizzi症候群などで解剖学的な関係の認識が困難な場合には、開腹手術を施行または術中に開腹手術に移行することが多いです。

 腹腔鏡下胆嚢摘出術における術中の合併症としては、術中の胆管損傷、開腹による止血を要した出血、他臓器損傷があります。また、術後の合併症としては、術後出血、術後に判明した胆管損傷が挙げられます。ほかに創感染、肩痛、皮下気腫などにも注意が必要です。

*胆嚢頸部の結石が原因で圧排・炎症が起こり、総胆管狭窄を来たした病態

経口胆石溶解療法

 胆嚢結石症に対する手術以外の治療法の1つとして、胆汁酸製剤による経口胆石溶解療法があります。経口胆石溶解療法は、ウルソデオキシコール酸を600mg/day 6~12カ月の内服を行う治療です。

 適応とされる症例はX線撮影で陰性、USおよび胆道造影で直径15mm未満の浮遊する多発結石でCT値60HU未満(CTで白くない)とされています。

体外衝撃波結石破砕療法(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)

 ESWLも手術以外の治療法の1つです。衝撃波を照射する装置により、体外で発生させた衝撃波を体内にある結石めがけて集中させ、結石を砕きます。適応は単発で直径20mm未満、石灰化のない純コレステロール胆石[X線撮影で陰性、特徴的なUS像、CT値50HU未満(CTで白くない)]で、胆のう機能が正常の症例とされています。

 経口胆石溶解療法やESWLは、症例の選択を行えばある程度の効果が得られるため、治療の選択肢として挙げられていますが、適応が限定されている面や治療後の胆石症の再発率が高いという問題もあります。

胆石症患者さんのケア

 胆石症は無症状である場合が多く、異変を見逃さないためにも患者さんの状態をこまめに確認することが大切です。ここでは、胆石症の患者さんへのケアの注意点について解説します。

腹部症状の確認

 病院を受診・入院する患者さんでは何らかの自覚症状があると考えられます。症状のほとんどは腹痛や嘔気・嘔吐などであり、経口鎮痛剤(NSAIDs)や鎮痙剤(抗コリン薬)で症状緩和が図られます。

 投薬により症状が改善すればそのまま経過観察となることが多いですが、急性胆嚢炎に移行して緊急手術となる症例もよくみられます。そのため、腹部症状の変化に注意が必要です。具体的には、薬剤などを使用しても疼痛が改善しない場合や、腹膜刺激症状を生じる場合などは手術適応の判定のため、早急に医師に診察を依頼します。

 また、心臓血管外科手術後や整形外科術後に、胆石症から急性胆嚢炎を発症するケースもよくみられます。高齢者も多く、術後せん妄や認知症があると本人の訴えが曖昧で、腹部症状がはっきりしないこともあります。症状の発見が遅れることで重症化する場合もあるため注意します。原因不明の発熱や食欲不振・嘔吐を認める際には鑑別診断として考える必要があります。

生活・食事指導

 経過観察となった患者さんや、胆石発作後に退院となった患者さんでは、食生活上でのリスク因子が存在しているため、食事指導や退院後の生活についての指導が必要です。

 胆嚢摘出症例では、術後に軟便や下痢などの消化器症状がみられることがあります。術後1~2カ月で排便回数が増加しますが、3カ月以降では間欠的な下痢を認めることがあります。これは胆嚢摘出後に腸肝循環の回数が増加し、腸内で細菌により生成された二次胆汁酸の増加により糞便中の水分が増加するためです。

 脂質や脂溶性ビタミンの消化吸収障害は起こらないとされており、術後の食事として特別な制限はありませんが、下痢がひどいときには脂肪食は控えるよう伝えます。

【引用・参考文献】

1)Stinton LM et al: Epidemiology of gallbladder disease cholelithiasis and cancer.Gut Liver2012;6(2):172-87.
2)日本消化器病学会 編:胆石症ガイドライン2016,南光堂,p.2.
3)日本胆道学会学術委員会 編:胆石症に関する2013年度全国調査結果報告 胆道,2014,28,612-7.
4)Attili AF et al:The natural history of gallstones: the GREPCO experience:The GREPCO Group.Hepatology 1995;21:655-60.
●日本消化器病学会 編:胆石症ガイドライン2016,南光堂

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