血圧をコントロールすることが心血管イベントの軽減につながる
- 公開日: 2022/12/1
2022年10月7日、ノバルティスファーマと大塚製薬の共催による「高血圧メディアセミナー」が開催され、国際医療福祉大学大学院医学研究科臨床検査医学教授の下澤達雄先生と、順天堂大学スポーツ健康科学部専任准教授の谷本道哉先生による講演が行われました。この講演についてレポートします。
高血圧、これからも 減塩宣言 解除なし
国際医療福祉大学大学院医学研究科臨床検査医学教授 下澤 達雄先生
今日は「高血圧、これからも 減塩宣言 解除なし」ということでお話しします。これは今年度の日本高血圧学会が募集した川柳標語コンテストで最優秀賞をとった作品です。コロナの緊急事態宣言は、解除したり、しなかったりといろいろありましたが、減塩宣言はやはり解除なしということです。
身体所見を取って、その中で血圧を測ったり、聴診をしたり、血液検査、心電図、レントゲンといったさまざまな検査を行い、さまざまなデータを集めてみると、やはり高血圧、脂質代謝異常、糖尿病、メタボリックシンドローム、CKDなど、こういうものが重要だということがわかってきており、かつ血圧やコレステロールを下げること、血糖値や体重をしっかりコントロールすることが、患者さんたちの予後を良くすることもわかってきています。我々は自信をもって患者さんたちを治療しましょう、生活習慣を改善してください、という話ができるようになったわけです。
高血圧が脳心血管病に対して、死亡という点では寄与率が一番高い。もちろんコロナで運動しなくなったとか、喫煙しているというのはあるのですが、高血圧というのは圧倒的に大きな位置を占めることがわかってきました。
実は高血圧パラドックスがあります(図1)。新しい薬剤が出てきたり、いろいろなデータが出てきたりしてサイエンティフィックにわかってきますし、患者さんの予後を判断する上で診断方法や治療方法も進歩してきています。
それにもかかわらず、なかなか病院に来てもらえない患者さんもたくさんいますし、せっかく病院に来ていても、しっかり治療されていない患者さんがたくさんいるという残念な現状があり、これをどうにかしたいということを常に考えています。
我々は患者さんたちの治療をする際に、しっかり血圧を下げ、心血管イベントを減らそうということを考えているわけです。例えばアメリカで行われた大規模臨床試験(図2)では、血圧をしっかり下げてある、つまり120くらいに下げた群と、140ぐらいでいいだろうという群と比べてみると、こんなにも心血管イベントが変わってくるというデータが出ており、やはりしっかり治療してあげることがいいと思うわけです。
日本高血圧学会ではしっかりとした降圧目標(図3)を達成してください、という話をしています。例えば75歳以上で初めて高血圧なった患者さんでは、それほど下げなくてもいいのかもしれませんが、若い人たちになるとしっかり下げましょうということになります。ただその中でもすでに血管が硬くなって、動脈硬化を起こしているような人は、下げ過ぎると虚血になってしまうので、これは気をつけたほうがいいです。
血管がツルツルできれいな人は、しっかりした降圧が必要ということが考えられており、若くて腎臓が元気で何もないような人では、しっかりとした降圧が有効だということが示されています。
腎臓が悪い場合は、特に尿に蛋白が出ているかに注意します。蛋白が出ている人は、すでに腎臓がかなり悪くなっているので、早目に治療しないと命を救うことが難しいのですが、少し糸球体濾過率が落ちて、蛋白がまだ出ていないような人は、あまりデータがないため、強く言ってはいけないということで、140/90mmHgが降圧目標ということになっています。
今、新しいガイドラインを作成するための準備が進んでいますが、新しいガイドラインになると、また少し話が変わるかもしれません。
どうして血圧のコントロールが悪くなるのかという要因分析をした琉球大学の山里先生のデータがあります1)。何が悪いのかというと肥満、これが良くないわけです。それから塩分の摂り過ぎも良くないです。医師側の問題かもしれませんが、薬剤を適当に使っているという問題もあります。
今日の話題ですが、減塩、塩分というのは大きな問題で、我々は食塩中毒という状態になっていて、塩分が欲しくてしょうがないのです。
これをどうにかしたいということで、高血圧学会は毎月17日を減塩の日ということで、記念日登録させてもらい、良塩(ヨシオ)君というキャラクターを作りました。YouTubeでもいろいろな動画を配信しています。
新潟大学のデータでは2)、20歳のときに肥満だと、将来高血圧になるということがわかっているので、今の学生たち、あるいは子どもたちに向けて我々は食事、運動指導をしていきたいと思っていますし、その後、実は太ってしまうとやはりダメだということがわかっているので、生涯を通じて生活習慣を、そして減塩をしていくことが重要だと思っています。
しっかり血圧をコントロールすることが、将来の心血管イベントを減らすということです。予防こそ最大の攻撃ということで、なるべく薬を飲まないで、生活習慣の改善でうまく日本を、あるいは世界を健康にしていきたいというのが我々の願いです。
引用文献
1)Masanobu Yamazato,et al:Publisher Correction: Salt and potassium intake evaluated with spot urine and brief questionnaires in combination with blood pressure control status in hypertensive outpatients in a real-world setting.Hypertens Res 2021;44(10):1362.
2)Yoriko Heianza,et al:Role of body mass index history in predicting risk of the development of hypertension in Japanese individuals: Toranomon Hospital Health Management Center Study 18 (TOPICS 18).Hypertension 2014;64(2):247-52.
高血圧予防のための「時短かんたんエクササイズ」について
高血圧予防のための時短かんたんエクササイズは、3つの構成からなっています。YouTubeで配信していますので、ご覧になっていただきたいのですが、1つは身体を快適にしましょうということで、超ラジオ体操というものです。快適な身体で幸せになりましょうというのが1つです。
もう1つは、元気になって強い力を出したほうが、身体がよく動きますから無理なくできるような筋トレをご紹介させていただきます。
3つ目がこれが王道ですが、有酸素運動です。やはり持久的な運動は血圧を下げる効果が高いので、それを日常の中でやっていくことを紹介させていただきます。
先ほど、減塩の話がありましたが、もちろん食事も大事なのですが、僕の専門が運動ですから、運動の話をさせていただくと、運動はやはり血圧を下げます。
疫学研究の結果では、筋トレでも心血管系にいいということを示しているのですが、有酸素運動は心疾患の死亡リスクを下げるというデータがあります。筋トレについてもデータがありますが、やはり下げてくれます。有酸素運動にはかないませんが下がります。そして、両方合わせて行うと非常に効果が高いということがわかっています1)ので、筋トレと持久運動もするということを、時短かんたんエクササイズの中で達成していただければと思います。
簡単に取り組めるということで、1つ目はラジオ体操です。ラジオ体操はすごくいいのですが、結構速くて適当にやりがちなところがありますので、これをものすごく丁寧に行っていきます。丁寧に行うときに特に注目したいところは背骨周りです。この部分がやはりこわばりやすい。それから背骨と連動する肩甲骨周りをフォーカスして、それを無茶苦茶丁寧に行いましょうということに着目して作っています。
次は筋トレです。僕は筋トレの専門家なので、筋トレをお勧めしたいです。齢をとってくるとやはり筋肉がどんどん落ちてきます。そうすると活動量も減るので、血圧も上がってきます。
太ももの前の筋肉はすごくよく落ちます。80歳になると若いころの半分ぐらいまでになってしまいます。しかもこれは細胞数の減少を伴います。細胞が死滅して数が減っていきますので、これを何とかしてあげたい。
齢をとって落ちてくるのは速筋です。速筋、遅筋という2つがあり、速筋がすごく落ち、遅筋はあまり落ちません。とにかく速筋の萎縮を抑えてあげたい。これが加齢に対する筋肉の萎縮にとって重要なファクターになるのですが、ありがたいことに筋トレをすると、遅筋も太くなりますが、速筋がより大きくなります。
最後は一番のオオトリで、持久運動が大事です。持久運動はするということよりも、して強くなるところが大事です。1日何歩歩こうというだけでなく、しっかり速く歩いて、強くなろうということを考えてください。
持久運動でまず簡単にできそうなことは歩行です。日常の歩く動作を早くして負荷を上げてください。一番簡単にできるのは腕を振ることです。腕を振っていただくと反作用で足の蹴りが強くなります。腕をしっかり振れば振るほど、歩くのは速くなりますので、これを実践していただきたい。
超ラジオ体操、筋トレ、それから持久運動。そしてしっかり腕を振って歩くというところを、今回紹介させていただきました。
引用文献
1)Haruki Momma,et al:Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies.Br J Sports Med 2022;56(13):755-63.