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第4回日本がんサポーティブケア学会学術集会プレスセミナー|がん悪液質、がん患者のせん妄とは

  • 公開日: 2019/9/3

2019年9月6日〜7日にリンクステーションホール青森(青森市)で開催される第4回日本がんサポーティブケア学会学術集会に先駆け、8月7日に東京都内でプレスセミナーが行われました。同学会が目指すのは「多職種で連携し、科学する支持医療(サポーティブケア)」。プレスセミナーでは、このサポーティブケアの分野において注目され、学術集会でも取り上げられる話題をテーマとした2講演が行われました。その講演のポイントをご紹介します。

第4回日本がんサポーティブケア学会学術集会の概要はこちら


[講演1]
がん悪液質とはどんな病気? ―がんによる「やせ」をどう克服するかー

司会:京都府立医科大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学 教授
髙山浩一先生
講演:静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 医長
内藤立晄先生

 がんの悪液質は「(悪性腫瘍を有する患者において)通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、骨格筋量の持続的な減少を特徴とし、進行性の機能障害にいたる、多因子性の症候群」1)と定義されます。簡単にいうと、がんを有しているだけで体重が減り、特に筋肉がやせて、歩けなくなる状態のこと。進行がんではその頻度が高く、初診時には約半数、終末期には8割の患者さんに現れます2)。がん種によって発症リスクは異なり、膵がんや胃食道がんでリスクが高いという結果が得られています3)4)。さらに、患者さんの予後にも影響を及ぼし、進行肺がんの患者さんを対象にした前向き観察研究(JNUQ試験)では、がん治療前の体重減少が大きいほど生存率が低くなるという結果も示されています5)

 がん悪液質の診断に際しては、国際コンセンサス基準1)があり、1または2のいずれかを満たすと悪液質であると診断されます。


1.体重減少 > 5%(過去6カ月)
2.体重減少 > 2% かつ BMI < 20 または サルコペニア


 現段階で標準治療はありませんが、悪液質には前段階もあり、なるべく早期に対応することが必要です。そこで期待されているのが、悪液質も含めたがん患者さんの身体変化に対するサポーティブケア(支持医療)になります。サポーティブケアとは、がんの進行や治療に伴って生じる心身の症状や環境による影響を和らげるケアで、すべての病期をサポートします。悪液質に対する「栄養サポート」、歩行障害に対する「歩行訓練」、筋力低下に対する「筋力トレーニング」、要介護状態に対する「社会的支援」などを、抗がん薬などによる治療と共に行っていきます。

 現在、進行期がんに対する栄養療法および運動療法を組み合わせた早期介入プログラムNEXTAC(The Nutrition and Exercise Treatment for Advanced Cancer program)の多施設共同無作為化第II相NEXTAC-TWO試験が行われています。これは、がん悪液質に対し集学的なサポーティブケアをどのように行っていけばよいかを示唆するもので、がん患者さんが介護なしに生活できる期間を延長することを目的としています。2021年に最終結果を報告する予定です。

 日本がんサポーティブケア学会では、悪液質についてまとめた「がん悪液質ハンドブック」を監修し、ホームページで公開しています。これは2018年に同会が公開した「がん悪液質:機序と治療の進歩 初版日本語版」をもとに編集したもの。医師だけでなく、看護師や薬剤師、栄養士、理学療法士などがん診療にかかわる多職種に役立ててもらいたいと思います。

[講演2]
がん患者のせん妄について ―JPOS-JASCC せん妄ガイドラインー

司会:国立がん研究センター中央病院 支持療法開発センター長
内富庸介先生
講演:名古屋市立大学病院 緩和ケアセンター 副センター長
奥山 徹先生

 日本サポーティブケア学会は日本サイコオンコロジー学会と合同で「がん患者における せん妄ガイドライン 2019年版」を監修・編集しました。これは「がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ」の第一弾となるもので、今後も合同で、コミュニケーションや気持ちのつらさに関するガイドラインをまとめていく予定です。サポーティブケアが求められるケースでは、こころの問題にかかわることが少なくありません。日本がんサポーティブケア学会が日本サイコオンコロジー学会と連携していくことは、がん医療における適切なこころのケアの普及につながると思っています。

 今回取り上げた「せん妄」は、がん患者さんにも発症頻度が高く、術後や進行終末期などでみられます。電解質異常や貧血、栄養障害、肝・腎障害、低酸素、感染症、薬物などの身体的な異常によって、覚醒水準の低下や見当障害が起こり、意識が混濁し発症します。炎症反応が大きな要因になっているともいわれます。さまざまな症状が、感情(不安、抑うつ、恐怖、怒り)、記憶(記憶障害)、知識(知的機能の低下)、意欲(興奮、意欲低下、活動性低下)、知覚(幻視や幻聴などの幻覚)、思考(妄想、つじつまの合わない会話)の面で出現します。発症した患者さんの5〜7割が想起可能で、本人はもとより、支える家族にとっても苦痛を伴う体験になってしまいます6)7)

 がん患者さんに限ったことではありませんが、せん妄は、精神科領域以外の医療者にとっては、評価や対応が難しいという側面があります。認知症やストレス反応と誤解されてしまい、見逃されるケースもあります。その結果、適切なケアが行われないことは少なくありません。このガイドラインが、せん妄に対する社会の認識を高め、がんの医療水準の均てん化を図る基盤となることを期待しています。

 本ガイドラインでは、すべての医療従事者を対象にしており、せん妄の基礎知識から臨床の疑問までを、エビデンスに基づいて推奨し、解説しています。ただし、その内容については、患者さんの個別性を無視するものではなく、医療従事者・チームは患者さんの個別性の尊重に十分配慮することがケアの前提であると考えています。今後は、予防に関する薬物療法や非薬物療法の有用性・安全性、超高齢あるいはフレイルのがん患者さんのせん妄など、さらに多様な臨床疑問に対応していく方向です。また、本ガイドラインを臨床で活用する際の助けとなる「臨床の手引き」等の作成も考えています。

引用参考文献

1)Fearon K,et al:Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus.Lancet Oncol 2011;12(5):489-95.
2)Dewys WD,et al:Prognostic effect of weight loss prior to chemotherapy in cancer patients. Eastern Cooperative Oncology Group.Am J Med 1980;69(4):491-7.
3)Hébuterne X,et al:Prevalence of malnutrition and current use of nutrition support in patients with cancer.JPEN J Parenter Enteral Nutr 2014;38(2):196-204.
4)Baracos VE,et al:Cancer-associated cachexia.Nat Rev Dis Primaers 2018;4:17105.
5)Takayama K,et al:Quality of life and survival survey of cancer cachexia in advanced non-small cell lung cancer patients-Japan nutrition and QOL survey in patients with advanced non-small cell lung cancer study.Support Care In Cancer 2016;24(8):3473-80.
6)Breitbart B,et al:An open trial of olanzapine for the treatment of delirium in hospitalized cancer patients.Psychosomatics 2002;43(3):15-82.
7)Bruera E,et al:Impact of delirium and recall on the level of distress in patients with advanced cancer and their family caregivers.Cancer 2009;115(9):2004-12.

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