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精神科地域包括ケアと地域共生活動 ~あさかホスピタルグループにおける取り組み~

  • 公開日: 2020/7/30
  • 更新日: 2021/1/6

福島県郡山市において早くから統合型地域精神科治療プログラムを展開する「あさかホスピタル」院長の佐久間啓先生が、同院における精神科地域包括ケアと地域共生活動について紹介します。

精神科医療に求められているもの

 現在の医療は急性期医療が中心になっています。長期在院者をつくらない治療や質の高い治療を通して早期退院をした方が地域で過ごすようになってきていること、入院の短期化、患者さんの高齢化、死亡退院の増加により、病床数は年間約3000床ペースで減り続けています。

 一方で、より専門的な疾患別医療ニーズが非常に高くなってきています。精神科領域でみると、①うつ病、離職、自殺予防、メンタルヘルス、②児童思春期、発達障害の診療・支援、③認知症対策、④アルコール、薬物、ネットなどの依存症対策、⑤摂食障害、高次脳機能障害、などへのニーズです。

 このような時代背景があるなかで、精神科医療に求められていること。それは、精神科領域で急性期医療を行う場合、精神科患者さんが地域に退院できるサポート体制が整っている、いわゆる包括的な医療でなければならないことです。そしてこの包括的医療は、領域別にそれぞれ整備されている必要があります。

6領域の包括チームをもつ「あさかホスピタル」

 あさかホスピタルは福島県郡山市に位置し、主に県中・県南地区を治療圏とし精神科ベッド495床を有しています。スタッフ総数554名(2020年4月現在)、特に精神保健福祉士や作業療法士、心理士などコメディカルが多いのが特長です。

 あさかホスピタルグループは、「あさかホスピタル」のほか、3つの特別養護老人ホームと1つの介護付有料老人ホームからなる社会福祉法人「安積福祉会」、知的障がい者支援施設や総合児童発達支援センターなどの児童を対象とした社会福祉法人「安積愛育園」、長期在院のままの患者さんを地域でサポートするために立ち上げた「NPO法人 アイ・キャン」の4法人からなっています。さらに、約3万人の社員のメンタルヘルスを企業と契約して行っている「(有)アサカサービスセンター」があります。これら5つの4法人1企業が一体となり、地域包括ケアを目指しています。

 また、どの専門職種もいろいろな形でかかわれるマトリックス的な組織が必要であるとして、Ⅰ.地域支援包括チーム、Ⅱ.急性期包括チーム、Ⅲ.ストレスケア包括チーム、Ⅳ.児童思春期包括チーム、Ⅴ.老年期包括チーム、Ⅵ.地域共生包括チームの6領域の包括チームを作っています。

統合型地域精神科治療プログラム(OTP)に基づいたスタッフ教育と実践

 地域支援包括チームでは、長期在院者が地域に移行したときのプロジェクトを統合型地域精神科治療プログラム(以下、OTP)に基づいて行っています。

<統合型地域精神科治療プログラム:OTP>
多職種からなる支援チームが認知行動療法アプローチにより、積極的に当事者や家族に生物医学的・心理社会的側面から統合的なサービスを提供するプログラム。その科学的根拠が実証されています。

「あさかホスピタル:あさかホスピタルの特色 OTP」より引用

 平成4年の院長就任時には、病院をどういう方向にもっていくか非常に悩みました。そのときにイタリアのファルーン先生のOTPに出合いました。最善の治療とは、病院ではなく地域、つまり患者さんの自宅をベースに行われるものです。当院では、精神疾患の早期発見と早期介入、訪問を中心としたサービス、そして患者さんとその家族や介護者に対する双方向の心理教育を行うというOTPに基づいて、スタッフ教育を実践しています。

 また、地域で展開する精神医療・保健福祉サービスでは4つのAを重視しています。
①利便性(Accessibility)
②受容性(Acceptability)
③説明責任性(Accountability)
④適応性(Adaptability)

 当院ではこの4つのAを意識しながら地域の方々が利用しやすいサービスの提供を行い、前述のOTPのプログラムに基づいたスタッフ教育と合わせて医療の質の担保を図っています。

 平成12年当時、長期入院の方々が地域に出る機会はなかなかありませんでした。家族の賛同が得られなかったり経済的に大変だったりするなど、さまざまな課題があるためなかなか退院に結びつかなかったからです。しかし、OTPを学んだ上で、訪問看護ステーションや外来デイケア、生活基盤となるNPOなど多職種からなる地域の支援チームに、メンバーとして家族も入ってもらいました。そして、退院するにあたっては、我々がしっかり患者さんのフォローを行いました。家族にこれまで以上の経済的な負担を強く求めることはありませんが、「退院されるので患者さんにもっと会いに来てくださいね」という形でかかわり、結果として退院を実現することができました。

 令和2年6月実績では、ウェル訪問看護ステーションで234人(実人数)を訪問しております。その訪問場所の内訳は、令和2年6月時点の登録者数265名のうち、グループホームが101名で38%、同居が104名で39%、単身が60名で23%となっております。

 平成26年3月31日時点に調査した結果では当時調査対象の61名は退院後、約90%の期間を地域で過ごすことができていました。人生の半分を病院で過ごしていた患者さんの約90%が、中高年になって退院して地域で過ごしたことは、驚異的なデータだと思っています。

6領域それぞれで目的をもつ

 例えば、急性期包括チームの目的は精神科救急における地域の拠点病院として中心的に機能する、そして地域支援包括チームと連携し、急性期からの適切なケアマネジメントで早期退院を目指すことです。そして、精神科救急病棟、作業療法士、デイケア、外来、NPO法人アイ・キャン、訪問看護ステーションなど様々なスタッフや部署と関り多職種チームで支援していきます。

 また、ストレスケア包括チームでは、病院やクリニックにおいてうつ病治療をより専門的に、統合的に行います。また、発達障害者への対応の支援、自殺予防やうつ病への早期介入、地域や企業のメンタルヘルスの予防、早期介入、医学的治療、復職支援までを包括的に対応していきます。
 
 昨今の課題として、精神疾患への早期介入を推進することが重要です。統合失調症などの精神疾患の方は、病気になってから受診するまでの期間がとても長いことがわかっています。どうすれば受診までの期間を短縮できるか、この課題についても地域とともに考えていきたいと思っています。

参考文献

●あさかホスピタルグループ:(2020年7月9日閲覧)http://asaka.or.jp/group/
●佐久間啓:あさかホスピタルにおける退院支援システム.精神神経学雑誌 2008;110巻(5):p.417-25.https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100050417.pdf

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