心外閉塞・拘束性ショックの病態とその対応
- 公開日: 2014/1/15
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急変時の対応
急変症状の中でも「ショック」にはさまざまな原因があり、その見極めを覚えておくことは重要です。ここでは見極めのポイントとそのとき看護師は何をすべきかを解説します。
心外閉塞・拘束性ショックとは
(a)心タンポナーデ
(b)収縮性心膜炎
(c)重症肺塞栓症
(d)緊張性気胸
心原性ショックと同様に、心臓が障害されて起こるショックですが、その障害の原因が異なります。心原性は心臓自体に問題があるケースで、心外閉塞・拘束性ショックは、心臓自体は元気であるにもかかわらず、心臓の外側で起きた問題により心臓のポンプ機能が障害された結果、心拍出量が低下してショック状態となることです。
ここでは特に、(a)心タンポナーデ、(c)重症肺塞栓症、(d)緊張性気胸について説明します。
(a)心タンポナーデ
心膜腔に水や血液が貯留することで、心臓のポンプ機能が働かなくなり、その結果、心拍出量が低下し、静脈還流の低下が起こります。そして、血圧が上昇し、脈圧は低下、中心静脈圧が上昇して、ショック状態になります。
図1 心タンポナーデの仕組み
脈圧とは、収縮期血圧と拡張期血圧の差です。例えば120/80mmHgであれば脈圧は40mmHgとなり十分な値で、収縮と拡張がきちんとできていることがわかります。これが110/90mmHgであれば、脈圧は20mmHgとなり、ポンプ機能がしっかり働いていないことになります。
代表的な原因は心筋梗塞で、この場合、心臓の筋肉が薄くなり、そこから心臓内の血液が染み出して溜まり、心タンポナーデになります。心タンポナーデの発見には、血圧の低下や頸動脈の怒張(中心静脈圧が上昇)、心電図の低電位(QRSの幅が小さい)、脈圧がないなどに、いち早く気付くことが大切です。確定診断は心エコーで行います。
心タンポナーデへの対応
対処方法は、早急に心タンポナーデの解除を行うことです。心嚢に針を刺して水や血液を抜く心膜腔穿刺や、手術室で心膜を切開し、心嚢ドレナージを行うための心嚢開窓術を行います。
(c)重症肺塞栓症
心臓自体はしっかり働いているものの、肺動脈が血栓によって詰まる、または狭窄することで、右心室の後負荷が増大して心拍出量が低下し、機能不全に陥って、急性呼吸不全を呈します。その結果、血圧低下、呼吸困難、失神発作、チアノーゼなどの症状がみられます。
重症肺塞栓症への対応
深部静脈血栓症から連続している病態なので、まずはその予防と早期発見が大切です。
深部静脈血栓症の症状は、無症状から四肢循環不全までさまざまです。典型的な症状としては、下肢の腫脹、疼痛と圧迫、色調の変化(チアノーゼ)、表在静脈の怒張などが、特に片側に現れるというのが特徴です。例えば、足を押したり、触ったりして痛い場合、深部静脈血栓症が疑われます。こうして深部静脈血栓症を早期に発見できれば、ヘパリン投与などで血液が固まらないように対処します。
万一、重症肺塞栓症が起きてしまったと疑われる場合は、まずは臨床症状からみていくことが大切です。ただし、これといった特徴がなく、心筋梗塞と間違われることもあります。心電図からもほとんど鑑別できません。ですから、その他の特徴や胸部X線、心エコー、画像診断で確定診断します(下表参照)。そして、血栓溶解療法や抗凝固療法、経皮的心肺補助装置(PCPS)などで治療します。
手術後やカテーテル検査後の安静解除時に、初めて歩行した、あるいは排便・排尿して、呼吸困難が生じたような場合は、急性肺血栓塞栓症を疑うべきでしょう。そのため、患者さんが手術後に初めて歩行するときは、必ず看護師が付き添うようにします。
重症肺塞栓症の臨床症状
1.非特異性
2.心電図変化→ほとんど鑑別できない
3.低酸素血症→低二酸化炭素血症(過換気)
4.胸部X線→肺動脈の拡大や肺血管陰影の減少
5.心エコー→肺高血圧や右心負荷の所見が即座にみられる
6.画像診断→血管造影、CT、MRIなどで確定診断する
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(d)緊張性気胸
肺胞が破れて胸腔内が陽圧となり、空気が流入したため、肺が部分的または完全に虚脱した状態をいいます。空気の逃げ場がないので 、陽圧が進行して心臓を圧迫し、心タンポナーデと同じような状態となり、やがて心停止を来たします。人工呼吸器装着中や、中心静脈カテーテル挿入時の誤穿刺、胸部の外傷時などに起こりやすくなります。特に人工呼吸器装着中は注意が必要です。
胸痛、頻呼吸、頻脈、患側の呼吸音低下と胸郭運動低下、低血圧などの症状がありますが、看護師が発見しやすい徴候は「患側の呼吸音が聴こえない」ことです。
緊張性気胸への対応
確定診断は胸部X線ですが、それを行っている時間がない場合は、いち早く脱気する必要があります。脱気方法は胸腔穿刺(18G針使用)か、胸腔ドレナージです。
(『ナース専科マガジン』2012年6月号より転載)
その他のショックについてはこちら
* ショックの定義、症状、診断基準と見極め
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