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【連載】看護師のための輸液講座

第5回 輸液ラインにフィルターは必要?

  • 公開日: 2009/7/1
  • 更新日: 2020/10/21

輸液ラインのフィルター

今回は、輸液や栄養のことに興味がある方なら、『興味をもって』読んでいただける内容だと思います。
そう、中心静脈カテーテルの管理上、問題となっている『輸液ラインにフィルターは必要なのか?』という内容ですからね。
しかし、私の中ではずっと以前より結論は出ていて、なぜ、こんなにもめるんだろう、というのが正直な感想なのです。
結論を出す前に、少し、フィルターについての知識も増やしておきましょう。
フィルターにはどんな機能があるのか、ご存じですか?
輸液中の沈殿物や異物、細菌などの微生物を捕えて血液中に入らないようにする、空気塞栓を防止する、という3つの機能があります。
異物としては、混注する時の酒精綿の綿やアンプルカットのガラス片、バイアルなどのコアリングでできてしまったゴム片などがあります。
薬剤相互間の反応でできた沈殿物も重要です。
フィルターがないと、これらが全部体の中に入ります。

使用後フィルターの拡大写真

フィルターの網の目の中に微細な異物が捕捉されている。
フィルターがなければ、これらの異物はすべて体内に入ってしまうことになる。

使用後フィルターの拡大写真

空気塞栓を防止するという機能も結構重要です。
フィルターについているエアベントの部分から空気を逃がして血管内に入らないような構造になっているのです(第4話:輸液ラインの中の気泡でも説明しています)。
この2つの機能は一般的に意味があると認められています。
でも、本当は一番重要な『微生物を捕捉する』という機能については、CDCのガイドラインの条項を根拠に、意味がないという意見が出てきているのです。
しかし、0.2μmの孔径のフィルターでは、事実上すべての細菌を捕捉することができますし、できるということを条件にフィルターが認可されている、ということも考えておくべきでしょう。

輸液フィルターの構造図

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Aよりフィルター内に流れ込む輸液に細菌、異物が含まれていれば、親水性膜で濾過され、Bから無菌かつ異物の混入されていない輸液が流出することになる。

輸液ラインにフィルターを組み込むべきか?

さて、フィルターを中心静脈カテーテル(CVC)の輸液ラインに組み込むべきか、については、いろいろ議論があります。
その議論のきっかけは、1996年に発表されたCDCのガイドラインで『Do not use inline-filters routinely for infection control purposes.(感染予防目的にルーチンにインラインフィルターを使うべきではない)』と記載されたことにあります。
この条項の根拠となった論文をすべてチェックした方はおられますか?
CDCのガイドラインで引用されている論文は、どれも、20年以上前の論文で、末梢静脈ラインにおける検討と実験的検討です。
中心静脈カテーテルに関するデータではありません。
しかも、使われているフィルターは0.45ミクロンで、エアーベント(空気抜き)がないため、管理の途中で閉塞し、頻回にフィルターを交換する必要がある、そのために感染の機会が増える、そうなっても当然のものです。
それらの論文で、どうやってフィルターを使うのをやめた方がいい、という推奨になるのでしょうか。
また、これらの論文を全部で読んで、中身を吟味してこの条項について自分として考えた方はおられますか?
『CDCのガイドラインでフィルターは使う必要がないと言ってる』、『と、日本語に訳した人が言っている』、『と、いう講演を聴いてきた』、『と、雑誌に書かれていた』、という風な感じでこの条項を信じてしまった方が多いのではないかと思います。 
厚生労働省から出されている『医療機関における院内感染対策マニュアル作成のための手引』 では『インラインフィルターを使用する(推奨度A)』と記載されています。
このガイドラインを策定するに際してはつっこんだ議論が行なわれました。
問題は、日本の輸液調製がどのように行われているのか、ということでした。
アメリカでは、CVCラインから投与する輸液は、薬剤部でクリーンベンチを用いて無菌調製されています。
それに対して、日本では多くの施設で、病棟で、看護師さんが輸液調製を行っています。
薬剤部で無菌調製されていても、病棟でさまざまな薬剤を追加混注する、ということも行われています。
さらに、TPN輸液であっても、便利という理由で、何種類もの薬剤が混注されていることもわかりました。
この方法で輸液の無菌性が保証されるでしょうか。だから、インラインフィルターを組み込むべきだ、という結論に達したのです。

TPN輸液の調製者、調製場所

薬剤部で薬剤師が無菌調製している施設が増えてはいるが、まだ看護師が病棟で輸液調製を行っている施設の方が多い。

調査結果グラフ

しかし、フィルターを使っていても、その患者側に三方活栓をつけて、そこから静注しなければならないんだから、いくら輸液からの微生物をフィルターで捕捉しても意味がない、という意見もあります。
これは、現実的には正しい意見でしょう。
でもよく考えると、この考え方は結局、輸液ラインに関するカテーテル敗血症予防対策はやらない、ということになるのではないでしょうか。
インラインフィルターは、フィルター使用の是非だけを議論するのではなく、輸液調製の方法や輸液内容、輸液ラインの構造や管理方法など、輸液管理システム全体の中でのフィルターの役割について考えなければなりません。
インラインフィルターが必要だ、ということで、延長チューブ付フィルターを輸液ラインに接続する、という方法であれば、接続部の数が増えることにより接続部からの汚染の機会が増えることになる危険性もあります。
これも考えておかなければなりません。
フィルターは、ただ組み込めばいい、というものではありません。
インラインフィルターは、あらかじめ輸液ラインに組み込まれたものを使用するべきである。
延長チューブ付きフィルターを輸液ラインに接続するという方法では、接続部の数が増えることによって汚染の機会を増やすことになることがある。
インラインフィルター説明写真

また、フィルターを使っているから輸液は多少汚染しても大丈夫、管理はそれほど厳重でなくてもよい、という考え方も間違いです。
もちろん、フィルターの機能を考えれば、こういう考え方がでてきてもおかしくはないかもしれません。
しかし、フィルターを使うという考え方の根底にあるのは、できるだけ無菌的な管理ができるように努力しよう、でも、万一汚染した場合のことを考えてフィルターを使用しよう、という考え方です。
それから、CVCラインにフィルターが必要なんだったら、当然、末梢静脈ラインにもフィルターをつけるということにしないと、理論的におかしいでしょ、末梢静脈ラインにもフィルターを使うと費用が莫大なものになるでしょ、という議論もあります。
でも、それは、輸液・栄養ということを考慮していないからの意見だと思います。
フィルター使用の是非については、輸液の中身を考慮して議論すべきです。
末梢静脈ラインから投与する輸液の大部分は、糖電解質液です。
糖電解質液が細菌で汚染しても、その中での細菌の増殖速度は遅いことがわかっています。
ですから、輸液の汚染ということだけを考えると、フィルターは使わなくてもいい、ということになります。
糖電解質液を投与する場合にはフィルターは不要である、という結論でいいと思います。
これに比べると、いわゆるPPN(末梢静脈栄養法)として用いられるアミノ酸加糖電解質輸液は、細菌で汚染すると、増殖速度が非常に速いことがわかっています。
その結果、全身性にカテーテル敗血症を起こすことがあります。ということは、PPNの場合は、原則的にはTPN輸液と同じようにフィルターが必要、ということになります。

末梢輸液ラインの使用方法

しかし、PPNの場合にはフィルターを使うべきなのに、どうして、必ず使用しなさい、と言わないのか、という疑問を持たれると思います。
そこに、末梢輸液ラインの使用方法が関係してきます。
PPNの場合には輸液ラインもカテーテルと一緒に72~96時間で交換することになっています。
これを前提として、PPNの場合にもフィルターを使用しなくてもいいのではないか、ということになるのです。
しかし、PPN用輸液を普通の糖電解質輸液と同じように扱うべきではありません。
できるだけ薬剤は混注しないようにすべきですし、無菌性という問題に注意を払うべきです。
ここが非常に重要です。
PPNの場合には静脈炎の発生頻度が高いことが知られています。
これに対する対策として、ヘパリン、ステロイド剤、血管拡張剤などを混注したりして、できるだけ末梢静脈カテーテルを長期間維持しようという試みもなされています。
しかし、この方法は感染のことを考えると、お薦めできません。
厚生労働省のガイドラインでもこのように推奨されてはいません。
輸液ラインが汚染してしまう可能性が高くなるからです。
輸液ラインとカテーテルは72時間から96時間毎に入れ換えるという原則を守らないと、PPNでも全身性の敗血症になってしまう危険性があります。
また、フィルターの使用をやめて、その浮いたお金でクローズドシステムを採用した、という施設もあります。
しかし、フィルターを使用することとクローズドシステムを導入することとは、違った対策であるはずです。
クローズドシステムを導入してもしなくても、輸液の汚染を考えたら、フィルターは使うべきである、ということはご理解いただけると思います。
0.2μmのフィルターでもカンジダが貫通するという報告を根拠に、フィルターの微生物除去能は完璧ではない、という意見もあります。
確かに、Candida albicansは仮性菌糸を延ばすことによって0.2μmのフィルターを貫通するという現象を確認することができました。
その原因も明らかにすることができました。
とにかく、私の論文を読んでください 。
結論は、フィルターの膜が非対称膜で構成されているものは、仮性菌糸を伸ばして増殖するCandida albicansの貫通を阻止することができない、ということです。
逆に、対称膜から構成されているフィルターを使えば、Candida albicansの貫通を阻止することができるのです。

非対称膜から構成されているフィルター

0.2μmと規定されているフィルターでも、Candida albicansが貫通する非対称膜から構成されているものがある、ということも示しました。 現在使用されているさまざまなインラインフィルター 
A,B,Cは対称膜、D,Eは非対称膜から構成されている。
Fも非対称膜であるが、流入側が密な構造となっている。

A,B,Cは対称膜、D,Eは非対称膜から構成されているフィルター

Candida albicansは、直径1~2μm以上の菌体であるが、仮性菌糸を延ばして増殖するので、0.2μmのフィルターを貫通する可能性が否定できない。対称膜表面で増殖したC.albicansを示している。

対称膜の断面図

対称膜の断面図。流入側も流出側も同じように密な構造となっている。

非対称膜のフィルターの断面図

非対称膜のフィルターの断面図。
流入側の口径は大きく、流出側の口径は非常に小さい。
流入側の口径は40μm以上の部分もあるため、C.albicansが入りこむことができる。

非対称膜フィルターの流入側に入りこんだC.albicansの菌体

非対称膜フィルターの流入側に入りこんだC.albicansの菌体を示す。
ここから仮性菌糸を延ばしてフィルターを貫通する。

仮性菌糸を延ばしてフィルターを貫通する

ですから、使っているフィルターの会社に、対称膜なのか、非対称膜なのか、を確認しておく方がいいでしょうね。 なぜなら、現在のTPN輸液ではCandida albicansが増殖しやすいからです。
Candida albicansの貫通を阻止できない非対称膜から成るフィルターは、はっきり言うと、特にTPNラインに用いるフィルターとしては意味がない、ということになります。
対称膜から構成されたフィルターは、Candida albicansはもちろん、細菌も1週間の間捕捉できるということも証明しております。

結論

結論です。輸液を薬剤部で無菌調製し、病棟で薬剤を何も混注しないのであれば、インラインフィルターは不要かもしれません。 しかし、さまざまな薬剤が混注されていると、輸液そのものにも微細な沈殿物などが含まれていますから、やはり、インラインフィルターを使うべきです。 この条件に当てはまらない場合は、インラインフィルターを使った方がいいでしょう。 しかも、対称膜のフィルターを使うべきです。
<参考文献>
1. http://www.nih-janis.jp/manuduction2/Ver_5.0本文070904.pdf
2. 井上善文:0.2μm輸液フィルターの膜構造とCandida albicans除去能に関する検討.外科と代謝・栄養42:11-18,2008

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