進行胆道がん治療におけるイミフィンジの役割とは~免疫チェックポイント阻害剤による胆道がん治療の変革~
- 公開日: 2023/3/30
2023年2月7日、「進行胆道がん治療におけるイミフィンジの役割とは~免疫チェックポイント阻害剤による胆道がん治療の変革~」をテーマにしたアストラゼネカ主催のプレスセミナーが開催されました。ここでは、神奈川県立病院機構 神奈川県立がんセンター 総長 古瀬純司先生の講演「胆道がんに対する治療選択と薬物療法」をレポートします。
胆道がんの治療
胆道がんの治療法には、手術療法、薬物療法、放射線療法の積極的療法と、症状の緩和に専念する緩和療法があり、これらを患者さんの状態に応じて選択していきます。
胆道がんの診断がついたら、まずは手術可能な状態かを判断します。切除可能であれば、術前処置や残肝予備能を評価するなどしたうえで手術を行い、術後は術後補助療法を6カ月実施します。手術不可となった場合は、薬物療法、放射線療法または化学放射線療法、緩和療法から治療を選択していきますが、生存期間延長のエビデンスがあるのは薬物療法のみです。
また、肝内胆管がんに関しては、『肝内胆管癌診療ガイドライン 2021年版』にて治療アルゴリズムが示されています。肝予備能が維持されている患者さんで肝外転移が認められた場合は、薬物療法を実施するとしています1)。肝外転移がなければ、リンパ節転移の有無を確認しますが、このリンパ節転移が見つかると手術は難しくなり、薬物療法の適応となります。肝外転移がない切除不能の肝内胆管がんに対して、定位放射線治療や粒子線治療が考慮されるようになりましたが1)、薬物療法が治療の大きなウエイトを占めます。
切除不能胆道がんに対する薬物療法
1990年代、切除不能胆道がんに対する薬剤は、フルオロウラシル経口薬(UFT)とドキソルビシンの2種類しかありませんでした。この2つの薬剤を使用した場合の腫瘍縮小効果は5%未満、全生存期間(OS)は4~6カ月と短く、既存の薬剤では効果を認めないという結論に至りました。
そのようななか、膵がんでも適応のあったゲムシタビンを使用した臨床試験が行われ、腫瘍縮小効果が17.5%、OSも7.5カ月という結果が得られました。この頃は、比較試験を求められていなかった時代だったこともあり、この試験の結果のみで薬剤承認を得ることができました。
2007年にはS-1という内服薬も登場し、腫瘍縮小効果が35%、OSは9.4カ月と大変よいデータが出ました。さらに、2010年にはゲムシタビンにシスプラチンを併用するGC療法も承認されるなど、胆道がんに使用できる薬剤が増えてきました。中でもGC療法は、切除不能胆道がんで推奨される薬物療法のグローバススタンダードとなりました。
それ以降、新薬の登場はありませんでしたが、S-1の使い方について検討がなされ、ゲムシタビンにはシスプラチンではなく、S-1を併用したほうがより高い効果が得られるのではないかという見解のもと、比較試験が実施されました。結果はGC療法とほとんど同じだったものの、毒性が強く投与時間の長いシスプラチンではなく、内服薬であるS-1を使うこともできるという治療の選択肢を増やすことにつながりました。
ほかに、GC療法+S-1という3剤併用の試験も行われましたが、こちらは毒性が強く、全員が適応というわけにはいきませんでした。しかし、腫瘍縮小効果は40%を超えたため、腫瘍が少し縮小すれば手術ができるというケースに適応する意義があると考えられています。
『エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン 改訂第3版』『肝内胆管癌診療ガイドライン 2021』のいずれにおいても、切除不能胆道がん(切除不能肝内胆管がん)に対する薬物療法として、ゲムシタビン+シスプラチン+S-1併用療法、ゲムシタビン+シスプラチン併用療法、またはゲムシタビン+S-1併用療法の3種類が推奨されています2)、3)。
免疫チェックポイント阻害剤・がんゲノム医療
2010年代に免疫チェックポイント阻害剤の開発が進み、2019年以降になると、がんゲノム医療の時代に突入します。
胆道がんにおいても、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がんのうち、標準治療が困難な場合に限って、免疫チェックポイント阻害剤であるペムブロリズマブが適応になりました。さらに最近では、腫瘍から出てきた遺伝子変異量が高い(TMB-High)進行・再発固形がんも適応となっています。
胆道がんには、薬剤のターゲットとなるがん遺伝子異常が多くみられ、肝内胆管がんのFGFR2融合遺伝子には、保険適応されているFGFR阻害薬(ペミガチニブ)が使用できます。また、固形がん全体では、NTRK融合遺伝子(肝外胆管がん 0.25%、肝内胆管がん 3.6%)に対して、エヌトレクチニブやラロトレクチニブといった薬剤が承認を得られています。ただし、標準治療がない場合や標準治療が終了した患者さんを対象としているため、使用するにはまだまだハードルが高いところがあります。
イミフィンジの開発
GC療法に上乗せする薬剤として、免疫チェックポイント阻害剤「デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)」が開発され、TOPAZ-1試験と呼ばれる大規模な比較試験が行われました。切除不能胆道がんで薬物療法を受けたことがなく、全身状態や主要臓器が保たれた患者さんをランダム化して1対1に割り当て、一方をプラセボ+GC群、もう一方をイミフィンジ+GC 群として試験が進められました。
主要評価項目であるOSを見てみると、24カ月時点でのOS率はプラセボ+GC群で10.4%であったのに対し、イミフィンジ+GC群は24.9%と有意に延長を認め、さらにハザード比0.80と死亡率を20%下げる結果が出ました。副次評価項目のうち、客観的奏効率(ORR)はイミフィンジ+GC群26.7%、プラセボ+GC群18.7%と、イミフィンジ+GC群で腫瘍縮小効果があるという結果が得られ、12カ月以上奏功が持続した症例の割合は、イミフィンジ+GC群26.1%、プラセボ+GC群15.0%でした。
有害事象については、イミフィンジ+GC群とプラセボ+GC群でほとんど差がなく、イミフィンジを上乗せしたことによる悪影響は出ていないと考えられます。イミフィンジ+GC群でみられた主な有害事象は貧血、悪心、便秘、下痢などで、症例数は少ないですが、免疫介在性有害事象も認めました。
免疫介在性有害事象は、甲状腺機能低下、皮膚炎、肝障害、副腎機能不全、1型糖尿病など多岐にわたり、これらはイミフィンジ+GC群で割合がやや高くなっていました。ただ、これは胆道がんに限ったことではなく、免疫チェックポイント阻害剤を使用する場合は、免疫に関連する有害事象には注意する必要があります。
TOPAZ-1試験により、イミフィンジの有効性・安全性が確認され、2022年に治癒切除不能な胆道がんへの保険適用が承認されました。現在、ガイドラインの改定作業に入っていますので、近いうちに、イミフィンジの使用について盛り込まれたガイドラインが示されるものと思います。
引用文献
1)日本肝癌研究会,編:肝内胆管癌診療ガイドライン 2021.金原出版,2020,p.12.(2023年3月28日閲覧) https://www.nihon-kangan.jp/files/2021_ICC_guideline.pdf2)日本肝胆膵外科学会 胆道癌診療ガイドライン作成委員会,編:エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン 改訂第3版.医学図書出版,2020,p.110.
3)日本肝癌研究会,編:肝内胆管癌診療ガイドライン 2021.金原出版,2020,p.62.(2023年3月28日閲覧) https://www.nihon-kangan.jp/files/2021_ICC_guideline.pdf