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【連載】看護に役立つ生理学

第32回 PTとAPTTの違いは?止血機構を知ろう

  • 公開日: 2016/2/10
  • 更新日: 2021/1/6

生体の維持に不可欠な「止血」の機構は、血小板や凝固因子が相互に作用しながら協調することで実現されています。
そのシステムの全貌はきわめて複雑ですが、臨床検査や薬剤に関係する事柄を中心に、止血機構についての知識を整理しなおしてみましょう。

止血の第1段階 血小板の粘着と凝集

まずは、止血のおおまかな枠組みを復習しましょう。
手短に言えば、止血の第1段階は「血小板の粘着・凝集」、第2段階は「凝固因子によるフィブリン形成」とまとめることができます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

血管内皮が損傷して出血の危機が訪れると、最初に起こるのは血小板の損傷部位への粘着です。ここで早速、「なぜ血小板は損傷部位を『見つける』ことができるのか」という疑問が生じます。それを考える前に、「なぜ普段は血小板が血管の内壁に粘着することがないのか」を考えてみましょう。

血小板と血管内皮はいずれも、その表面にマイナスの電気を帯びており、ほかに引き合う原因がなければ電気的に反発し合います。これが血小板同士、あるいは血小板と血管内皮細胞との結合を妨げています。そのほかにも、血管内皮細胞が血小板の働きを抑制する物質を産生するなどして、不必要な粘着を防いでいます。

しかし、ひとたび血管内皮が損傷して、内皮下層にある結合組織(主としてコラーゲン)が露出すると、その部分には粘着の邪魔をするものが無くなります。それだけではなく、血漿中にはコラーゲンと血小板との結合を橋渡しする物質(ヴォン・ヴィレブランド因子、以下vW因子)が存在しており、この因子によって粘着が促されます。

粘着の次に起こるのは、損傷部位で血小板同士がさらに集まって結合する「凝集」です。これは先ほどのvW因子を初めとした物質が血小板同士の接着剤として働くことによって起こりますが、それならば損傷部位以外の場所でも凝集が起こりそうなものです。

ここで重要なことは、粘着した血小板は単にそこにとどまるだけでなく、種々の変化を起こして形態まで変え、高い凝集能力を持った状態へと「活性化」される、ということです。それゆえ、活性化された血小板のいる損傷部位にほかの血小板がどんどん結合し、血栓を形成します。

血管内皮の損傷部分を拡大した図

図1 血管内皮の損傷部分を拡大した図

止血の第2段階 凝固因子によるフィブリン形成

ここまでを止血の第1段階と呼ぶならば、第2段階はこの血栓に繊維を絡み付けて強固なものにする過程です。
この繊維を構成する物質をフィブリンと呼び、これを最終的に産生するために、血漿中の種々の物質が活躍します。

これらは凝固因子と呼ばれ、発見順に番号が付いています。
図2のような複雑な図を、一度は見かけたことがあるでしょう。細部を一度に理解する必要はありませんが、アウトラインを読み取れるようになりましょう。

血液凝固カスケード説明図

図2 血液凝固カスケード

一連の反応は「凝固カスケード」と呼ばれますが、その名の通り、上流でひとたび凝固系の引き金が引かれると、まるで滝(cascade)が流れ落ちるように下流の反応が増幅され、フィブリン形成に至ります。

図を見る限り、この滝の上流は2つに分かれており、やがて合流しています。
伝統的に、図の左上の流れを「内因系」、右上を「外因系」、合流後を「共通系」と呼びます。内因系も外因系も、その出発点、すなわち凝固が開始される「きっかけ」があるはずであり、これを理解することが重要です。

中でも特に重要なものが、外因系の出発点となる物質である「組織因子」です。そもそも図に登場する凝固因子はいずれも血漿中に含まれる物質ですが、この組織因子だけは血管外の組織(血管内皮下の平滑筋細胞など)から供給される物質であり、だからこそ「外因系」という名称が付いています。血管が損傷すると、組織因子が血漿に侵入して凝固系の引き金を引き、速やかにフィブリン形成をもたらします。

いっぽう内因系は、血漿中の物質のみで反応が進行するために、その名が付いています。そのきっかけは、血液が異物と接触したことによる、電気的な作用によってもたらされると言われています。

この内因系反応は、例えばガラスなどの異物に接触することでも起こるために、「試験管で再現できる凝固反応」としてよく知られていました。このため生体においても、外因系とともに凝固カスケードの重要な一端を担うと考えられてきました。

しかし近年では、生理的な凝固反応は主として外因系によるものであることが明らかになってきています。図2で言えば、濃いピンクの矢印で示したような経路が、生理的な凝固のメインルートであると言われています。後述するPTやAPTTといった臨床検査も、生体での凝固反応を完全には再現していないという点に注意が必要です。

以上のように、止血に不可欠な血栓の形成は大きく2段階に分けて考えることが通例ですが、これらは明確に分離されたステージとして起こるのではないという点にも注意してください。

例えば、後述するリン脂質のように、凝固カスケードを進行させるための物質を血小板が供給したり、あるいは逆に凝固因子の中にも血小板を活性化させる作用を持つものがあります。このような相互作用の上に、複雑な止血のシステムが成り立っています。

血液凝固検査のメカニズム

止血の第2段階である凝固機能の異常を見極めるために行われる臨床検査が、「血液凝固検査」です。血液凝固検査とは、患者さんから採血した血液に抗凝固剤を加えて凝固をいったん食い止めておき、検査室で抗凝固剤を中和したうえで、さらに何らかの試薬を加えて凝固系を始動させ、血液凝固が見られるまでの時間を測定するものです。

多くの場合、凝固過程のどこかに障害が存在するために血液凝固が遅延することを反映して、これらの測定時間が延長するケースに臨床的意義があります。

血液凝固検査にはさまざまな方法が知られていますが、臨床で最も頻用されるのは「プロトロンビン時間」(PT)と「活性化部分トロンボプラスチン時間」(APTT)の2つです。では、両者はそれぞれ何を見ていて、どう違うのでしょうか?

point1
PT=プロトロンビン時間(prothrombin time)APTT=活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time)

PTとAPTTの違い

結論から言えば、プロトロンビン時間は前述の凝固カスケードのうちの外因系を、APTTは内因系を反映しています。共通系が障害された場合には両方が異常を示します。それだけ記憶しておけば事足りるのですが、どのようなメカニズムで測定しているのか、また、なぜこのような名前が付いているのかを理解しましょう。

実はPTとAPTTとでは、名前の付け方が異なっています。APTTの「部分トロンボプラスチン」とは、それ自体が試薬の名称であり、測定の際にはこれを血漿に加えて凝固時間を測定します。一方、PTを測定する際には、血漿にプロトロンビンを加えるわけではありません。

PT測定において加えるのは「組織トロンボプラスチン」という試薬です。非常に紛らわしい名前の物質が登場しましたが、この「トロンボプラスチン」という語が、PTとAPTTの違い、ひいては外因系と内因系との違いを理解する鍵となります。

point2
PTは「組織トロンボプラスチン」を加えて外因系を、APTTは「部分トロンボプラスチン」を加えて内因系を、それぞれ評価する。

次回は「トロンボプラスチンとは?」についてです。

(『ナース専科マガジン』2013年8月号より転載)

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