【人工呼吸器】アラーム対応の基礎知識
- 公開日: 2013/11/2
苦手意識をもつ看護師が多い人工呼吸器のアラーム。しかしその対応を一歩間違えれば患者さんの生死に直結してしまいます。
ここでは、苦手意識の理由を探るとともに、アラーム対応時の基本的な姿勢と考え方について解説します。
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人工呼吸器のアラームの原因と対応
人口呼吸アラーム対応の基本
人工呼吸器のアラーム、3つの役割
アラームは誰のためにあるのでしょう。人工呼吸器は医療者が管理するものであり、アラームも医療者のための警笛であると考えられがちですが、その使用者は患者さんであり、患者さんの声の代わりと考えてよいでしょう。
人工呼吸器を装着した患者さんは、挿管されていたり鎮静の状態にあるため、訴えを伝えるコミュニケーション手段をもちません。そこでアラームが患者さんの“声にならない声”を代弁しているのです。あくまでも私たち医療者は、アラームという声を聞き、患者さんをサポートする立場に立っています。このように考えるとアラームは「3つの声」をもっています。
「息が十分に吸えなくて苦しい」「空気が多すぎてもう吸えない」など患者さんの呼吸状態を知らせる声が一つ、「回路のどこかが詰まっている」「どこかから空気が漏れている」など人工呼吸器本体の故障や回路の不備を知らせる声が一つ、そして「酸素が供給されていない」「電源が抜けている」など環境・設備の不具合などを知らせる声が一つです。
さらに、一つの人工呼吸器に備えられているアラームが何種類にものぼるのも、アラームには、緊急度によるレベルがあるためです。
このように、アラームには患者さんを危険から回避させて守る役割があり、看護師には患者さんのサポーターとしてアラームが発する声を受け止め、対処する能力が求められています。少しでも早くリスクを避け、危険を回避させるためには、看護師の「気づく力」が不可欠となります。
自分が人工呼吸器装着中の患者さんだったら……
アラームの原因は患者さんにありますから、患者さんを見ればわかることはたくさんあります。ところが機械ばかり見ていても原因に気づくことはできません。そこで余計にわからなさからくる不安が高まり、パニックになり慌ててしまうのです。
患者さんを見たときに、気づくトレーニングはOJT(On-the-JobTraining)で培います。このときのポイントは“自分が今この患者さんだったら” と常に考えることです。
呼吸数の増加を示すアラームが鳴っていれば、発熱や疼痛、不安、呼吸苦など、自分が頻呼吸に陥るときの状況を想像しながらバイタルサインや生体情報モニターを観察します。このように自分に置き換えて考えていく習慣をつけることで、対応への道筋をよりシンプルにすることができます。
原則原理を知って慌てずに対処しよう
人工呼吸器の機種の多さは、設定方法の違いや各部の名称における表記の不統一も生んでいます。例えばアラームの名称では、同じ内容のアラームにもかかわらず、「最高気道内圧アラーム」=「回路内圧上限アラーム」=「気道内圧上限アラーム」と、メーカーによって名称もまちまちです。
同じメーカーであっても年式によって名称が異なるものもあり、Bennett760の「ハイプレッシャーアラーム」とBennett7200の「回路内圧上限アラーム」が同じ内容であることなどがその例です。
このように設定や名称が統一されていないために、取扱説明書を読んでも理解しにくいところに、アラームは患者さんの命に直結しているという緊張感が重なり、いざ作動したときに「アラーム=怖い」という苦手意識が植え付けられてしまっていると考えられます。
だからこそ、人工呼吸器とアラームの原理原則を知ることが不可欠であり、しっかりと押さえておくことで慌てず対処しやすくなるのです。
人工呼吸器だけでなく生体情報モニターのアラームにも注意!
人工呼吸器のアラームが、万一、正常に作動しない、あるいは何らかの原因で人工呼吸器自体が停止した場合に備えて、独立した生体情報モニターを併用し、緊急時の早期発見に備える必要があります。
生体情報モニターには、心拍数・血圧などの基礎的なバイタルサインを観察するもののほかに、人工呼吸器装着時の患者さんの酸素化状態である動脈血中酸素飽和度(SpO2)を測るパルスオキシメーターや、呼気中の二酸化炭素を測定するカプノメーターがあります。
換気していない、あるいは患者さんから呼吸器が外れた場合には、炭酸ガスの排出が停止するため、カプノメーターはただちにアラームを発します。また、その状態が持続すると動脈血中酸素飽和度が低下するため、パルスオキシメーターもアラームを作動させます。人工呼吸器のアラームが作動していなくても、これら生体情報モニターがアラームを発している場合は、早急に対処しなければなりません。
そのとき大切なことは、患者さんの安全を確保することです。まずは用手換気に切り替え、患者さんの呼吸を確保した上でゆっくり原因を探します。
このように生体情報モニターは、低酸素状態や低換気状態を早期に発見し、正常な状態へと回復させるために重要なモニターなのです。
頻回にアラームが鳴る場合は履歴を確認しよう!
臨床現場でよく遭遇するのは、アラームが鳴って消音した後に、リセットしていないために繰り返し作動してしまうケースです。メーカーや機種にもよりますが、リセットしないかぎりアラームを消せなかったり、モニター上にアラーム履歴が残る機種があります。消音後にたびたび鳴る場合は、「リセットせよ」という機械の呼びかけですから、正しく作動させるためにも必ずリセットします。
また、本体の故障をいち早く知るためにも、モニター上の履歴を確認する習慣をつけましょう。人工呼吸器は原則としてトラブルが起こったりアラームが出ても、セーフティ機能が働いて動き続けるため、トラブルの発生そのものに医療者が気づかないことも少なくありません。モニターの近くを通る際には、必ず履歴の確認を習慣づけると本体の故障という高いリスクを回避できます。
なお、故障の履歴を目にしたときは、慌てずにとりあえず用手換気に切り替えるか、人工呼吸器そのものを取り替え、換気を確保してからゆっくり原因を探すようにします。
アラームが鳴ったら、人工呼吸器の作動チェックを!
人工呼吸器の機種によっては始業点検できるものもありますが、アラーム機能には作動チェックが必要です。作動チェックの方法は、例えば接続したテスト肺を圧迫して広がりにくい状態にするなど、回路内圧上限アラームが作動するような状況を人工的に作り出し、まずアラームが発生するかどうかを確認します。
次に、アラームが鳴ったら、人工呼吸器が安全な作動をするかどうかを確認します。アラーム作動時は、例えば高圧アラームが発生した場合、送気を停止し、設定された圧以上に気道内圧を高めないようにするなど、患者さんを危険から回避するように設定されています。
このようなセーフティ機構がきちんと作動するかどうかを確かめます。また、無呼吸アラームが鳴ると、多くの機種では安全機構としてバックアップ換気が開始されますが、このようなアラームに対するバックアップ作動も確認します。
なお、点検では確認できませんが、人工呼吸器には万一機器が何らかの故障で止まっても、窒息させないためにバルブを全開放する仕組みがあります。
*次ページは「病態とアラームの関係」について解説します。