うつ病・認知症の観察とアセスメントのポイント
- 公開日: 2013/2/25
うつ病や認知症は症状が多様で周囲にも影響を及ぼすため、家族ケアを視野に入れたかかわりが大切になります。
うつ病と認知症はどこが違うのかを知っておきましょう。
▼認知症の看護・ケアの記事をまとめて読むならコチラ
認知症・認知機能障害の看護ケア|原因、症状、アセスメントのポイント
うつ病・認知症はなぜ起こる?
うつ病
■どんな症状?
うつ病とは、何らかの要因によって倦怠感、うつ感、思考の抑制、活動意欲の低下、身体症状などが生じ、生活に支障を来している状態です。しかし、高齢者のうつ病はそうした典型的なうつ症状とは違い、頭痛、頭重、疲労感、食欲減退、睡眠障害などの症状を訴えることが多く、また思考や行動の抑制の出現が比較的遅く、重くなってから出ることが多いため、周囲の人が気付きにくく発見が遅れてしまうことが少なくありません。
■高齢者のうつ症状の特徴
1. 症状が蔓延化しやすい
2. 不安感、焦燥感、苦悶感が強い
3. 頭痛、頭重、易疲労感、食欲減退、睡眠障害などの心気症状を伴う
4. 心気妄想、罪業妄想、貧困妄想、被害妄想などの妄想を伴うことがある
5. 認知症との識別が難しい
6. 閉じこもりがちになる
7. 抑うつ症状に日内変動がある
8. 自殺が多い
などが挙げられます。
■うつ病に伴うのはこんな症状
1. 倦怠感
2. 思考の抑制
3. 動意欲の低下
4. 頭痛
5. 疲労感
6. 食欲減退
7. 睡眠障害
8. 妄想
9. 閉じこもり
認知症
一方、認知症は、後天的な脳の障害によってそれまで獲得した能力が非可逆的に低下した状態を指し、それによって生活に支障が生じます。
認知症の症状には、記憶障害、見当識障害、遂行機能障害、失語・失認・失行など、脳病変の部位と程度が大きく関与する中核症状と、それによってもたらされる周辺症状とがあります。アルツハイマー型認知症においては、中核症状の中で最も早期に出現するのが記憶障害で、体験したこと全体を忘れてしまいます。
例えば、大切なものをしまった場所はもちろん、しまったことさえ忘れてしまい、何度も訴えるといったことも記憶障害によって起こります。また、古い記憶に比べて、間近に起こった出来事の方が忘れやすいという特徴があります。
見当識障害は、自分を取り巻く環境、置かれた状況を適切に認識する能力が障害されることです。今は何月何日なのか、自分がいる場所がどこなのか、目の前にいる人は誰なのかといったことがわからなくなってしまいます。この障害は、時間、場所、人の順に出現します。
遂行機能障害は、生活上の課題や問題を解決するときに、計画を立て、それに従って実行していく能力が障害されます。段取りができないため、料理が得意だった人が作れなくなったりします。
失語は、発声器官や聴覚は正常なのに、言葉がすぐに出てこなくなり、うまく話せなかったり、言葉が理解できなくなったりする状態です。
失認には視空間失認、物体失認があり、視覚・聴覚に異常が認められないのに見えているもの、聞こえているものが何かを認知できない状態です。
失行は、運動機能は正常ですが、パターン動作ができなくなる状態で、例えば、空間位置的な位置関係の識別障害によって、服の着脱ができなくなったりします。
一方、周辺症状には、徘徊、多動、不潔行為、収集癖、暴言・暴力、介護への抵抗などの行動障害と、不安・焦燥、妄想、幻覚、抑うつなどの精神症状があります。周辺症状は、中核症状がベースとなって、その人の心理状態(不安・混乱・孤独感・不快感)や不適切な環境、不適切な対応(叱責・無視)、生きてきた背景および性格、身体状態などが複雑に絡み合って出現するといわれています。 それだけに、対応には個別性が重要です。介護困難になることも多いのですが、その一方で個々に合わせたケアを行うことにより、症状は軽減されるともいわれています。
(図 認知症の症状説明)
■認知症に伴うのはこんな症状
1. 記憶障害
2. 見当識障害
3. 遂行機能障害
4. 失語
5. 徘徊・多動
6. 不潔行為
7. 暴言・暴力
8. 幻覚
9. 抑うつ
どうして起こるの?
うつ病の要因としては、加齢による精神・身体機能の低下への苦痛、社会的役割の喪失、親しい人の喪失体験、身体的な病気の発見、薬物の影響、などがあります。認知症では、その多くがアルツハイマー病と脳血管障害が原因疾患となっています。
また、多くの認知症は非可逆的ですが、脳腫瘍や慢性硬膜下血腫、水頭症など、疾患によっては認知症様症状を呈するものがあります。それらは原疾患を治療することで症状が改善されることが多いといわれています。
うつ病・認知症の観察とアセスメントのポイント
うつ病での入院であっても、物忘れやいくら説明しても理解ができないなど、認知症が疑われるケースも出てきます。どのようなことに気を付けて、観察をしたらいいのかを知っておきましょう。
うつ病での入院では、対症療法を優先
うつ病での入院であっても、物忘れやいくら説明しても理解ができないなど、認知症が疑われるケースも出てきます。しかし、うつ病での入院では出現している症状への治療が優先されるので、うつ症状へのアセスメントが重要になります。特に高齢者のうつ病は、自殺が多いので十分な観察が必要です。
観察のポイントとしては、抑うつの程度、気分の日内変動、表情、周囲の人との会話の様子、訴えの多さ、妄想の有無、睡眠状況といった精神症状に加え、排泄状況、食欲不振の有無、胃腸障害、頭痛などの身体症状を見ていくことが大切です。
また、急に身辺整理を始めたり、「死にたい」といった自殺願望を口にするときは、自殺のサインと考えられるので、そうしたサインや徴候は受け流さずキャッチしていきます。
的確なアセスメントで早期発見に努める
認知機能は、認知機能検査や画像からの評価、そして問診などの臨床症状を総合的に評価して診断します。ただし、認知症の場合には、症状があっても日常生活に影響がなければ大きな問題はなく、自宅で過ごすことができます。
従って、患者さんが日常生活を送る上で困難となっている点やADLをアセスメントすると同時に、患者さんが持っている機能(できること)についてもアセスメントし、ケアプランを立てていくことが大切です。
また、周辺症状については、看護師や介護者の対応によって症状が強められたり、出現頻度が高くなったりします。それだけに、患者さんの行動とその背景についてのアセスメントもまた重要です。
アセスメントのポイントとしては、生活背景、心理面、身体機能面、身体生理面、社会面、認知症と間違いやすい症状との識別などが挙げられます。認知症症状を呈する場合は、「治る認知症」の可能性もあるので、原因を早期に見極め、早期治療へと結びつけることが求められます。
高齢者とコミュニケーションを取るときのポイント
高齢者は、加齢や疾患によるさまざまな機能低下により、コミュニケーションがうまく取れないケースは少なくありません。そのため、看護師にはその特徴を理解し、的確に働き掛けることが求められます。
まずは、高齢者の機能低下の程度をアセスメントして、その能力に応じた伝達手段を考えます。難聴の場合には補聴器や集音器などの補助的手段を用いる、視覚障害があるときは掲示物の文字を大きくする、などがこれに当たります。
また、高齢者は運動機能の低下により動作などの動きが遅くなります。看護側のペースや都合を押しつけず、患者さんのリズムやペースに合わせて、焦らせないで待つ姿勢が大切です。質問なども一つ一つゆっくりと、患者さんの反応を見ながら進めていきます。顔の表情や手の動き、目つきや態度など、さまざまな角度から、患者さんの心理状態を把握するようにします。
高齢患者さんを個人として尊重し、その人の生活背景や、その人が歩んできた社会的背景を知り、理解して接することも必要です。
うつ病・認知症のケアのポイント
うつ病・認知症の主な特徴と、ケアをするときにどのようなことに気を付けるとよいのかを解説します。
傾聴するときは絶対に否定しないこと!
うつ病および認知症では、患者さんの話を否定せずに、何を訴えたいのか話を傾聴することが基本となります。話を否定すると、うつ病では話してくれなくなったり、認知症では自尊心を傷付けてしまったり、混乱が増長されることを理解しておくべきです。
特にうつ病では、患者さんの話をゆっくりと聞くだけで落ち着くことがあります。その場合、立ち話ではなく、椅子に座って聞いたり、周囲に人がいない場所を選ぶなど、環境を考えて聞くようにするとよいでしょう。
認知症の場合には、言いたいことや思いはあるのに、それをうまく伝えられないことがあります。そんなときに話を止めてしまったり、否定すると、余計に相手を混乱させてしまいます。患者さんの行動には、患者さんなりの理由がありますから、その点に気を付けて、患者さんの訴えに耳を傾けながら対応していきます。
また、初期の認知症では、認知能力の低下によりいろいろなことができなくなっている自分を、患者さん本人が頭の奥で感じ取っています。そのため、不安で抑うつ状態になっていることも少なくありません。そうした患者さんの心理面を理解することが大切で、ADL自立のためと無理に勧めることは、患者さんに大きなダメージを与える結果になります。
患者さんができることを気持ちよくやってもらうこと、そしてそれができるようにさり気なくフォローすることが大切です。
異変のキャッチが合併症の早期発見に!
合併症を発見しにくいというのも、うつ病と認知症の特徴です。高齢者のうつ病は身体症状を訴えることが多く、訴えのすべてがすぐに身体疾患につながるとは限りません。しかし、訴えをうつ病の症状だととらえて対応をすると、合併症だった場合に症状が悪化していることもあるので、訴えを受け止めて、適切なフィジカルアセスメントをしていくことが大切です。
一方、認知症の患者さんはコミュニケーションを取ることが難しく、患者さん自身も体調不良を的確に訴えることができないことが多くあります。先に身体症状が現れれば異変をキャッチできますが、そうでない場合には発見するのは難しいでしょう。
特に高齢者の場合には症状が現れにくいため、症状が出現したときには重篤になっていることが少なくなく、急激に全身機能が低下することもあります。周辺症状や認知症が進んだような感じを受けたときは、早期に合併症をキャッチすることが重要です。
(表 合併症の例)
転倒・転落などのリスクを回避しよう!
認知症では、注意力の低下やバランス感覚の低下による転倒・転落や、何でルートが入っているかが理解できないことによるルートの自己抜去などのリスクが高くなります。センサーマットを使用したり、ルートの固定を工夫したりといった環境整備も重要です。
また、それまで穏やかだった人が暴力的になることがありますが、ほとんどの場合、何らかの前兆があります。その場合、興奮しているときに無理に制止したり、抑制したりするとかえって興奮を助長させてしまうので、患者さんの気持ちが収まるまでは人や物を遠ざけ、安全を確保しながら見守ります。
患者さんが暴力的、不穏になるときには必ず患者さんなりの理由、きっかけがあります。暴力的になるときの前後の様子、言動、何があったかなどを振り返り、その理由を明らかにしてスタッフ全員で情報を共有し、統一した対応をしていくようにします。
症状の違いについて考えてみよう!
■物忘れと認知症
物忘れには、加齢によるものと認知症によるものとがあります。加齢による物忘れは生理的変化に伴うものです。この2つの要因で起こる物忘れの最も大きな違いは、加齢による物忘れは体験の一部を忘れるだけですが、認知症では体験したこと全部を忘れてしまうという点にあります。そのため、加齢による物忘れでは、忘れてしまったことを、何らかのきっかけやヒントで思い出すことがありますが、認知症では後から思い出すことはまれです。
ほかにも、加齢に伴う物忘れが日常生活や社会生活に支障を来さないのに対して、認知症では忘れたことによって、日常生活や社会生活に支障を来すことが挙げられます。さらに、加齢による物忘れでは生活に支障をきたすほどの症状の進行はありませんが、認知症では症状が進行していきます。
■うつ病と認知症
うつ病では、認知症様症状を呈することがあります。これを仮性認知症といいます。出現しているうつ症状が、認知症による性格・思考の変化など認知症の中核症状そのものなのか、うつ病による仮性認知症なのかをアセスメントする必要があります。
うつ病と認知症の違いは、うつ病が比較的急性的に発症するのに対し、認知症は潜伏性があり徐々に発症することです。症状の持続期間は、うつ病もやや長い経過をたどりますが、認知症はより症状の維持が長期にわたることがあります。
また、うつ病では能力低下を深刻に受け止め、悩むことが多いのですが、認知症では、それを取り繕うような応対をする傾向があります。質問に対しても、うつ病の患者さんは「分からない」とはっきりと意思を伝えますが、認知症では「わからない」とは言わず、質問に対して誤った答えをするといわれています。
さらに、うつ病では認知機能の障害が大きく変動しますが、認知症では認知機能の障害が一定しています。予後についても、うつ病は治療で改善されますが、認知症は非可逆性となります。
うつ病・認知症-在宅に向けての視点
在宅へ移行する際にどのようなことに気を付けるといいのかをうつ病、認知症それぞれについて解説します。
心理面に配慮しつつ内服管理や生活リズムについて指導する
うつ病の場合、病院にいると、症状をコントロールできるだけでなく、看護師が話を聞き、理解を示すことから安心感が大きくなり、症状は安定します。その半面、加齢による精神・身体機能の低下などや、社会的な喪失体験が原因であることが多いため、原因を取り除くことができず、自宅に戻ると症状が悪化し、入退院を繰り返す人が少なくありません。そのため、退院が近づくと不安が強くなり、症状が増悪することもあります。そうした患者さんの心理面を理解した上で、内服の管理や、生活のリズムを整えるといった療養上の指導を行います。
症状を把握し適切な支援を行う
認知症は、その重症度やその人個々によって、出現する症状が異なってきます。家族や周囲の人が認知症への理解を示し、適切な時期に適切な介護サービスを受けるなど、”指導”というより”支援”していくことが望まれます。
初期は大きな問題もなく日常生活を送ることができますが、「できなくなる自分」を感じ、不安が現れてくる時期です。「できない自分」を目の当たりにさせないようさり気ないフォローが大切になります。
中期以降は混乱を来し日常生活に支障が出始め、自立生活が困難になってきます。それぞれの時期にありがちなこと、例えば、中期では徘徊や食事をしたことを忘れる、後期では足元がふらついたり、自分が誰かも分からなくなってしまうことなどを伝え、家族が患者さんの状態を理解できるように支援していきます。
また認知症の場合、自分がやった行為を忘れても、叱られたり嘆かれたことは覚えていがちです。嫌な思いをした感情は最後まで残るので、患者さんの前では叱ったり、嘆いたりしないで受け止め、家族にも同様に説明をします。危険に対する認知能力も低下していくので、それぞれの時期のリスクを評価し、その対応を指導することも必要でしょう。環境の変化は症状を悪化させます。
そして介護する家族や看護師もまた環境要因としてとらえることができます。対応が不適切であれば、患者さん自身も家族も負担が大きくなります。同時に、以前とは変わってしまった患者さんの状況を受け入れることは家族にとっても大変なことで、動揺が大きいことを看護師はしっかりと念頭に置くことが大切です。患者さんだけでなく、家族ケアも重要なポイントです。
(『ナース専科マガジン』2011年2月号より転載)
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