IN/OUT(水分出納)のバランスを管理する!
- 公開日: 2015/6/10
脱水や浮腫などの症候だけでなく、腎不全、心不全、糖尿病など、さまざな疾患の原因となるIN/OUTバランス(水分出納)。ここでは、IN/OUTバランスについて解説します。
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バランスシートで水のIN/OUTを把握する
輸液管理で大切なことは、補給されている量が適切で、体液量が必要に応じて一定に保たれているかを評価することです。過剰な輸液は電解質バランスを崩したり、心臓や腎臓への負荷を大きくします。逆に少ない場合には、脱水症状を引き起こすこともあります。
したがって、投与後も経過を観察・評価しながら、適切な輸液ができるように処方を確認していくことが必要です。
その評価で重要になるのが、体内に入る量・摂取量(INPUT) と体外に排出される量・排泄量(OUTPUT)のバランスです。
IN/OUTの確認にはバランスシートを用います。
食事と輸液など体内に入ってくる摂取量をINの項目に記入し、尿や便、発汗、不感蒸泄などで体外に排出される量をOUTの項目に記入して状態をみていきます。
バランスシートの計算式
(輸液量 + 経口摂取量 + 代謝水)-( 尿量 + 便 + 不感蒸泄+ 排泄液量)
また、細胞内外の水分量欠乏や電解質異常を日々のデータから把握するのは難しく、水分量で変化するナトリウム濃度は血液データだけでなく、バイタルサインをはじめ、身体所見をみていく必要があります。
過剰投与と脱水のサインに注意
輸液管理で最も注意したいのが、心不全の危険性がある過剰投与と脱水です。そこで、心不全と脱水のサインには特に注意して観察します。
心不全のサインとしては、高血圧(末期には血圧低下)、脈拍数の増加、体重増加、起座呼吸、30度以上の座位での頸静脈怒張、末梢浮腫などがあります。
こうした徴候がみられたら、バランスシートを見直すと同時に医師に報告します。体液量の過剰では、このほかに浮腫(全身)、胸水や腹水などもみられます。
脱水に関しては、輸液を補給している状況下でも注意が必要です。
脱水のサインには、口渇(口腔粘膜の乾燥)、皮膚ツルゴール反応の低下、ハンカチーフサイン、急激な体重減少、尿量減少などがあります。腎機能が正常な場合では、尿中のNa値やCl値が40mEq/L以上になれば脱水は改善されたと判断できます。
利尿薬使用時には薬剤の種類に注意
輸液療法では、体液貯留の改善のために下記のような利尿薬が用いられます
ナトリウムと水の再吸収を抑制する利尿薬
ループ利尿薬に代表されるような、ナトリウムと水の再吸収を抑制する利尿薬は、浮腫などでは第一選択になります。
しかし、心不全では低ナトリウム血症が促進されることがあり、その場合は、後述する水利尿作用が強いトルバプタン(サムスカ®)が使われます。
自由水の排泄を促す(電解質を排泄しない)利尿薬
バソプレシン拮抗薬であるトルバプタン(サムスカ®)は中等度の腎機能低下でも選択される薬剤なので、その作用機序を覚えておくとよいでしょう。
トルバプタン投与時は、急激な血清Na値の上昇や口渇など副作用を呈することがあるので、血液中の電解質濃度(ナトリウムおよびカリウム)の観察が重要です。
投与に関する注意点
投与量
維持輸液では、中心静脈を用いる場合は100mL/時間を24時間かけて連続投与します。外来患者など末梢静脈から行う場合には通常、500mLを2時間以上かけて投与するのが基本です。
欠乏輸液は、欠乏量の1/2~1/3の安全係数を掛けた量を投与しますが、病態によってはまず急速投与を行い、改善がみられたら輸液速度を落とします。脱水の補正ならば、尿量500~1,000mL/日または0.5~1mL/kg/時間が改善の目安です。
ただし、高度の脱水や出血性ショック時などは初期輸液として大量の生理食塩液が急速投与されます。このとき、カリウムが含まれている輸液製剤を急速静注(ワンショット)すると高カリウム血症になり、心不全を起こすリスクが高くなるので注意が必要です。
投与速度
輸液速度については、15滴/mLの輸液セットで、XmL/時間の輸液を行いたい場合
X / 60 × 15 = X / 4滴 / 分
と置き換えられ、Xを4で割れば1分間の滴数が、逆に1分間の滴数に4を掛ければ点滴速度が求められます。
体液量が多い新生児・小児への輸液
小児の場合、体重に占める体液の割合が新生児で80%、1歳児で65%と成人に比べて大きく、中でも新生児では細胞内液が35%、細胞外液が45%を占めます。
また、ナトリウム代謝率や尿濃縮能、希釈能などが十分に発達していないため、1日に必要な水分と塩分が多く、水負荷で浮腫を起こしやすい、腎臓での水分の再吸収が不十分なため脱水になりやすいといった特徴があります。
さらに、水分代謝が成人の3倍と早く、短時間でも水分摂取ができないとその影響が出やすくなります。
小児に輸液を行うときは、状態を観察しながら投与量を細かくチェックすることが重要です。1日の投与量の目安は150~200mL/kg/日、軽度~中等度の脱水では経口補液剤を併用します。
特に、乳児は細胞外液の1/2に相当する100mL/kgが1日の水分摂取量にあたるため、脱水は深刻です。
体液量が少ない高齢者への輸液
高齢者の場合、細胞内液の比率が低下して体重に占める体液の割合が55%に減少し、不感蒸泄量も成人の2/3~1/2に低下します。水・電解質異常をきたしやすく、細胞内の脱水になりやすいのが大きな特徴です。
さらに、心機能や腎機能をはじめ、さまざまな機能低下を呈しているので、水・電解質、酸に対しての許容量が低下する一方、症状の出現が明白でないため、重篤な症状に陥りやすく、一度状態が悪化すると回復が難しい傾向があります。
高齢者への輸液療法はこうした身体的特徴のほか、個人差が大きい、多臓器障害を起こしやすい、糖質・脂質の代謝能力や免疫凝固機能が低下していることを念頭に置いて慎重に実施します。
特に、腎疾患患者や透析患者など腎機能が障害されている場合は、糖代謝の問題や水分制限などで、一般的な投与量とは違ってくるので十分な注意が必要です。また、高血糖や脂質異常症を起こしやすく、大量投与では心不全や肺水腫などに陥りやすくなります。
(『ナース専科マガジン』2015年6月号から改変利用)
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