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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第29回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「口腔内が全体的に白っぽいのですが、どうすれば良いですか?」

  • 公開日: 2016/10/18

誤嚥性肺炎後の87歳女性、誤嚥性肺炎の治療後から口腔内が全体的に白い膜のようなものが出るようになりました。それと同時に口角炎が両側にも出て、出血することもあります。どのような口腔ケアの方法が良いのでしょうか。


誤嚥性肺炎の治療の多くは薬物療法で、抗生剤を用います。抗生剤を用いた治療が始まってしばらくすると、白い膜が口腔内に出現することがあります。症例も口腔内が抗生剤の使用後から白い膜を認め、さらに口角炎が両側に出ています。このような症状と経過から疑うのは口腔カンジダ症です(参考文献1参照)。

今回は口腔カンジダ症と口腔カンジダ症を発症した患者さんの口腔ケアを考えてみましょう。

口腔カンジダ症とは

口腔内は約700種類を超える細菌がいるといわれています(参考文献2参照)。口腔カンジダ症は口腔内常在菌のカンジダ菌(真菌 Candida albicans)によって発症する口腔感染症です。カンジダ菌の病原性は非常に弱く、健康であれば発症しません。口腔カンジダ症の発症原因は抵抗力の低下、疾患の影響(免疫不全症、糖尿病、血液疾患など)です。また、免疫抑制剤や抗生剤の投薬も一因になります。

症状と経過から口腔カンジダ症は急性と慢性に分けられています。
急性は2種類あり、口腔内全体に白い膜が付着して痛みを伴わない偽膜性、粘膜が赤くなり痛みを伴う萎縮性です。慢性も2種類あり、急性偽膜性から移行して粘膜上皮が角化する肥厚性、義歯を使用している患者さんが義歯を不潔なまま使用して発症する萎縮性(義歯性)です。
口腔カンジダ症の他の症状は、あんがい知られていませんが両側性の口角炎も症状のひとつに挙げられます。

口腔カンジダ症の治療

口腔カンジダ症の症状が認められたら口腔内を清潔に保ち、保湿をしっかり行ってください。初期であれば口腔ケアと保湿で改善されることもあります。
しかしながら口腔ケアや保湿で改善せず再発する場合は薬剤による治療が必要です。使用する薬剤は抗真菌薬で、主な抗真菌薬は塗布薬(ミコナゾール硝酸塩ゲル経口用)と経口薬(イトラコナゾール)になります(表)。ただし、併用禁忌の薬剤がありますので医師・歯科医師・薬剤師による確認が必要です。
2週間程度治療を行っても改善しなければ、担当の医師または歯科医師に相談して今後の対応を検討してもうと良いでしょう。

表 口腔カンジダ症治療薬と特徴

薬剤一般名 剤型 特徴
ミコナゾール硝酸塩 ゲル経口用 ・ゲルを塗布するため服薬が困難でも対応可能 ・含嗽が難しい場合でも使用可能
イトラコナゾール イトラコナゾール ・慢性肥厚性カンジダ症にも有効 ・下痢する場合は含嗽で対応

口腔カンジダ症の口腔ケア

口腔内が乾燥している場合は先ず口腔内と口角を保湿剤で湿潤させましょう。乾燥したままの口腔ケアや清拭は歯ブラシが歯肉に当たったり、ガーゼが粘膜に擦れたりして痛みを伴います。また、口角を湿潤する目的は口腔ケア時の開口に伴い口角が切れて痛みや出血を伴わないようにするためです。
口腔内が潤ってきたら、通常の口腔ケアを行います。白色の偽膜は清拭すると除去できるので、取れる範囲で除去します。口腔内の清拭を行うにあたり、消毒薬や含嗽剤は特に必要ありません。また、弱っている口腔粘膜を清拭するため、痛みを伴わないようにやわらかい素材の不織布で清拭を行うと良いでしょう。

義歯は流水下で歯磨き粉を付けずに磨き、できれば1日に1回は義歯洗浄剤を用いて消毒したほうが良いでしょう。義歯は細菌の温床といわれ、汚れている義歯はカンジダ菌が繁殖しやすくなっています。義歯を清潔に保つことによって、義歯による口腔カンジダ症を予防できます。

治療薬の塗布剤が処方されている場合は口腔ケア後に口腔内全体に塗り広げてください。

今回の症例はよく見受けられる経過です。看護師さんが白い膜の有無、粘膜の発赤、両側の口角炎、疼痛を評価し、口腔カンジダ症の口腔ケアを実施してみてください。

カンジダ症


【参考文献】
1)衛藤光: 高齢者の口腔粘膜疾患. Geriat. Med. 50(7): 845-849, 2012.
2)奥田克爾: 呼吸器感染症予防に不可欠な継続した口腔ケア. 難病と口腔ケア, 20(10): 52-55, 2015.

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