どこが変わった? 「成人肺炎診療ガイドライン2017」
- 公開日: 2017/8/6
タイプ別に分けられていたガイドラインが1つになった
診断においては敗血症の有無を重要視
これまで肺炎のガイドラインは、市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)、院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP)、医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associatedpneumonia:NHCAP)の3タイプごとにそれぞれ分けて作られていました。3つあることで肺炎のタイプごとにきめ細やかな対応が可能となりますが、一方で、どれを使ってよいかわからないなど利便性が悪いという問題がありました。
また、発行、改定時期が少しずつ異なるために、内容の一貫性にも欠けていた点があります。
そこで、使用者の利便性や、内容の一貫性を高めるため、今回は3つのガイドラインを1つにして作成することになりました。
成人肺炎診療ガイドライン2017では、肺炎の診断において従来の重症度分類に加えて敗血症の有無も重要視しています。敗血症の有無を判断するためには、意識レベル、血圧、呼吸数の判定が必須の項目となっています。これらのバイタルサインの評価や変化を看護師側も注意して観察し、適宜報告してください。
特に「呼吸数」は医師も看護師も測定を疎かにしがちですが、大変重要な項目であるため、必ず測定するように心がけてください。
他の診断に関することとしては、胸部X線検査やCT検査をどのような患者さんに行うかについての推奨が定められました。咳嗽、喀痰といった気道症状に加えて、発熱があった場合には全例に胸部X線検査を行うかどうかという疑問については、普通感冒やインフルエンザの患者さんも多く含まれるために、症状や診察所見等を勘案して必要な患者さんに対してのみ行うことを推奨しています。
また、CT検査についても肺炎患者さんの全てに行うのではなく、質的評価(病原体の種類、膿瘍の有無、胸水の有無、腫瘍の合併等)が必要な患者さんを選んで行うことを推奨しています。
HAPとNHCAPでは肺炎そのものよりもQOLを重視
肺炎の治療そのものはこれまでと大きく変化はありませんが、治療方針の決め方が今回大きく変わりました。
従来は医学的に重症であれば、治療内容もそれに応じて濃厚になっていましたが、今回はHAPとNHCAPでは医学的に重症であるかどうかの前に、老衰、疾患終末期、誤嚥性肺炎を繰り返す患者さんについては、肺炎そのものの治療よりもQOLをより重視して緩和ケアを中心とした治療を行うことを推奨しています。
治療を選択するかどうかは、主治医が1人で決めるのではなく、他の医師や看護師等の多職種からなる療チームを作り、本人や家族とよく話し合いながら決めることを推奨しており、看護師にも治療方針を決める上で大きな役割が期待されています。
終末期の肺炎や繰り返す誤嚥性肺炎はどう考える?
判断基準となる明確なエビデンスはない
終末期や繰り返す誤嚥性肺炎についての判断の基準は明確には定めていません。それは疾患の終末期や老衰状態であるとの判断、誤嚥性肺炎のハイリスクを医学的に正確に予測・判断するだけのエビデンスがないからです。
とはいえ、私たち医療者の眼からは、これらについてこれまでの経験を基にある程度の予測を立てることは可能です。
終末期で特に考慮するのは亜急性型と慢性型
終末期は救急医療等でみられる急性型、がん等の疾患末期の亜急性型、高齢者や認知症あるいは植物状態等の慢性型に分類されます。この中で、肺炎の診療で個人の意思やQOLを特に考慮するのは亜急性型と慢性型です。
亜急性型終末期は、「病状が進行して、生命予後が半年あるいは半年以内と考えられる時期」と定義されていますが、では生命予後が半年以内を正確に予測できるかというと、これも簡単なことではありません。
がん患者さんであれば、ほとんどの種類のがんで病期別の予後データはありますが、これにも個人差があります。がん以外では慢性心不全、慢性腎不全、慢性呼吸不全などの臓器不全の終末期も含まれるでしょう。
慢性型終末期は「病状が不可逆的かつ進行性で、その時代に可能な最善の治療により病状の好転や進行の阻止が期待できなくなり、近い将来の死が不可避の状態」と定義されています。
上述のように高齢者(特に90歳以上の超高齢者)、認知症(特に重度で食事やトイレの使用を含めほぼ全般に渡って日常介護が必要な状態)、植物状態などが該当します。
これらの定義を参考に亜急性型、慢性型と考えられる場合には、適切な情報提供を行い患者さんの個人の意思を尊重して診療することが推奨されています。
誤嚥性肺炎については、誤嚥していても必ずしも肺炎を発症するわけではないため、誤嚥するリスクと誤嚥により肺炎を発症するリスクは別に考えなくてはいけません。そのうえで積極的に診断し、適切な治療・ケアを行います。
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