麻酔科領域で活躍する周麻酔期看護師
- 公開日: 2018/2/5
麻酔の専門的知識をもつ周麻酔期看護師。まだ耳慣れない言葉かもしれません。聖路加国際病院の麻酔科では、すでに周麻酔期看護師が院内外で活躍しています。今回、その周麻酔期看護師5名と麻酔科医師1名に概要を聞きました。
周麻酔期看護師とは
周麻酔期看護師の役割
周麻酔期看護師は、大学院の周麻酔期看護学の修士課程において養成され、麻酔科に専従勤務する看護師です。そもそも周麻酔期看護学はまだ新しい分野で、2010年、聖路加国際大学大学院で初めて開講されました。
周麻酔期看護師の基本的な役割は、麻酔科専門医の指示下において麻酔科医の業務を補助することです。聖路加国際病院では、この周麻酔期看護師を院内資格として認定しています(現在国内の複数施設で周麻酔期看護師が勤務しています)。そして、周麻酔期看護師が麻酔科医と協働し、さまざまな場で安全でよりよい麻酔管理を行うべく活動しています。
聖路加国際病院での活動
メイン業務は手術室における麻酔管理ですが、同院の周麻酔期看護師は手術前の麻酔科外来から術後まで長期にわたり、患者さんとかかわっています。麻酔科外来では、周麻酔期看護師2名、麻酔科医師1名、薬剤師1名の4名のチームで麻酔前の診察を行い、麻酔を行う上で、重要な患者情報を把握共有し、より安全な周麻酔期管理へつなげています。
術後では、Acute Pain Service(APS)を含めた術後回診を2016年より開始しました。APSとは、術後疼痛や急性疼痛に対する鎮痛管理のこと。周麻酔期看護師1名と麻酔科医師1名で構成された術後回診チームが前日に麻酔を受けた患者さん全員を診察し、麻酔による合併症に対する早期発見や疼痛管理などの術後のフォローアップ、加えて継続的な麻酔科管理を徹底して行っています。必要があれば、硬膜外麻酔や神経ブロックなどによる鎮痛処置も提供しています。
また、産科麻酔にも周麻酔期看護師が積極的にかかわっています。現在、同院で行っている無痛分娩の数は全分娩数の2~3割。無痛分娩と帝王切開の麻酔が主な仕事で、日々麻酔科医師1名と周麻酔期看護師1名が産科チームと連携をとりながら担当しています。妊婦さんと赤ちゃんの安全のために1〜2時間ごとに患者さんの様子を診察しますが、麻酔科医師が他の分娩と重なってしまった場合は、周麻酔期看護師がチェックシートを用いて、麻酔の効果や鎮痛の評価などを確認し医師に報告します。
さらにこれから大きなニーズとなってくる内視鏡検査や放射線治療などにおける鎮静管理にも取り組んでおり、これまで経験した症例をベースにマニュアルを作成しているところだといいます。ここに周麻酔期看護師がかかわる意義は、麻酔の知識を習得しているだけではなく、急変時の対応ができるということ。ACLS・BLS、そして乳児・小児に特化したPALSといった救命処置を、同院の周麻酔期看護師は習得しています。また、医師の指示のもと気管挿管などの気道管理が行える知識と技術も備えています。こうしたスキルをもつ周麻酔期看護師が、呼吸と循環、そして意識状態の確認なども含めた鎮静管理を行うことによって、患者さんにとって安全でよりよい看護を提供できるというわけです。
他職種との連携
このように診療科を横断的に活動している周麻酔期看護師は、麻酔科医師や他の部署の看護師、他職種との連携が重要で不可欠です。最も主体となる麻酔科医師との連携については、麻酔の知識が共通言語としてあるからこそ、お互いのコミュニケーションがスムーズにとれているといいます。また看護師も医師とともに医局に席を置いていて、意見の交換がしやすい環境になっています。産科との連携については、これまでのかかわりのなかで、周麻酔期看護師の役割が産科内で浸透していき、今では助産師からの直接相談などのアプローチが増えてきているそうです。検査や手術については、事前にスタッフ間のミーティングを設けて、終了したあとも振り返りのためのミーティングを必ず実施しています。産科に限らず外来部門や病棟看護師から相談や勉強会の依頼も増えており、院内全体への存在や役割の周知が進んできたと感じているそうです。
麻酔科医師と周麻酔期看護師に聞く! 目指したきっかけと周麻酔期看護師がいることのメリット
周麻酔期看護師を目指したきっかけ
同院の周麻酔期看護師は現在6名。もともとは手術室やICUに勤務していた看護師が多く、その経験が周麻酔期看護師を目指すきっかけになったようです。周麻酔期看護学修士課程の第一期生であるチーフの吉田奏さんも、同院の手術室に勤務していました。
「もっといろいろな視点で看護をしたいと思い、他院への就職か進学かを悩んでいたころ、新しく開講する周麻酔期看護学の院内推薦の話を聞きました」と当時を振り返ります。
まだ新しい分野で当初はまだ漠然としながらも、これまでの経験から術後の疼痛管理に興味があったと話します。
「専門的な知識をもった看護師が疼痛管理にかかわることにより、もっと患者さんの痛みを取り除くことができるのではないかという思いがありました」
実際に吉田さんは、前述したAPSの提供を提案、チームの立ち上げに中心的にかかわりました。大学院での学びが着実に活かされているそうです。
同じくICU(他院)に勤務していたという岸本陽子さんも、術後の疼痛管理に関心があったと話します。「ICUの前は手術室に勤務していたため、麻酔については興味があり、ある程度の知識をもっていました。しかし、ICUに移動し術後疼痛に苦しむ患者さんへのケアを通して感じたことは、手術中の麻酔や鎮痛の知識にふれる機会が少ないということ。そうした知識に特化した看護師がICUにいれば、他の看護師への麻酔に関する知識の提供も含めて、適切な疼痛管理につなぐための橋渡し役となるのではないかと思い、進学を決意しました」
手術室の経験が長い赤沼裕子さんは、自分のキャリア形成のなかで周麻酔期看護師を選択しました。「さまざまな部署での勤務を経験していくうちに、管理職になるのかスペシャリストになるのかという岐路があり、自分はスペシャリストになるほうが向いているのではないかと感じていました。特定看護師にも興味がありましたが、単に技術に特化するだけでは、誰のための看護なのかが全然みえてこないとも感じていました。そんなとき、手術室の部長から周麻酔期看護師を薦められたのです。そこで聖路加国際大学の周麻酔期看護学を知り、その教育の内容に惹かれて入学しました」
現在、立ち上げから産科麻酔の取りまとめ役を担っている鈴木怜夢さんも大学病院の手術室(他院)に勤務していました。その頃、麻酔科医師の話が理解できず悔しい思いをしたのが周麻酔期看護師を目指すきっかけでした。当初は単に麻酔学の知識を得ることが目的だったそうですが、同院で活動していくうちに考えが変わったと話します。
「当院で産科麻酔などにかかわることによって、周麻酔期看護師だからこそできる活動があるということに気づきました。また、患者さんや赤ちゃんの命の重さをより感じるようになり、それが原動力になっています」
吉田さんも周麻酔期看護師としての変化を次のように話します。
「日々麻酔科医と接していく中で、医師の思考回路を理解できるようになったと感じています。それによって、患者さんをみる視点が変わっていきました。“単に患者さんをみる”のではなく、より深くアセスメントでき、全身状態を把握できるようになったのです。これは同院の周麻酔期看護師の全員が感じていることだと思います」
以前は手術室に勤務していた亀田めぐみさんも変化を感じていると話します。「周麻酔期看護学を学ぶ前は、外科医やリーダー看護師の指示で、いっぱいいっぱいになってしまい、麻酔に関することは後回しになっていました。でも今では、自分のやるべきことが明確になったと感じています。もし手術室に戻ったら、これまでとは違う働き方やケアができると思います」
麻酔科の医師の立場から
専門的な学びを得て、それぞれの役割を果たしている同院の周麻酔期看護師。そんな周麻酔期看護師を麻酔科の医師で部長を務める長坂安子さんはこう評価します。
「同院の周麻酔期看護師は、2年間の専門的教育を受けた非常に志の高い集まりです。他職種としてではなく、ともに麻酔診療にかかわる同職種として働くことができることに感謝しています」
長坂さんは、周麻酔期看護師がかかわるメリットについても指摘します。
「私たちの共通の目的は、患者さんに安全でよりよい医療を提供すること。その目的において、これまで麻酔科医だけでは実現できなかったことを、同じ立場で同じ目線で周麻酔期看護師がサポートしてくれる。安全面も格段に上がっています。例えば今では、私たちがとらえきれなかった患者さんの情報が得られ、合併症をより早期に発見できる体制になっています。それは患者さんにとっても大きなメリットです」
また、麻酔診療を院内で横断的に行うときにも周麻酔期看護師の存在は重要だと話します。
「病棟の看護師にとっても、同じ看護師である周麻酔期看護師であれば質問も相談もしやすい。実際の臨床の場では、麻酔科と病棟看護師の間を埋めるような存在と認識されつつあります」
今後の課題
周麻酔期看護師は麻酔科のみならず、院内でも重要な存在になってきているようです。と同時に、今後の課題もあるといいます。
鈴木さんは、「無痛分娩を希望する妊婦さんは増えています。お産は無痛をしてもしなくても赤ちゃんは生まれます。さらに人の手を加えるのが無痛分娩。だからこそ、報道でも問題になっているように、無痛分娩は安全な体制を整えて実施する必要があります。私自身まだまだ知識不足ですから、毎日の臨床から学ぶことが多くあります。今後は周麻酔期看護学の教育にも取り組んでいきたいと考えています」と周麻酔期看護学の教育の体系を整える必要性について指摘します。
同じく赤沼さんも「周麻酔期看護学はまだ歴史の浅い分野。周麻酔期看護学を作り上げていかなければならないと感じていますし、それが私たちの任務だと思っています」と強調します。さらに赤沼さんは「麻酔科医が不足しているという現状もあり、患者さんに安全で適切な麻酔管理を提供するためにも周麻酔期看護師は絶対に必要だと感じています。そんな中、私たちの役割をもっと明確にしていき、世に広めていきたい」と話します。
その活動の一環を吉田さんが次のように説明します。「周麻酔期看護学の教育にかかわる医師と一緒に、周麻酔期看護の研究会を立ち上げています。これからも経験や実績を重ねて、周麻酔期看護師の活動や研究の成果を、全国ひいては世界に発信していくことも私たちの役割だと考えています」
周麻酔期看護師の歴史はまだまだ始まったばかり。今後の活動と活躍が期待されます。
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