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【連載】術後疼痛管理のQ&A! 皆さんの疑問にお答えします!

術後悪心・嘔吐(PONV: Post-Operative Nausea and Vomiting)の対策を知りたい

  • 公開日: 2023/12/11

Q 術後の悪心・嘔吐があると患者さんは苦痛そうですが、予防策はありますか?

A 事前にリスクに応じた制吐剤の投与を行うことが推奨されています。

 術後の悪心(嘔気)・嘔吐(以後PONV)は一般的に20-40%の割合で発症し、患者さんが術後に最も避けたい麻酔合併症の一つとも言われています1)。またPONVは患者さんが苦痛なだけでなく、経口摂取を困難にするため術後回復力強化(ERAS:Enhanced Recovery After Surgery)の観点からも重要ですので予防的な介入が望まれます。

どんな患者さんにPONVのリスクがあるの?

 リスク因子としては、女性、PONV歴もしくは乗り物酔い、非喫煙者、年齢が若い(50歳未満)、手術のタイプ(婦人科、胆嚢摘出、腹腔鏡手術)、術後のオピオイド使用(硬膜外PCA薬液への添加、IV-PCA等)、揮発性吸入麻酔や笑気の使用、長い麻酔時間(1.46倍/1時間毎)があげられます。このうち表1に示す6つの因子の数によってリスク評価と対応策を検討していきます2)

表1 PONVのリスク因子

●女性
●非喫煙者
●若い年齢(50歳未満)
●PONV歴あり/乗り物酔い
●手術タイプ(婦人科、胆嚢摘出、腹腔鏡手術)
●術後オピオイド使用

 また簡便にリスク数に伴う発症頻度を予測する方法として、Apfelらのリスクスコア3)が有名です。女性、非喫煙者、PONV歴あり/乗り物酔い、術後オピオイド使用の4つの因子がいくつ当てはまるかの合計数で発症リスクを予測できます。因子数0で10%が発症、1因子で20%、2因子で40%、3因子で60%、4因子全て当てはまると80%、と覚えやすい数値になっています。

どのような制吐剤の予防投与が推奨されているの?

 最新のガイドライン2)ではPONVリスク因子が一つでもあれば、予防的に制吐剤投与を行うことが推奨されています。制吐剤は作用経路の異なる複数剤を組み合わせて予防投与することが効果的です。また術中麻酔管理として、吸入麻酔を避けたり、術中・術後のオピオイド使用量を減らすなどリスクの低減が検討されます。日本で予防投与される一般的な薬剤(静注薬)を表2に示します。海外でPONV予防・治療薬のゴールデンスタンダードだった5-HT3受容体拮抗薬ですが、2021年に日本でも保険適応となっています。

表2 PONV予防薬(日本で投与される一般的な薬剤名と推奨投与量の例)

●5-HT3:セロトニン受容体拮抗薬(オンダンセトロン4mg、グラニセトロン1mg)
●ステロイド(デキサメタゾン4-8mg)
●ドパミン受容体拮抗薬(メトクロプラミド10mg、ドロペリドール0.625mg)
●プロポフォールによる麻酔管理

表3 ガイドラインで示されている予防策:成人

以下の予防策からリスクに応じて複数選択

●5-HT3受容体拮抗薬
●プロポフォールによる麻酔<
●ドパミン受容体拮抗薬
●抗ヒスタミン薬
●鍼
●NK-1受容体拮抗薬
●ステロイド
●抗コリン薬

 基本的には、手術終了時やその終了直前に制吐剤投与を行いますが、デキサメタゾンは効果発現まで2時間 要するため麻酔導入時の投与が推奨されています。最新のガイドライン2)では、表1の6因子のうち1-2因子該当する場合は表3から2剤、3因子以上該当する場合は3-4剤の予防投与が推奨されています。当院では、表1のリスク因子が1-2因子該当する場合、表2から2種類(例:オンダンセトロン&デキサメタゾンやデキサメタゾン&プロポフォール麻酔)、3因子で3種類、4因子以上で4種類(オンダンセトロン、デキサメタゾン、ドロペリドール、プロポフォール)の薬剤を予防投与しています。

予防してもPONVを発症した場合は、どうしたらよいのか?

 事前に投与された制吐剤とは別の作用経路の制吐剤を投与することが推奨されています。例えば手術室でオンダンセトロンが投与されている場合はドロペリドールを投与する、デキサメタゾンとドロペリドールが既に投与済みならオンダンセトロンを投与するなどです。他に投与可能な薬剤がなく前回投与から6時間経過していれば5-HT3:セロトニン受容体拮抗薬(オンダンセトロン4mg、グラニセトロン1mg)の2回目の投与も考慮されます。

 また術後病棟でPONVが起きた場合は、麻酔による影響以外にも他の原因検索をすることは重要です。過剰なオピオイド投与(鎮痛評価によりIV-PCA投与量の減量、硬膜外PCA薬液をオピオイドなしに変更するなど対応検討)や機械的な腸閉塞がないか、咽頭の血液や喀痰の貯留などがないかを確認しましょう。

引用・参考文献

1)A Macario,et al:Which clinical anesthesia outcomes are important to avoid? The perspective of patients.Anesth Analg 1999;89(3):652-8.
2)Tong J Gan,at al:Fourth Consensus Guidelines for the Management of Postoperative Nausea and Vomiting.Anesth Analg 2020;131(2):411–48.
3)Apfel CC,et al. A simplified risk score for predicting postoperative nausea and vomiting: conclusions from cross-validations between two centers.Anesthesiology 1999;91(3):693–700.


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