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【連載】術後疼痛管理のQ&A! 皆さんの疑問にお答えします!

認知症患者さんの術後鎮痛の考え方や管理方法が知りたい!

  • 公開日: 2023/8/3

Q 認知症患者さんは痛がってなさそうに見えますが、鎮痛薬は少なめで大丈夫ですか?

A 認知症患者さんでは痛みを適切に伝えられていない可能性があります。基本的には術式に合わせた標準的な術後疼痛管理が必要です。

 極論ですが、認知症の患者さんは痛がってなさそうと見るのではなく、痛がっているかもしれないという視点を持つことが大切です。認知症に伴うコミュニケーションの困難さに加え、加齢による生理変化、視聴感覚低下などが複合的に重なって痛みの評価を難しくしているのだと考えられます1)

 術後疼痛管理は患者さんの苦痛緩和だけでなく、早期離床や術後合併症予防のためにも重要ですので、認知症であってもそうでない患者さんと同様の術後管理が前提となります。同じ手術を受けても認知機能が低下した患者さんでは術後鎮痛薬の使用量が少ないことが複数報告されていますが、これには痛み自体や鎮痛薬のニーズを上手く医療者に伝えられていない可能性もあります。ある研究では、機能的MRIを使用してアルツハイマー型認知症患者さんの脳活動を調べた結果、痛みの感受性は低下していないことも報告されています2)

 各施設での通常の術式に応じた術後鎮痛方法(マルチモーダル鎮痛が理想)に沿って管理を行いますが、認知症患者さんではPCA(Patient Controlled Analgesia)は適切に使用できないことが多いと思います。オピオイドのIV-PCAを使用する場合は、看護師が随時プッシュするNCA(Nurse Controlled Analgesia)とするか、持続静注を呼吸抑制に注意しながら低用量でスタートすることが基本です。

 痛みの評価方法では、軽度の認知機能低下であればVASやNRSで患者さんから妥当な回答得られる可能性があります。一方、重度な患者さんではコミュニケーションの困難さや顔の表情変化の乏しさから小児に頻用されるフェイススケールも使いにくい場合もあります。海外では、呼吸・表情・態度など認知症患者さんの行動観察で痛みを評価するMOBID(Mobilization – Observation – Behaviour – Intensity – Dementia pain scale)やPAINAD(Pain Assessment IN Advanced Dimentia)など専用ツールも使用されています。

 上記のようなツールが使用できなくとも、体動の具合、咳嗽や深呼吸などから適切な鎮痛が得られているかアセスメントすることが重要です。また手術前の様子を注意深く観察したり、家族から痛がった際の反応や行動を聴取することも痛み評価の判断材料になります。不安や苦痛は、認知症患者さんに限らず術後の痛みを増強し、せん妄発症の要因にもなります。認知症患者さんは環境変化によるストレスへの閾値が低いため、適切な環境(視覚や聴覚、室温や体温等のストレスがない環境)を提供することも重要です。

引用文献

1)S Alcorn,et al:Perioperative management of patients with dementia.BJA Education 2017;17 (3):94–98.
2)Leonie J Cole,et al:Pain sensitivity and fMRI pain-related brain activity in Alzheimer’s disease.Brain 2006;;129:2957–65.


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