【連載】術後疼痛管理のQ&A! 皆さんの疑問にお答えします!
知っておきたいIV-PCAを用いた効果的な鎮痛
- 公開日: 2022/11/24
A. 至適なオピオイドの血中濃度になるように(痛みが軽減された状態)、オピオイドをボーラス静注します。痛みが落ち着いたら、IV-PCAを再開します。
まずIV-PCAの基本的な考え方を紹介していきます。
同じ手術を受けても、痛みの強さは個人差が大きいものです。患者さんが自分の痛みに合わせて投与することができる方法がPCAの原理です。IV-PCAではフェンタニルやモルヒネなどのオピオイドを使用します。今回の症例に限らず通常は麻酔酔覚醒前には事前にある程度のオピオイドを投与しておきます。麻酔科医が術式・年齢・体重などから総合的に判断して、オピオイドの量を決定しています。体内に投与されたオピオイドですが、血中濃度が高くなることでその鎮痛効果が現れてきますが、その後時間が経つに連れ血中濃度が徐々に下がり鎮痛効果は弱くなります。
麻酔覚醒後に痛みの訴えがない場合、投与されたオピオイドの血中濃度(正確には効果部位濃度)が、どのくらいに下がると患者さんが痛がり出して、PCA投与を要求するか(ボタンのプッシュ)は個人差があります。痛みが出てきた段階で患者さんがPCAボタンを押すと血中濃度が上がり効果的に鎮痛される、これが繰り返され、痛みに対してPCAのプッシュで痛みのコントロールがつくことが理想です(図)。当然ですが、痛みがなければPCAボタンのプッシュを薦める必要はありません。
繰り返しになりますがIV-PCA開始時には、患者さんそれぞれに必要なオピオイド血中濃度が保たれ、痛みを抑えられる状態になっていることが大切です。覚醒直後より強い痛みがあれば、ベースのオピオイド血中濃度を上げるためPCAと同じ種類のオピオイドをシリンジでボーラス投与(例:フェンタニル25-100μgやモルヒネ1-2mg)します。慎重に反復投与して痛みが軽減されるまで行い、痛みが落ち着いた時点でIV-PCAを開始して病棟に戻れるようにしましょう。この際、良好な鎮痛の一方で呼吸抑制や意識レベル低下、重度の嘔気嘔吐などの副作用の確認も怠らないようにします。痛みの程度によっては、ボーラス投与せず患者さんと共に何度かPCAボタンをプッシュすることでコントロールがつく場合もあります。
IV-PCAでは呼吸抑制の懸念もあるため当院では基本的には持続投与はなしで、PCAボタンによる随時投与の設定にしています。もちろん、強い痛みが継続している場合には持続投与設定に変更しますが、一般病棟では持続的な呼吸状態の観察は困難なためパルスオキシメータやカプノメータなど持続モニターの使用が望ましいと考えています。集中治療室は厳重な監視体制ですので、持続投与で開始されることも多いです。
基本的な術後鎮痛の考え方は重要ですので、最後に復習しておきましょう。麻酔覚醒後は痛みが抑えられているよう予防的な鎮痛計画を立てます。開腹下腹部手術に比べ、上腹部では術後痛が強いと言われています。予定手術で硬膜外麻酔が可能な患者さんであれば硬膜外PCAを積極的に検討します1)。全身麻酔で実施する場合、体幹の神経ブロックや創部皮下浸潤麻酔などの局所麻酔法の併用を第一に検討します。IV-PCAで効果的な鎮痛を得られるようフェンタニルやモルヒネなどのオピオイド静注をある程度行いますが、マルチモーダル鎮痛2)の観点からアセトアミノフェンやNSAIDsなど別の全身鎮痛薬も併用した鎮痛を行なっていきます。
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