【連載】術後疼痛管理のQ&A! 皆さんの疑問にお答えします!
より良い鎮痛を目指した硬膜外麻酔の考え方!
- 公開日: 2022/9/8
A 薬液が体内に入っていること、麻酔効果範囲を確認して対応を検討します。
硬膜外カテーテルは、脊髄を覆う膜の外側(硬膜外腔)のスペースに挿入されており、局所麻酔薬を投与することで脊髄から出る脊髄神経に作用して鎮痛効果を得ます。投与から効果発現は20分程度です。脊椎間から出た脊髄神経は分岐を繰り返して、皮膚や筋肉など特定の支配領域に分布していきます。各皮膚表面の感覚はそれぞれ大本となる脊髄神経に由来しており、これをデルマトームと呼びます(図1)。
硬膜外麻酔の詳細に関しては「【連載】麻酔を極めよう!第5回 硬膜外麻酔|適応と禁忌、実施方法、使用薬剤、副作用と合併症)」を参照してください。
Point! デルマトームの覚え方
体表のランドマークとなる部分を覚えると便利です。例えば、肩は第4頚髄神経(Cervical: C)の支配でC4と表記、乳頭付近は第4胸髄(Thoracic: ThもしくはT)神経でTh4、剣状突起はTh6、お臍はTh10、鼠蹊部はTh12、大腿前面は第2腰髄(Lumbar: L)神経、膝はL3、臀部や大腿後面は仙髄(Sacral: S)領域となっています。
硬膜外麻酔使用中、痛みのある患者さんの対応フロー
①痛みの評価
痛みの場所、安静時の痛みの強さ、体動時の痛みの強さを確認
②薬液が体内にきちんと入っているか確認
PCA(Patient Controlled Analgesia)ポンプの作動やプッシュ回数など履歴確認、薬液バッグの残量、カテーテルとバッグの接続、刺入部位の確認でカテーテル挿入長の変化や薬液の染み出しなどを確認
③麻酔効果範囲の確認
冷覚試験(Cold test)で麻酔範囲を評価します。冷覚と痛覚はほぼ同じ感覚神経が伝えていますので、冷覚がない、もしくは鈍い皮膚領域は鎮痛が計れていると予測されます。この性質を利用して冷覚試験で創部とその上下の範囲に冷覚麻痺があるか調べていきます。脊髄神経は左右の半身に分かれて走行して身体の正中まで来ますが、硬膜外カテーテルの先端が左右どちらかの脊髄神経根の近くにある場合は、左右半身しか麻酔効果が得られないこともあります(いわゆる、片効き)。実際には、有効な鎮痛状態でも冷覚試験で左右非対称なことは少なくありません。
冷覚試験の方法:例えば開腹胃がん術後で剣状突起の下から臍まで正中創(Th6~10にかけて)があったとします。アイスノンやアルコール綿など冷たさを感じるものを使用し、剣状突起より上部の乳頭辺りから下腹部あたりまで左右半身をそれぞれ触れて冷覚鈍麻の範囲を調べます。正中ではなく、左右に少しずらして評価しましょう。左右ともに創部を越えて上下に冷覚麻痺が見られれば麻酔効果の範囲としては良好そうだと判断できます。冷覚試験の結果は左右デルマトームに沿って表記します。右側は乳頭から臍、左側は乳頭から大腿前面まで冷覚鈍麻があれば右Th4〜10で陽性、左Th4〜L2陽性と表記します。冷覚鈍麻がなければ陰性です。
④対処方法
痛みが強い場合に、麻酔の広がりを得るための対処法を中心に説明していきます。項目②での薬液が体内へきちんと入っていることを確認できた上での対応になります。
A)左右の半身どちらかしか効いていない場合(例:右Th6-L1、左陰性、術創がTh10-12)
カテーテル先端が左右に寄ってる可能性があります。安静時にも強い痛みあれば次のような対処を検討します。カテーテルを1cm程度引き抜いて挿入長を調整すると、麻酔効果が反対側にも広がることがあります。また薬液をボーラス投与(例:1%メピバカインや0.2%ロピバカインを5mL程度)してボリュームを増やすと反対側にも広がりが得られることもあります。重力の影響で下側に薬液が広がりやすいこともあり、麻酔効果が得られない側を下にし側臥位にすると鎮痛が得られる場合もあります。状況によっては全身鎮痛薬(アセトアミノフェンやNSAIDs等)を追加で静注投与します。
B)左右に効いているが上下の広がりが不十分な場合(例:左右Th7-8、術創がTh6-10)
左右均等に麻酔の広がりはあるため、薬液の持続流量の増加やボーラス投与を行うことで上下への広がりが得られると予想されます。当然ですが患者さんがPCAポンプのプッシュをほとんどしていない場合は、プッシュするように指示をしましょう。
C)左右ともほぼ効果がない場合
薬液バッグやPCAポンプからカテーテル先端までに異常がない場合、有効な硬膜外麻酔になっていない可能性が考えられます。まずは薬液をボーラスして広がりが得られるか試します。効果が得られなければ別の鎮痛手段への切り替えを考慮します。IV-PCA装着や別の全身鎮痛薬の投与を行います。手術当日や術翌日であれば、硬膜外カテーテルの入れ替えも考慮されます。
患者さんに吐き気や下肢筋力低下などの副作用がある場合やヘパリンなど抗凝固薬使用では対応が異なることがあります。冷覚試験は、患者さんの反応によっては評価しにくいこともありますし、結果が陰性であっても一定の麻酔効果が得られていることもありますので過信し過ぎないことが大切です。