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【連載】【事例でわかる】読者の術後疼痛管理の「困った」を周麻酔期看護師が解説

術後硬膜外PCA使用中の患者さん、痛みと嘔気で対応に困った症例

  • 公開日: 2024/6/19

事例

70歳男性。胃がんに対して開腹胃全摘術が施行された。術後疼痛管理では、硬膜外PCAを使用している。

創部痛は安静時にも強く頻回に硬膜外PCAをプッシュしている。 プッシュにより痛みは軽減されるその度に嘔気が出現している。術後3日目まで体動時痛と嘔気嘔吐により離床困難であった。制吐剤は随時プリンペランを使用した。その後少しずつ離床が進んだが、術後7日目まで硬膜外麻酔から離脱が出来ず、嘔気の出現も続いた。

問題点①

硬膜外麻酔の効果範囲が不十分な可能性

 硬膜外PCA(詳細は硬膜外麻酔の記事を参照)ボタンをプッシュすると痛みが軽減するということは、プッシュする前の麻酔効果範囲が狭い可能性があります。カテーテル刺入部位や PCAポンプまでのカテーテル開通確認に加え、PCAボタンを適切に押せているのか、患者問診やPCAポンプ記録確認も必要です(表1)。

表1 PCAが適切に利用できているかの確認ポイント

適切なタイミングで押せているか(痛みがないときに押していないか、痛みが出現してから時間が経っていないか、ロックアウトタイムの誤認、プッシュ回数と有効回数の大幅な乖離など)
適切に機器を使用できているか(電動式ポンプではプッシュした際の電子音が鳴るまでボタンをしっかりと押せているか、ナースコールのボタンと間違えていないか)
疼痛管理に対する患者の誤解はないか(PCAの原理を知っているか、薬は出来るだけ使用しない方が良いという認識はないかなど)

解決に向けた対応例:硬膜外麻酔の効果判定と介入、他の鎮痛薬併用を検討

 バイタルサインや下肢運動機能評価、創部の位置確認、痛みの部位や性質の聴取、冷覚試験を行なってみます。冷覚試験などアセスメントの結果、麻酔効果範囲が不十分な場合は、PCAプッシュにより創部痛が軽減することからPCA持続投与量の増量を検討します。仮に血圧低下が見られる場合には、脱水補正やPCA持続投与減量が検討されます。アセトアミノフェンやNSAIDsは基本的には嘔気嘔吐に影響しない薬剤であり、併用することで硬膜外麻酔の使用量を減らせる可能性があります。また硬膜外麻酔でカバーされていない内臓痛に対しては、アセトアミノフェンやNSAIDsなど別の鎮痛薬が検討されます。

表2 麻酔効果判定のための確認事項と目的

確認事項 確認の目的
バイタルサイン 血圧低下、頻脈など相対的な循環血液量減少が起きていないか確認するため
下肢運動機能評価、離床の具合 下肢筋力低下がある場合、離床に差し支えないか硬膜外血腫の可能性がないか確認が必要なため
創部の位置確認 冷覚試験で麻酔範囲がカバーできているか確認するため
痛みの強さ、部位や性質の聴取 麻酔効果がある部位、追加鎮痛薬の必要性を判断、また体性痛なのか内臓痛なのかを鑑別するため
PCAポンプの設定確認(電動式ポンプの場合) 予期せぬ設定変更がないか、現在の設定内容を確認するため
PCAポンプから硬膜外カテーテルの刺入部位までの開通確認 コネクトの接続はずれやカテーテルの閉塞がないか、刺入部位の薬液漏れや固定位置異常はないか、薬液バッグは空になってないかなど確認するため
冷覚試験 麻酔の広がりや効果を確認するため

問題点②

嘔気嘔吐

 術後嘔気嘔吐の原因として分泌物の垂れ込み、腹部膨満、オピオイド、血圧低下などが鑑別として挙げられます。今回硬膜外麻酔をプッシュした際に、痛みが軽減され嘔気が出ることからオピオイドや血圧低下が要因として疑われます。硬膜外麻酔の効果範囲では交感神経ブロックに伴って消化管蠕動を促進する効果がある一方、血管拡張作用により血圧低下を来すことがあります。臥位だけでなく起立時の血圧低下にも注意します。硬膜外麻酔の薬液には局所麻酔薬に加えてフェンタニルやモルヒネなどオピオイドが添加されることが一般的(鎮痛の質向上、局所麻酔薬の必要量低減の目的)であり、嘔気嘔吐の要因の一つとなります。 

解決に向けた対応例

PCA薬液組成の変更

 問題点①の対応での評価にもよるが、安静時痛もあることから広範囲な麻酔に伴う血圧低下は考えにくいです。今回嘔気嘔吐の原因の一つであるオピオイドが添加されていない局所麻酔薬単剤への切り替え、また創部痛が強いままであればオピオイドを抜かず制吐剤であるドロペリドールを局所麻酔薬への添加することが検討されます。

制吐剤の追加投与

 上記の対応によっても嘔気が軽減されない場合、制吐剤追加を検討します。術後嘔気嘔吐(術後嘔気嘔吐予防の記事を参照)には、オンダンセトロンやグラニセトロンなどセロトニン受容体拮抗薬の使用が推奨されます。また制吐剤使用後の嘔気出現には、作用機序の異なる薬剤の使用が推奨されています。例えば、ドパミン受容体拮抗薬であるメトクロプラミド(商品名:プリンペラン)使用後であれば、オンダンセトロンやステロイドであるデキサメタゾン、抗ヒスタミン薬であるヒドロキシジン(商品名例:アタラックスP)等の使用を検討します。

まとめ

 硬膜外麻酔を効果的に使用すること、他の鎮痛薬の併用、嘔気嘔吐の原因となるオピオイド使用量を低減すること、制吐剤を適切に使用することで今回の事例に善処できた可能性があります。


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