精神科患者さんに多い身体合併症を知っておこう!
- 公開日: 2018/3/29
精神科疾患の患者さんの身体疾患の特徴
近年、精神疾患をもつ患者さんの身体的な健康問題に注目が集まっています。精神科患者さんは、一般の人口にくらべて10年から20年程度寿命が短いという調査もあり、原因の究明や対策について議論が始まっています。
精神科患者さんには、メタボリック症候群、循環器系疾患、皮膚疾患や歯科疾患などの身体合併症が多くみられ、高齢化に伴って終末期医療を必要とするケースも増えています。
メタボリック症候群
精神科患者さんの場合、若年でも肥満傾向が強く、比較的早い時期からメタボリック症候群(肥満、高血糖、高血圧)のリスクが増大します。生活習慣の問題だけでなく、非定型抗精神病薬の影響で、体重や血糖値が増加することも知られています。体重増加が生じやすい非定型抗精神病薬としては、オランザピンとクエチアピン等が挙げられます。内服が始まると、患者さんは食欲が増進して「薬を飲むようになったらおなかがすいて、食べても、食べても、まだ食べたい気持ちになる」などと表現することがあります。また、短期間で体重が増加し、その容姿の変化に深刻に悩んでいることもあります。
精神疾患は慢性疾患で内服治療が長期にわたるため、身体管理を行うことは重要です。
循環器系疾患
高血圧や心疾患は精神科患者さんの多くにみられる疾患です。上記のメタボリック症候群を背景に、高血圧、虚血性心疾患等のリスクが高い傾向があります。
皮膚疾患、歯科疾患
精神科患者さんは、日常生活のなかでのセルフケアに問題があります。特に、保清についての課題は、多くの患者さんが少なからずもっています。意欲や関心の低下などの陰性症状、引きこもりがちの生活スタイル、「お風呂の準備をする」「掃除をする」など前後の家事を含めての負担感など、その原因はさまざまあります。保清の方法や頻度が十分でない結果、皮膚疾患が発生したり、歯槽膿漏などの歯科疾患が生じてしまいます。また、糖尿病のコントロールが悪い場合にも、皮膚トラブルが生じやすいため観察が必要です。
高齢化と終末期医療
精神科患者さんにおいても高齢化は進んでいます。精神科病院で終末期を迎える患者さんは徐々に増加しています。機能低下から寝たきりに移行したり、呼吸器系の合併症が生じるケースもあります。精神科病院でがんを合併した患者さんのケアについて研究した報告も出ています。
終末期の医療において、どのような治療を望むのか、どのような終末期を望むのかは人それぞれに尊重されるべき課題です。家族と疎遠な患者さんの場合、高齢になった患者さんへの病状の説明、患者さんとの意思確認、治療の同意形成などの難しい課題がありますが、地域の医療機関との連携し、多角的に取り組んでいく必要があります。
精神科患者さんの身体管理の視点
精神科患者さんの身体管理をするうえで、臨床的にみられる特徴について、どのようにみていけばよいのか考えてみましょう。
表現が曖昧で把握しにくい
精神科患者さんの場合、的確に身体症状を訴えられないことがあります。例えば、慢性の身体疾患があるのに、病気の症状があっても「いつもと同じだよ」などと答えてしまうことがあります。また、足を引きずっているのに、看護師に「どうしたの?」と聞かれるまで何も言わない患者さんもいます。一方、身体的異変を訴えるものの、「昔の飼い猫が取りついて、おなかの中で暴れている」などと妄想言動と判断される表現をとってしまい、周囲に異変が伝わりにくいこともあります。医療者も、倦怠感が強く出て臥床がちになった患者さんについて、陰性症状の増悪とアセスメントして異変を見逃すこともあります。
このような状況では、身体疾患の発見が遅れたり、症状が悪化していたりという問題が生じます。患者さんが曖昧で把握しにくい表現をするのにはそれぞれの理由があり、非常に個別性の高い問題です。受け持ちの患者さんがどのような表現で身体の不調を訴えるのか、コミュニケーションや生活に現れるパターンを知り、察知する視点が必要です。
医療行為、看護行為に個人的な信頼関係が求められる
一般科(身体科)では、身体的な問題に取り組むにあたり、医療者が病状を聞き取り、さまざまな説明をし、患者さんの意思を確認するでしょう。一般的にこのようなプロセスは、日常的な診療場面として実施され、患者さんとの人間関係の形成や信頼関係の構築には、特に関心が払われないこともあると思います。しかし、精神科患者さんに対する治療に臨む際には、それでは難しいことがあります。精神科患者さんの場合、自分のことを伝え、病変をみせ、提案を受け入れるには、〇〇医師、〇〇看護師との信頼関係が欠かせないことが多いのです。
ですから、精神科患者さんに対応するときは、安心して治療に臨めるよう、まずは信頼関係の構築を目指しましょう。患者さんとの関係性は、あいさつや自己紹介、細かな声掛けなどによって構築することができます。もしそれが難しい場合には、家族に付き添いを頼んだり、精神科病棟スタッフ、訪問看護スタッフ、福祉サービスのスタッフなど患者さんとの関係性が構築ができている人にサポートを依頼することも有効です。
些細なことにこだわってしまうことがある
対人緊張やストレス耐性、認知機能の低下などによって、精神科患者さんは物事の全体像を把握することが困難で、些細なことにこだわってしまう傾向があります。夏に脱水予防の説明をされた患者さんが「医師からこまめに水を飲んでくださいっていわれた」といい、“水”にこだわり、「“水”でなければならないのだ」と主張していることがあります。便は1日に1回出るのがよいといわれ、回数にこだわって便のことばかり考えてしまう患者さんもいます。
精神科患者さんは、臨機応変に考えることや、全体像を見通して多少のバリエーションを許容するといった曖昧さに対処することが苦手な場合があります。このようなこだわりは患者さんの生活を不自由にして、ストレスを増大します。看護師は、その都度声をかけ、現実的な健康行動を促していく必要があります。
自己管理が難しい場合がある
こころの病の多くは、生活障害を伴います。セルフケアの低下は健康管理にとって大きな問題となります。
①薬の管理が難しい
慢性疾患を抱える患者さんは、日常的に内服治療に取り組みます。精神科患者さんは、すでに精神科薬を飲んでおり、それに加えて内科から処方された薬を飲むことになります。処方日や処方された場所が異なる薬について正確に把握して、飲み続けることはとても難しいことです。地域で生活する患者さんの場合、精神科訪問看護によるサポートを利用することは有効です。
②食事や運動などの生活管理が難しい
糖尿病や高血圧などの生活習慣病は生活の管理が必要です。一般的にみても食事や運動の自己コントロールは難しく、理想的にできる人のほうが珍しいでしょう。しかし、自分の健康リスクを把握し、必要な生活管理に取り組むことは社会生活の基本です。精神科患者さんの中には食欲のコントロールが難しい人や、ストレス対処で食べてしまう人(例:イライラしたら甘いものを食べて抑える)などもいます。食事を我慢することがストレスになるため、ストレスを避けるために我慢しないとう考え方の患者さんもいます。精神科患者さんは手軽な食べ物を好み、スナック菓子や炭酸ジュースといったジャンクフードを多くとるという問題もあります。
身体的な管理だけでなく、精神症状、知的能力、ストレス耐性、生活パターン、セルフケア能力、内服薬の影響、経済状況など、多岐にわたる要因のバランスをとりながら調整するには、看護師のアセスメントと指導が重要です。その人の生活スタイルに合った具体的な指導を心がけましょう。
③精神症状に波があり、身体的な治療の継続が難しい
患者さんの基礎疾患である精神疾患は、調子に波があります。ストレスなどのさまざまなきっかけにより、感情的に不安定になったり、昼夜逆転してしまったり、思考障害が増悪して生活が維持できなくなるなどの問題が生じがちです。このように調子に波がある場合、一般科(身体科)への定期的な通院が困難になることがあります。また、内服や食事、運動の習慣が崩れて、挫折感をもつ場合もあります。
薬の管理を看護師の管理に変更したり、間食の制限を緩めてストレスを緩和するなどの看護ケアを行うことで、患者さんの負担の軽減を図り、精神症状の安定を図ります。調子の波に合わせたタイムリーなアセスメントとケアが必要です。
求められる一般科(身体科)と精神科の連携
精神科患者さんの身体管理については、さまざまな課題が指摘されています。そして、そこには一般科病院との連携が求められます。しかし一般科(身体科)の看護師は、精神科患者さんへの対応の経験が乏しく、困難さを感じています。同様に、精神科の看護師も、身体的なケアの経験が不足していることから困難感をもっています。そのため、お互いの知識や情報を生かすことで患者さんのケアがスムースにいくよう、きめ細やかな情報交換、教育研修の充実が望まれます。
参考文献
●武石美香, 他:精神科病棟以外での勤務経験がない看護師が抱く身体合併症看護に対する心理的負担.秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻紀要. 2017;(25)1:99-105.
●久松美佐子, 他:がんを合併した統合失調症患者を看取る精神科看護師の緩和ケアを促進させる要因.死の臨床. 2016;(39)1: 153-8.
●新村秀人:統合失調症者の高齢化に関する問題.老年精神医学雑誌. 2017;(28) 8: 873-8.