ミルクオリゴ糖による排便コントロールの取り組み【PR】
- 公開日: 2018/5/14
長期療養中の患者さんに多い便秘。
通常、摘便や浣腸、下剤を使用して対応しますが、患者さんに負担がかかるだけでなく、看護師の業務も増えてしまうという問題があります。
慢性期の患者さんが入院する名寄東病院でも便秘の患者さんが多く、常に便秘解消の方法を模索しています。
今回は、ミルクオリゴ糖であるラクチュロースを使用した排便コントロールへの取り組みを紹介します。
生理的な自然排便の促進を目指し、管理栄養士と看護師が連携
北海道北部の中心都市である名寄市内に位置し、療養病床105床を有する名寄東病院。名寄市立総合病院や地域の急性期病院より慢性期の患者さんを受け入れ、その療養生活を支えています。入院患者さんのほとんどは高齢者であり、院長の吉田弘先生によると、床上で長期に療養されている患者さんが多く、便秘が病院全体の慢性的な問題になっています。
同院では原則的に、便秘傾向の患者さんには常用で下剤を投与し、3日目に排便がない場合は浣腸、それでも排便がなければ摘便や刺激性下剤の追加投与などの排便処置を行っています。摘便や浣腸の実施に加え、刺激性の下剤を追加せざるを得ないケースが多く、患者さんの身体的な負担などの問題から、排便状況の改善、ひいては生理的な自然排便の促進が課題となっています。そのため、排便状況の改善に有効だと考えられる方法があれば、効果について院内でリサーチしていく方針を取っています。
そうした院長の方針のもと、管理栄養士が積極的に情報を収集、排便状況の改善が期待できる製品を病棟の看護師に提案し、互いに連携しながらその効果を検証するという取り組みを続けています。これまで食物繊維などを試みましたが、明らかな成果がみられることはありませんでした。
そんなとき、管理栄養士の大塚由香利さんより提案があったのが、ラクチュロースを50%含むオリゴ糖シロップ(ミルクオリゴ糖)でした。ラクチュロースは牛乳由来のオリゴ糖で、ビフィズス菌を増やす食品素材として育児用ミルクや流動食、さらに健康食品などに広く使用されています。
この提案を第1病棟の看護師が受け入れ、ミルクオリゴ糖のリサーチが始まりました。
18週間にわたりミルクオリゴ糖の効果を検証
ミルクオリゴ糖のリサーチは、5人の患者さんを対象に18週間(観察期間3週間、投与期間15週間)にわたり行われました。対象としたのは、自然排便がなく、摘便や浣腸、下剤の追加投与などの排便処置が多い患者さんのうち、嚥下機能に問題がなく食事を経口にて全量摂取している2人、経管栄養で必要エネルギーを摂取している3人です。食事量や水分量の不足による排便へ影響を考慮し、全量摂取している患者さんから選びました。また、食事そのものの影響を排除するため、メニューや栄養剤の内容は変更しませんでした。
投与後2〜3週間で排便状況に変化がみられた
リサーチの結果、5人のうち3人に排便回数の増加と、摘便や浣腸などの排便処置の減少がみられました。患者さんによっては硬い便から軟らかめの便になり、さらに浣腸の実施や下剤を追加投与しないことにより、泥状便から軟らかめの便や普通便へと変化するといった便性の改善もみられました。なかには排便量が増加したため、常用していた下剤を一時的に休止した例もありました。残り2人のうち1人は、排便回数に変化はみられませんでしたが、追加下剤の使用量を大幅に抑え、自然排便も認められるようになりました。
データの収集や検証などリサーチを担当していた川上累里子さんは、ミルクオリゴ糖を投与して2~3週間ほど経過したころに、効果を実感するようになりました。経管栄養の患者さんでは、便性が硬く陥入便となり摘便を実施していたのが、投与後は便が軟らかくなり自然に排便できるようになりました。また、追加下剤を服用していた患者さんが、投与後は下剤を追加することなく排便できるようになるといった変化が徐々に現れました。
第1病棟の科長菅野竹子さんは、導入後、対象患者さんの浣腸が減ってきたことを感じました。病棟での浣腸は多いときには1日10件を超えていたので、コストダウンにもつながったといえます。何といっても、摘便や浣腸が減ったことで、患者さんの苦痛が軽減できたというのが大きな成果です。
導入を提案した大塚さんは、以前から看護スタッフと協力して、さまざまな製品を試してきましたが、今回は食事の食物繊維や水分量を増やしたわけではなく、ミルクオリゴ糖を摂取したのみで患者さんのQOLが向上したのは、何よりの喜びでした。
摘便と浣腸の軽減により看護業務の負担も軽減
こうした結果とともに、看護業務にも変化が表れました。川上さんと同じくリサーチを行っていた佐々木由梨子さんは、摘便や浣腸の回数が減り、看護業務の軽減につながったと実感しています。一方で、排便回数が増えたことによるオムツ交換の回数は増えましたが、それは良い結果だと考えています。ミルクオリゴ糖の準備も、通常の配薬とともに行ったので、大きな負担にはなりませんでした。
食事介助やオムツ交換の業務にあたっている看護補助のスタッフは、業務の負担よりも変化の大きさを実感しています。木村有里さんによると、看護補助のスタッフの中でも、そんなに変化があるなら、他の患者さんにも使ってみたいという声が聞かれたといいます。看護スタッフが協力的であったことは、今回の結果が得られた要因の一つといえるでしょう。
さらに菅野さんは、製品の味も重要と考えています。同院では認知機能が低下している患者さんが多く、今回対象となった患者さんもそうです。嫌な味であれば、吐き出してしまうなど飲んでもらえません。でも、このミルクオリゴ糖は甘くて美味しそうに飲んでくれました。
ミルクオリゴ糖自体は体内に吸収されないため、体重への影響はほとんどなく、糖尿病患者さんにも使用を検討できるのではないかと大塚さんは考えています。
ビフィズス菌の併用などさらなる検証が今後の課題
ミルクオリゴ糖には、ビフィズス菌の栄養源としての働きがあります。今回変化がみられなかった患者さんは、もともとビフィズス菌が少ないといった腸内環境が少なからず影響していると推測できます。そのため菅野さんは今後、ビフィズス菌を併用したリサーチなども行いたいと考えています。
川上さんは、今回とは逆に食事の摂取量が少ない患者さんを対象としたリサーチも行ってみたいと、対象患者さんを広げることに意欲的です。
今回は薬剤の経費に関しては、データを取っていませんでしたが、今後はそういったことも数値化してみていきたいと大塚さんは考えています。「当院のような慢性期の療養型の病床は、患者さんの1日の経費に限りがあります。ですから、あまり高額なものは使用できません。でも、ミルクオリゴ糖の場合、許容できる範囲内のコストでよい結果が得られたため、ビフィズス菌の併用や対象患者さんの数を増やすなど、継続して取り組んでいくことができると思います」と院長も今後の取り組みを後押ししています。
他の病棟でもミルクオリゴ糖の導入は広がっています。すべての入院患者さんのQOLの向上を目指して、排便コントロールへの取り組みは続きます。
ミルクオリゴ糖の投与手順
経口での投与
1 必要物品(ミルクオリゴ糖、計量スプーン、水)を準備する
2 患者さんの体位を整え、投与する旨を伝える
3 計量スプーンで投与量を測る
4 計量スプーンでそのまま飲んでもらう
5 計量スプーンに付着している分も確実に投与するため、計量スプーンに水を入れて飲んでもらう
経管での投与
1 必要物品(ミルクオリゴ糖、シリンジ、水)を準備する
2 患者さんの体位を整え、投与する旨を伝える
3 シリンジに投与量のミルクオリゴ糖を入れる
4 チューブからゆっくりと投与する
5 シリンジに水を入れて、シリンジ内にミルクオリゴ糖が残らないよう再度投与する