進化する酸関連疾患治療:子どもの酸関連疾患の治療課題と PPIがもたらす変革を考える
- 公開日: 2018/11/14
2018年7月13日丸の内トラストタワーにて、アストラゼネカにより「進化する酸関連疾患治療:子どもの酸関連疾患の治療課題とPPI(プロトンポンプ阻害薬)がもたらす変革を考える」をテーマに、小児酸関連疾患セミナーが行われました。
講演は信州大学 医学部 小児医学教室 講師 中山佳子先生。パネルディスカッションには島根大学医学部 内科学講座第二 教授 木下芳一先生、順天堂大学大学院医学研究科 小児思春期発達・病態学講座 主任教授 清水俊明先生が登壇し、小児の酸関連疾患の現状について話されました。その様子をレポートします。
小児医療品薬の現状を知っていますか
PMDA医療用医薬品情報検索で添付文書に「効能又は効果/用法及び容量」に「小児」を含むものを検索してみます。すると、適応の多いアレルギー用薬等いくつかのジャンルを除くほぼすべてで、カウントされる数は3割をきってしまいます(平成30年6月現在)。
このことから、成人と比較して小児の適応が少ないということがわかりますが、海外の小児適応薬の数と比較しても同様です。欧米では小児対象開発が義務化され、その結果、小児臨床試験が増加しました。日本では、開発の困難性の高さ、治験の採算性が合わないなどの理由から法整備が進まず、世界的にみても小児の臨床治験が少ないのが現状です。
小児の酸関連疾患とは
小児の酸関連疾患には、胃食道逆流症(以下GERD)や逆流性食道炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などがあります。成人の消化器疾患では胃潰瘍や十二指腸潰瘍が多数を占めますが、小児患者はその逆で、胃食道逆流症や逆流性食道炎に注意して診ていかなくてはなりません。
現在、小児消化器専門内科専門医の数は圧倒的に不足しています。また、地域差も大きいためどこでも同じ治療を受けられるわけではありません。たとえ酸関連疾患であったとしても、乳児では溢乳と間違えられるなど、幼少であるほど訴えから疾患を特定することは困難となります。こうして疾患は見逃され、活動に制約が生じる、場合によっては成長障害などの合併症をきたすという可能性もあります。
小児のGERD・逆流性食道治療とPPI
成人のGERDでは胸やけや呑酸の訴えが一般的であるのに対し、小児では嘔吐・吐き気・腹痛など非特異的な症状を呈します。その他、呼吸器症状などの多彩な消化器外疾患を呈することも特徴です。そのため、小児はGERDを症状のみで診断することが困難であり、診断と治療を平行して進めるのが実践的です。さらに、年長児では医療者からの問いかけの仕方などの工夫をしながら診察を行う必要があります。
GERDや逆流性食道炎にPPIを使用する場合、「典型的な胃食道逆流症の症状がある」かつ「危険徴候がない」ことを確認し1日10~20㎎のネキシウムを約2週間投与します。PPIの投与が有効であれば4~8週間治療継続、そうでなければ精査または小児消化器医に紹介という流れになります。
小児の胃潰瘍・十二指腸潰瘍治療とPPI
主症状は年齢によって異なりますが、胃潰瘍よりも十二指腸潰瘍の頻度が高いのが特徴です。また、小児であっても穿孔・狭窄・消化管出血の合併症は起こり得ます。胃・十二指腸潰瘍が疑われる場合、まずは腹部エコーなどでスクリーニングを行い、否定できないということになれば内視鏡検査にうつります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍にPPIを使用する場合、1歳以上の小児の確定症例ではネキシウム10~20㎎を第一選択とします。さらに、ヘリコバクターピロリなど病因に応じた治療を行い再発を予防します。
最後に
これまで、小児酸関連疾患には有用な治療薬がありませんでした。酸関連疾患は患児自身だけでなく保護者のQOLにも大きく影響します。患児と保護者のQOL維持のためにも早期診断・早期治療は重要であり、見逃すことがないよう、小児にも酸関連疾患があるということを念頭におき、診療する必要があります。
小児酸関連疾患はPPIの小児適応追加で一歩前進しました。しかし、「PPIの長期投与」「1歳児未満の乳児への使用」「ヘリコバクターピロリ除菌の補助」など多くのアンメットニーズは依然として残ったままであり、更なる進歩が必要です。
<パネルディスカッション>
講演後、中山 佳子先生、木下 芳一 先生、清水 俊明先生によるパネルディスカッションが行われ、さまざま内容について議論が交わされました。そのなかの一部を紹介します。
会場からの「小児はどのような言葉で訴えてくるのか」という質問に対し、清水先生は「成人のように症状を訴えるのは難しいので、保護者の観察が大切になります。また、実際に訴えている場所と違う場合もあるので、こちらから確かめることも大切です」と話し、中山先生は「小児のボキャブラリーに“胸やけ”という言葉はないので、わかりやすい言葉を使用して聞くようにしています」と回答しました。
また「小児消化器内科専門医が不足している現状についてどう思うか」という質問に対して、清水先生は「学童期以下の小児領域で内視鏡が出来る施設を増やし、小児科と内科のコミュニケーションを密に取ることで重症化を防いでいかなくてはならない」と話しました。
中山先生に対しては「小児内視鏡専門医として気をつけていること」について質問があり「内視鏡を受けるとき、子どもは痛みに対して不安を持ち、親は副作用について強く心配をしています。そのため、実際に内視鏡を受けた子どもの体験談を話すことで、親だけでなく子どもからも同意を得るようにしています」と自身がいつも行なっている方法について話しました。