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【UP DATE】HIV感染症/AIDSの現在について知っておこう!

  • 公開日: 2020/3/2

2020年1月31日、東京會舘レベル21においてヴィーブヘルスケア株式会社メディアセミナー「日本から発信するHIV感染症/AIDS治療の到達点と展望~HIVと共に生きる人々の負担を軽減する、2剤療法製剤の意義を説く~」が開催されました。HIV感染者に対する差別やスティグマを減らし、性の多様性を受け入れる社会となるよう、HIVに関する知識を正しいものへとアップデートしていかなければなりません。今回は、松下修三先生と古賀一郎先生の講演をレポートします。

「HIV感染症/AIDS 今どうなっている?」
熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター教授(一般社団法人日本エイズ学会理事長)松下修三先生

HIV感染症とは

 HIV感染症とは、ヒト免疫不全ウイルス1型によって起こるウイルス感染症です。HIVウイルスは接触感染によって人から人にうつり、その感染経路は性的接触、血液感染、母子感染の3つ。体内に入り込んだヒト免疫不全ウイルス1型は免疫機能の中心的役割を果たすCD4T細胞に入り込み、その細胞内で爆発的に増殖します。感染したCD4T細胞は数日のうちに破壊され、CD4T細胞は徐々に減少をはじめ免疫不全状態が進行していきます。

現在行われているHIVに対する治療

 HIVに対する標準治療は、クラスの異なる抗ウイルス薬を組み合わせる「抗ウイルス療法:ART」です。2種類の核酸系逆転写阻害剤(NRTI)にキードラッグであるインテグラーゼ阻害剤(INSTI)など1種類を加えた3剤併用療法が一般的となっています。97年の抗ウイルス治療開始当初、20~30錠/dayだった服用量も現在は1錠/dayで済むようになり、副作用も抑えられています。

標準的ART核酸系逆転写阻害剤(NRTI)

インテグラーぜ阻害剤(INSTI)
プロテアーゼ阻害剤(PI)
非核酸系逆転写阻害剤(NNRTI)
のいずれか

 また、HIV陽性者の寿命の延伸も認めており、早期発見早期治療できたケースでは非感染者の一般的な寿命とさほど差がないことがわかっています。

今後の抗ウイルス治療に期待されること

 HIV陽性者の中には、心疾患、糖尿病、COPD、肝疾患、骨粗鬆症などさまざまな合併症を発症しているケースが多くあります。この要因の一つとして推測されるのは、長期間に及ぶ抗ウイルス薬の服用です。多剤使用で体内のウイルス量は調整できる反面、合併症の発症リスクを高めている可能性も否めません。

 今の日本において、HIV陽性者はAIDSそのものよりも、がんなどの他の疾患を死因として亡くなっているのが現状です。寿命の延伸で他の疾患にかかる可能性も考慮すると、抗ウイルス薬は他剤との相互作用が少なく長期毒性が抑えられたもの、そして使用する薬剤の数も少なくなることが望まれます。

 また、患者さんの負担を減らすためにも現時点で研究段階にある半減期の長い内服薬や注射製剤が、いずれは臨床の場に登場してもらいたいと考えています。HIVの予防や治療に関する残された課題は多く、今後も研究を継続していくことが大変重要です。

感染予防のアップデート~「コンドームの使用」から「U=U」~

 性交渉の際にコンドームを正しく使うことは、性別問わずHIVをはじめとする性感染症の予防につながるとされてきました。しかし、実際のところコンドームを100%使用することは困難です。近年、ARTによってウイルスが200コピー/ml未満に抑制されていれば、コンドームを用いない性交渉でも感染が起こらないという報告がありました。ARTできちんと体内のウイルス量がコントロールされていればパートナーへ感染させる可能性はない、つまりHIV陽性者でも「感染源とならない」ということです。

「U=U(Undetectable=Untransmittable)」HIVウイルス量が検出限界値未満(Undetectable)の状態を最低6か月以上持続できれば、性行為によってパートナーへHIVを感染させるリスクがゼロ(Untransmittable)となる


山口正純:HIVは治療をすればうつらない?解説「U=U」.日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(2020年2月5日閲覧)https://www.janpplus.jp/topic/599 を元に作成

 ARTでウイルス量が測定感度以下であれば、パートナーへ感染が拡大しないという事実を受けて、すべてのHIV感染者で治療を開始すべきと考えられるようになりました。これを受けてUNAIDS(国連合同エイズ会議)は、2020年までに90-90-90を達成する計画を発表しました。これにより、2030年には、もはやAIDSは人類の脅威ではなくなると宣言したのです。しかしながら、新規感染例は予想ほど減少していないという事実があります。

 また、これを実現した場合、HIVへの感染が明らかとなった時点から抗ウイルス薬の服用は一生継続することになります。薬の負荷やかかる費用を考慮しても、「服用する薬の数は少ないほうがよい」という考えの根拠となります。

「90-90-90」HIV陽性者の90%が検査を受け感染を知り
その90%が抗ウイルス治療を受け
その90%でウイルス量が検出限界以下となる


検査に対する敷居を下げ、ハイリスク群へのPrEP導入も検討を

 2018年時点、新規のHIV陽性者とAIDS患者さんの総数は1317件、累計では約3万人となっています2)。 AIDSが原因で亡くなる方は激減した一方で、新規感染者は思ったほど減っていないのが現状です。新規感染者を減らすためには、検査の選択肢を増やし、検査への敷居を下げる必要があります。日本においても同性愛者に対するコンドームの配布やsafer sexの教育を行っている地域がありますが、このような機会に触れない方々にどう情報や知識を提供するかを考えていかなければなりません。

図 HIV感染者およびAIDS患者の累計報告数(1985〜2018)
HIV感染者およびAIDS患者の累計報告数(1985〜2018)
厚生労働省エイズ動向委員会:平成30年(2018)年エイズ発生動向ー概要ー.(2020年2月5日閲覧)https://api-net.jfap.or.jp/status/2018/18nenpo/h30gaiyo.pdfより引用

 また、エイズ動向委員会報告(平成30年度)によると、HIV感染の7割近くが男性同性間の性的接触によると報告されています。感染リスクを軽減するためにもHIV薬の予防的内服(PrEP)を行えば、感染予防にかなりのインパクトを与えることになると考えられています。日本においてはHIV感染予防薬として承認された薬剤はまだありませんが、WHOのガイドラインでは「すべてのハイリスク群にPrEPを行うべきだ」と提唱されています。

多様性を受け入れられる社会へ

 HIVは性的接触によって感染する側面から、中には自己責任であるという見解を示されることがあります。しかし、問題なのはHIV陽性の診断を受けている方ではなく、診断を受けることができない方のほうです。HIV陽性者を減少させるためには何とか早期診断を行うことが我々のテーマであり、そのためには差別やスティグマを排除し、正しい知識をもってHIVを理解し、社会全体が性の多様性を受け入れる必要があります。

「HIV治療30年の歴史に挑戦する新たな2剤療法のエビデンス~生涯服薬を必要とするHIV陽性者の負担を軽減する新たな治療の提案~」
ヴィーブヘルスケア株式会社 メディカルアフェアーズ部門長/医師 古賀一郎先生

3剤治療が確立した経緯

 HIV感染は一生持続します。体内に入り込んだウイルスは増殖を繰り返し、生涯血中に存在し続けることになるため、患者さんは生涯においてHIVと向き合い続ける必要があります。HIV陽性者をAIDS発症に至らせないためには、血中のウイルス量を抑制する必要がありますが、なかなかうまくいかないケースがあります。一つは十分な内服ができないこと、もう一つは何らかの原因で薬の血中濃度が維持できない、そしてウイルスが変異を起こして薬がうまく効かなくなることの3つです。

 実際、抗HIV治療薬が初めて承認された1987年以降も、血中ウイルス量を抑え続けることはできていませんでした。しかし、1996年、2剤の逆転写酵素阻害薬(NRTI)にもう1剤加えることで、HIV治療がうまくいくという報道がHIV専門誌をはじめとするメディアに取り上げられました。以降、2剤のNRTIにコアエージェント1剤を追加した3剤治療がHIV治療のスタンダードとなってきました。

コアエージェントの進化が3剤治療→2剤治療への道を拓く

 とはいえ、医療の進歩と共に抗HIV薬も進化をとげてきました。例えば、コアエージェントのドルテグラビル(DTG)でみると、その抗ウイルス効果は、単剤投与試験においても高い効果を示しており、必要かつ十分な抗HIV治療という観点で考えたとき、DTGを含む2剤治療がこれまでの治療と同等であるならば、3剤治療とする必要はあるのでしょうか。

そこで、コアエージェントを固定し、NRTIが2剤(3剤治療)のものと1剤(2剤治療)のものの比較試験を行いました。その結果、いずれも同等のウイルス抑制効果を確認することができ、耐性変異の発現も認めませんでした。さらに、薬剤に関連した有害事象は2剤治療のほうが有意に少ないという結果が得られました。

2剤治療~ガイドラインの推奨療法として掲載~

 この結果が評価され、「DTG+3TC」の組み合わせで行う2剤治療が欧州エイズ臨床学会ガイドラインや米国DHHSガイドラインなどに推奨療法として掲載されました。なお日本のガイドラインは通例毎年春に改訂されてます。

DTGを中心とした2剤治療、HIV陽性者にもたらすもの

 AIDSが直接の死因となることがほとんどなくなった今、HIV陽性者は高齢化の一途をたどっています。HIV治療薬の副作用をはじめ、服用期間が長期に及ぶことによる影響、さらに他の疾患を合併したことで服用する薬との相互影響が、臨床現場では問題として挙がってきています。また、コストの面でも、例えば「DTG/ABC/3TC」の3剤治療薬では、1錠あたり7075円、1日1回の服用で年間255万円の薬剤費がかかっています。一方、「DTG/3TC」では1錠あたり4814円と薬価がぐんと下がるため、かかる費用は年間173万円、つまり年間82万円の差が生じることがわかります。日本のHIV感染者は2万5千人とも3万人とも推定されており、2剤治療によるコスト削減は少なからず影響を与えるのではないでしょうか。

引用・参考文献

1)山口正純:HIVは治療をすればうつらない?解説「U=U」.日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(2020年2月5日閲覧)https://www.janpplus.jp/topic/599
2)厚生労働省エイズ動向委員会:平成30年(2018)年エイズ発生動向ー概要ー.(2020年2月5日閲覧)https://api-net.jfap.or.jp/status/2018/18nenpo/h30gaiyo.pdf
3)公益財団法人エイズ予防財団:平成30年度エイズ治療啓発普及事業 臨床試験から読み解く3剤治療の足跡と2剤治療の展望.(2020年2月5日閲覧)https://api-net.jfap.or.jp/library/alliedEnt/images/H30-jigyo.pdf

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