心嚢ドレナージの看護|挿入の手順と観察項目、合併症
- 公開日: 2020/4/26
心嚢ドレナージとは
心臓の周囲は2枚の心膜で覆われており、この2枚の膜の間の部分を心嚢といいます。心嚢内には10~20㏄程度の心嚢液があり、心臓が収縮や拡張するときに潤滑油の役割を担っています。
何らかの原因で多量の心嚢液が貯留して、心機能に障害が生じる状態が心タンポナーデです。この溜まった心嚢液を体外に排出することを心嚢ドレナージといいます。
心嚢ドレナージの目的
・心嚢液を排液し、心嚢内の液体貯留を防ぐことで、心タンポナーデを予防します。
・心嚢液の性状を観察・検査することで、心嚢液が増加した原因を検索します。
心嚢ドレナージの挿入手順
【必要物品の例】
a.マキシマルバリアプリコーション*1:マスク、ガウン、キャップ、滅菌手袋
b.術野の確保:滅菌用ドレープ、穴あきドレープ
c.消毒:滅菌綿球、消毒剤(ポピドンヨード液など)
d.局所麻酔:1%リドカイン注射液、23Gカテラン針、注射器
e.排液用:心嚢穿刺用アスピレーションキット、滅菌ガーゼ、排液容器
f.固定用:ナイロン糸、テープ、フィルムドレッシング材、テープ
g.検査用:エコー滅菌カバー、滅菌スピッツ
*1 感染予防のため、キャップ、マスク、滅菌ガウン、滅菌手袋、大型滅菌全身用ドレープを用いて無菌操作で施行すること
【挿入手順 ※ここでは経皮的心嚢ドレナージの手順を示します】
医師 | 看護師 | |
---|---|---|
① | 侵襲を伴う検査、治療であるため、患者家族に詳細を説明し、同意を得ます。 | 処置の同意書を確認します(名前、日付、合併症の記載など)。 |
② | 経胸壁エコーにて、心嚢液の貯留を確認します。 | 必要物品を準備します。 |
③ | 穿刺部位(剣状突起・心尖部・胸骨左縁アプローチ)を選定します。 | 患者さんを30~45°の半座位にします。 |
④ | 消毒をします。 剣状突起アプローチの場合、鎖骨の高さから臍まで消毒します。剣状突起を中心に滅菌ドレープを用いて清潔野を確保します。 | 消毒薬を準備します。 ヨードアレルギーがある場合は、クロルヘキシジンを準備します。 |
⑤ | キャップ、マスク、滅菌ガウン、滅菌手袋を装着します。 | 医師が滅菌ガウン、滅菌手袋を装着する際に介助をします。 看護師はキャップ、マスク、手袋を装着します。 |
⑥ | 穿刺部位に皮下注射で局所麻酔をします。 | 1%リドカイン注射液を準備します。 キシロカインにアレルギーがある場合は、プロカイン塩酸塩を準備します。 |
⑦ | 穿刺を行います。 剣状突起と左肋骨弓が交差する点より0.5㎝~1㎝程度下方から、30~45°の角度で実施します。 | 心嚢排液用アスピレーションキットを準備します。 |
⑧ | アスピレーションキットを挿入します。 エコー目視下に穿刺針を挿入し、ガイドワイヤーを穿刺針から挿入します。挿入後、穿刺針を抜去し、ガイドワイヤーからシース*2を挿入します。 | 血圧、心拍数、呼吸回数、SpO2、呼吸パターン、意識レベル、痛みの有無をモニタリングします。 |
⑨ | 心嚢液を排液します。 | 排液の量や性状を確認します。 |
⑩ | アスピレーションキットを留置する場合は、ナイロン糸で固定します。胸部X線検査で合併症などを評価します。 | テープで固定を強化します。胸部X線検査の介助をし、衣服を整えます。 |
*2 「シースイントロデューサー」の略で、カテーテルなどデバイスの挿入・交換をしやすくするために血管内に留置される管のこと
心嚢ドレナージの管理(観察項目・注意点)
【穿刺前】
急変対応の準備
末梢静脈ラインを確保し、気管挿管、緊急薬品を準備しておきます。
【穿刺中】
穿刺部の疼痛
処置の痛みや過度の緊張によって、迷走神経反射(徐脈、低血圧)が誘発されることがあります。局所麻酔薬の皮下注射や穿刺の際は事前に声をかけ、タッチングを行うなど不安や苦痛の軽減に努めます。必要であれば局所麻酔薬を追加します。
バイタルサインの確認
合併症の早期発見のためには、血圧、心拍数、不整脈の有無、呼吸回数、SpO2、意識レベル、ショック症状の有無を観察します。また、モニタリングしやすくなるようにモニターの同期音やアラーム音を高めに設定し、血圧をこまめに測定できるようにします。
排液の観察
心嚢液の排液量、性状、色を確認します。持続吸引時、排液量2mL/㎏/hが3時間以上持続する場合は、開胸止血術になる可能性があるため注意します。順調に経過した場合、性状はさらさらで、色は淡血性→淡々血性→淡黄色→淡々黄色と変化します。
【穿刺後】
穿刺部の観察
アスピレーションキットの挿入部が観察できるように、フィルムドレッシング材とテープを用いて固定します。挿入部からの滲出や出血がないか、感染徴候(発赤、腫脹、熱感、疼痛)がないか、フィルムやテープがはがれていないかを確認します。
心嚢ドレナージの合併症とケア
心筋及び冠動脈損傷、気胸、血胸、低血圧、消化管穿孔、肝損傷
挿入により臓器損傷を来した場合は、急変する可能性があります。バイタルサインや排液の性状を確認し、異常の早期発見に努めます。また、CT、MRI検査の追加など状況に応じた対応が必要です。
不整脈
穿刺時やドレーン留置によって発生する可能性があります。そのため、穿刺時には注意深くモニターを観察します。ドレーン留置で不整脈が誘発された場合は、留置位置の変更が必要となることから、医師に報告します。
感染
感染を予防するために、穿刺前に穿刺部位の洗浄、術者のマキシマルバリアプリコーションの徹底、確実な清潔野の確保、無菌操作の徹底を行います。
迷走神経反射(徐脈、血圧低下)
迷走神経反射は、何らかの原因で副交感神経の1つである迷走神経が刺激され心拍数が低下し、末梢の血管の拡張により血圧が低下することで、脳に十分な血液が送れなくなり起こります。迷走神経反射で血圧が低下した場合は、補液を急速に投与します。徐脈になった場合は、硫酸アトロピンを準備します。
参考文献
●日本循環器学会,他:循環器医のための心配蘇生・心血管救急に関するガイドライン.循環器の診断と治療に関するガイドライン(2007-8年度合同研究班報告),2009,p.1417-19.(2020年3月26日閲覧)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010kasanuki_h.pdf