2つの菌が年間8000人の命を奪う!日本が抱える薬剤耐性問題
- 公開日: 2020/4/4
「抗菌薬=風邪に効果がある」という誤解が未だに消えない現代。不適切な抗菌薬の処方は、薬剤耐性(AMR)を増やし、さらに世界的な死亡者の増加に繋がっています。2050年には、薬剤耐性に関連した死亡数が年間1000万人に達する可能性があるとされており、その対策は急務です。
国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター(厚生労働省委託事業)では、日本における薬剤耐性の現状を調査し、4つの問題点を明らかにしました。
①年間8,000人が2種類の薬剤耐性菌による菌血症で死亡
薬剤耐性に関連する死亡者は、米国では年間3.5万人以上、欧州では年間3.3万人と推定されています2)。日本での死亡者数は明らかになっていませんでしたが、当センターの調査によって、2種類の薬剤耐性菌により年間8000人が亡くなっていることが推定されました。
その薬剤耐性菌が、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とFQREC(フルオロキノロン耐性大腸菌)です。この2つの菌による菌血症の死亡者数は、MRSAはやや減少傾向にありますが、FQRECは増加しています。この2つ以外の薬剤耐性菌を調査すれば、さらに死亡者数は増えることが予想されます。高齢化が進む日本において、薬剤耐性による死亡者数の増加は大きな問題です。
②大腸菌の薬剤耐性率は西高東低
日本国内において、大腸菌のフルオロキノロン耐性率に地域差があることがわかりました。東日本よりも西日本や九州のほうが、フルオロキノロン耐性率が高くなっており、フルオロキノロン系抗菌薬の処方量も同じ傾向が見られています。
フルオロキノロン系抗菌薬は、オゼックスや、レボフロキサシン、クラビットなどの販売名で処方される薬剤です。本来、肺炎や尿路感染症などの治療に使われる抗菌薬ですが、風邪に処方される頻度が高いという現状があります。
この調査結果を受けて、問題意識を高め、対策活動を行おうとする地域も出てきています。
③抗菌薬の処方が不必要な病気や健康な年代への処方割合が多い
2005年頃の調査では、抗菌薬を風邪などの急性気道感染症に使用している割合は60%という結果でした。現在では減少しているものの、30%台とまだ高い状態にあります。
また、処方件数を年代別に調査したところ、19歳から29歳の若く健康な世代への処方件数が最も高いことがわかりました。学業や仕事に忙しい年代ですので、一刻も早く風邪を治す必要があるという背景が伺えます。しかし、免疫力の高い世代ですので、自然に治ること、抗菌薬で風邪を治せないことを周知する必要があります。
④抗菌薬に対する正しい知識は持つ人は全体の2割
「風邪やインフルエンザに抗菌薬は(抗生剤)は効果的か?」という質問に「効果はない」と答えた人は約20%、「効果がある」「わからない」と答えた人は約80%でした。
この質問の正解はもちろん、「効果はない」です。このように、抗菌薬に対して正しい知識を持っている人は少なく、抗菌薬を飲めば風邪は良くなると考えている人は多いと言えます。正しい知識の不足によって、不必要な抗菌薬の処方や、手持ちの抗菌薬を自己判断で内服するなど、抗菌薬の間違った使用が起こってしまいます。
これらの現状に対して行うべき2つの対策法
薬剤耐性の増加がこのまま続けば、将来的に感染症を治療する有効な抗菌薬が存在しないという事態が起こってしまいます。
その事態を防ぎ、薬剤耐性による死亡者を減らすために今求められる対策は、抗菌薬の適切な使用と感染対策です。
「抗菌薬で風邪は治らない」という事実を周知し、安易な処方や内服を避けることが必要です。医師の指示に従い、用法用量を守って、処方された量を飲みきることが重要になります。
風邪をひかないために日ごろから手洗い・うがいを行い、ワクチン接種、マスクや咳エチケット、早めの休養によって周りにも配慮することも大切です。
一人ひとりの行動が、薬剤耐性の拡大防止に繋がるため、医療者はこれらの周知に努めることが求められます。
引用・参考資料
1)国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター
2019年度 薬剤耐性問題を総括 新たな課題と展望
2)国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター
MRSA菌血症 とフルオロキノロン耐性大腸菌血症で年間約8,000名が死亡(2020年4月1日閲覧)
http://amr.ncgm.go.jp/pdf/20191205_press.pdf
3)日経メディカル ニューキノロン系抗菌薬の解説
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/556e7e5c83815011bdcf8303.html