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血友病について知ろうー最新の治療について解説ー

  • 公開日: 2020/4/20

2月29日は「世界希少・難病疾患の日(RDD:Rare Disease Day)」です。RDDは、希少・難治性疾患の患者さんのQOL向上を目指してスウェーデンで2008年に始まった国際的な啓発イベントです。毎年2月の最終日をRDDとし、日本では、2010年から開催されています。RDDに先立ち、2020年2月4日、RDDプレスセミナーが開かれました。ここでは、セミナーでの講演の様子をレポートします。

講演1「血友病を取り巻く現状」
東京医科大学臨床検査医学分野 血液凝固異常症遺伝子研究寄附講座 天野景裕先生

血友病とは

 血友病とは、12種類ある凝固因子のうち第Ⅷ因子あるいは第Ⅸ因子が生まれつき不足している、もしくは働かないX連鎖性劣性遺伝性の疾患です。第Ⅷ因子に起因するものを血友病A、第Ⅸ因子に起因するものを血友病Bと分類します。
 
 血友病の患者さんはほぼ男性で、世界で約40万人いるとされています。出生頻度は血友病Aで5000人に1人、血友病Bはその1/5程度です。2018年5月31日時点では、日本では血友病Aは5301人、血友病Bは1156人となっています1)
 
 血友病の重症度は生まれつきの凝固因子活性で分類します(表1)。この分類をもとに、出生時から一人ひとりに応じた治療方針を立てて介入を行います。

表1 血友病重症度

重症度 基礎値としての因子の活性 出血の傾向
重症型 <1% 日常生活で、自然出血を繰り返す
中等症型 1〜5% 日常生活で、自然出血は多くはないが、身体に負担がかかると出血する
軽症型 >5% 日常生活では、ほぼ出血しないが、大きな外傷や手術などでは出血する

*活性の基礎値は、健常者を100%とした場合のもの


血友病治療のスタンダード「定期補充療法」

 血友病はさまざまな器官に急性出血を起こします(表2)。中でも多いのが関節内出血や筋肉内出血といった身体の内部で起こる出血で、組織が圧迫されるため痛み・腫脹・熱感を伴います。この急性出血が積み重なると、血友病関節症、慢性滑膜炎、関節拘縮などの慢性変化を起こします。

表2 血友病の症状(急性出血)

血友病の症状(急性出血)
関節内出血、筋肉内出血、皮下出血、頭蓋内出血、腎出血(血尿)、口腔内出血、鼻出血、消化管出血、外傷後出血

 慢性変化による障害が起こらないようにすることを目的に行われているのが凝固因子の補充療法です。治療の方法は3種類あります(表3)。主流となっている定期補充療法は、一定の頻度で凝固因子を補充し、重症の患者さんを中等症から軽症の状態に引き上げることができます。出血頻度が低下すれば関節症の発症予防や頭蓋内出血発症リスクを半減させることもわかっていて、今では多くの小児血友病患者さんに導入されています。

 定期補充療法を行っている患者さんの割合は、血友病Aの重症患者さんでは87%、血友病Bの重症患者さんでは81%となっています。


表3 補充療法の種類

補充療法の種類 療法の内容
出血時補充療法 止血させるために凝固因子量を一定以上のレベルへ上昇させる
予備的補充療法 出血する可能性のある行動をするときに、あらかじめ輸注を行い出血を未然に防止する
定期補充療法 出血の有無や活動負荷の強さにかかわらず、定期的に第Ⅷ因子または第Ⅸ因子製剤を継続的に投与する

 補充療法は静脈注射であり、以前は、凝固因子の半減期が短いことから患者さんは週に何度も通院する必要がありました。しかし、現在では家庭内注射が認可され、テクノロジーの進歩により半減期延長凝固因子製剤も登場しているため通院回数は少なく済んでいます。家庭内注射の導入と維持には多職種の適切な介入が必要ですが、患者さんのQOLは大幅に改善し社会生活への適合性の向上も図れています。


補充療法以外の治療法

●インヒビター産生ケースに対するバイパス止血療法
 1~3割の血友病患者さんの体内では、補充した凝固因子が異物とみなされ抗体(免疫グロブリン)を産生することがあります。これをインヒビターといいます。インヒビターが存在すると第Ⅷ因子、第Ⅸ因子の補充療法が無効となります。
このような補充療法無効例の代替療法が「バイパス止血療法」です。第Ⅷ因子や第Ⅸ因子を使わずバイパスして、凝固因子を働かせてフィブリンの生成を促していきますが、凝固因子をどの程度、働かせるのかコントロールが難しく、効果を一定に保てない難しさがあります。

●第Ⅷ因子の類似物質「エミシズマブ」
 エミシズマブとは第Ⅷ因子の代わりとなる抗体です。血友病Aの患者さんのみに使用され、皮下注射で投与します。静脈確保が必要ないため、乳幼児にも投与しやすいのもメリットです。対第Ⅷ因子インヒビターを持つ患者さんの治療法としても有効であり、週に1回の皮下注射で済むため負担も少ないです。その効果は第Ⅷ因子の10~15%程度。凝固因子活性を一定期間10%程度に保つ、一種の定期補充療法ということになります。

●治験中の治療
 「Rebalancing coagulationコンセプト」に基づいた凝固因子を用いない新規治療製剤の開発も進んでいます。血友病が出血傾向を呈するのは凝固因子が欠落しているからですが、抗凝固因子(アンチトロンビン)も少なくなるように働きかければ「凝固/抗凝固」の均衡がとれた状態に戻すことができます。具体的には、AT合成阻害剤と抗 TFPI 抗体製剤の2つ。どちらも皮下注射での投与が可能です。

・AT合成阻害剤:アンチトロンビンの合成を抑制する
・抗TFPI 抗体製剤:組織因子(TF)の働きを阻害するTFPIを阻害する

 凝固因子を自分で作れるようにするための遺伝子治療の治験も、欧米を中心に行われています。各国の治験において上々の成績が報告されています。日本でも現在、治験の準備が進められています。


血友病保因者に関する課題

 血友病は遺伝性疾患であるがゆえに、保因者の母親が罪の意識を抱いてしまう場合があります。そのため、母親のメンタルケアは非常に重要です。また、保因者が出産する際、生まれた子が血友病児であった場合の頭蓋内出血発症リスクも考慮しなければなりません。

 母子ともに健康な状態で出産を終えるためには、まずその女性が保因者であることを知っていて、その情報が医療者間で共有され、母子の出血リスクを念頭に置いたケア(鉗子分娩・吸引分娩は避けるなど)が行われることが必要です。妊婦に対しても、経膣分娩に伴うリスクと選択的帝王切開に関する十分な情報提供がなされなければなりません。


患者さんの生活に合わせたテーラーメイド医療

 現在の血友病治療は、一人ひとりの特性に応じた治療を選択するのがスタンダードとなっています。野球をしたい、たくさん働きたいという患者さんはたくさん凝固因子を補充すればよいですし、そこまで必要がないという場合には最低限の治療で構いません。重要なのは、患者さんそれぞれに対して効果的な治療が行われ、効率的に関節保護を行うことです。血友病治療にかかる医療費は高額ですが、患者さんのQOLを高い状態に保てば患者さんの生産性は維持され、結果として社会のためになっていくのではと考えています。

 今は、どこにいても質の高い医療が受けられるように血友病連携システムが立ち上がっています。より良い治療環境構築のため、多くの人が血友病に関する理解を深めること、それがRare Diseaseへのケアにつながっていくように思います。


講演2「血友病 患者の立場から」 鈴木幸一さん

製剤の進化、治療の進化によりQOLは格段に変化する

 血友病の患者さんにとって最も身近な治療法は凝固因子製剤の注射です。私は1972年生まれで、小学校低学年までは注射のために週4回通院する必要がありました。遅刻・早退は当たり前、さまざまなことが制限されていたつまらない時期でした。

 それが小学4年生のときに大きく変わります。自己注射がOKとなったため、それまで「病院に連れて行ってもらい先生に注射してもらう」という受け身の治療が、自己注射をすることで「自分で自分のコンディションを適切に把握して周囲に伝える」という能動的な治療に変化しました。例えば、学校で出血や違和感を覚えても保健室で注射を打てばすぐに授業に戻れる、早退する必要がないため給食も食べられます。同級生からは「自己注射ってかっこいい」という声をかけられ、それが自信や自己肯定につながっていきました。

 20代になると製剤の小型化が進み、自宅だけでなく職場での保管ができるようになりました。1992年頃からは定期補充療法をスタート。大きな出血を起こすことが激減し、安心して活動できるようにもなりました。製剤が室温保存可能になった際には、大きな保冷ボックスを持ち運ぶ必要がなくなり、受診のついでに映画やショッピングを楽しむことができます。

 このように治療や製剤が進化した今、1日が終わったときの楽しさは全く異なっています。人生の楽しさが向上したと感じています。


必要とするバリアフリーは人それぞれ

 私にとってのバリアフリーは、まだ製剤が要冷蔵だった時代に、製剤を保管するための冷蔵庫を常駐する会社においてもらうことでした。バリアフリーとは、一律にスロープや手すりを設置することではありません。その人にとってバリア(障壁)となっているのは何かをきちんと考え、そのバリアを取り除くようアプローチすることが、本来のバリアフリーだという気がします。


最新の知識や情報を共有できる社会になってほしい

 そもそも、私は社会の一員です。しかし、希少疾患というあまり認知されていない疾患をもつ存在であるのは確かなので、まずは周囲に「私はこういう人です。こういう疾患を抱えています」というアピールを行う必要があると考えています。そのうえで、社会に対しては、お互いに最新の正しい知識や認識を持った状態でコミュニケーションがとれるよう、鮮度の高い知識・情報を共有し合える環境が整えばよいなと思っています。


講演3「RDD JAPAN 2020の活動紹介」 RDD日本開催事務局事務局長 西村由希子さん

RDDとは

 RDD(Rare Disease Day:「世界希少・難治性疾患の日」)とは、より良い診断や治療による希少・難治性疾患患者さんのQOLの向上を目指し、スウェーデンで2008年に始まった国際的啓発イベントです。毎年2月末日をRDDとし、これまでに延べ100カ国で開催されています。日本は世界で唯一「All Japan」という形で公認開催を行っており、今年で11回目を迎えました。


引用・参考文献、サイト

1)平成30年度血液凝固異常症全国調査報告書(2020年4月10日閲覧)https://api-net.jfap.or.jp/image/data/blood/h30research/h30research.pdf

2)RDD Japan:https://rddjapan.info/2020

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