看護におけるリフレクション
- 公開日: 2020/6/20
ここでは看護におけるリフレクションについて、基本的な知識について解説します。
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リフレクションとは
リフレクション(reflection)は、「振り返り、反省、内省」と訳されていますが、単に言葉の意味だけに留まりません。リフレクションは、教育哲学者であるジョン・デューイ(John Dewey)(1859-1952)によって、その理論の基盤が創られました。
彼は、「人は学習する上でただ経験するだけではなく、その経験全体を振り返り、自己の行動、思考を言語化し、その時の判断について再度考え(reflect)その意味付けをすることで、自己の学びとなる」と述べています(Dewey、1938)。
つまり、ただ経験しただけでは、学習にはなりません。経験したことを振り返って、どういう意味があったのか、どういうことに気がついたのかと考えることがリフレクションとなり、学びとなるのです。
リフレクションの効果として、経験したことを振り返って深めていくことで、その経験の意味がわかるだけではなく、それまで気づかなかった‶自分が大切にしていたこと″がわかります。特に看護では、自分の看護観を深めることができます。
また、経験を意識的に振り返り、その結果、どのようなことが生じたのか、その関連性を考えることによって、知識としての理論が生まれます。これは、パトリシア・ベナーの看護論の、エキスパートの段階にある看護師の実践をインタビューした「臨床看護実践能力」にも多くの記述があります。
このように、リフレクションの目的は、経験による意味づけ(センスメーキング)です。強調しておきたいのは、評価や原因追及、または問題解決のためではないということです。これは特に、研修などでリフレクションを活用するときに支援側が認識しておきたい重要な点です。
つまり、「リフレクションは、状況との対話をしながら、実践家が行動について意図的な選択を行い、判断するために、経験を注意深く根気強く熟考するものであること、そしてまたリフレクションは、自己との対話を通して自分自身や自分の行為に意味づけをするプロセスである」と田村1)は述べています。
看護におけるリフレクションの重要性
リフレクションは、先に述べた1990年ごろから、デューイの「経験と教育」が基盤となり、それをさらに、発展させたのは、アメリカの教育学者のデビット・コルブ(David Kolb)(1939-)です。彼は、「経験→省察→概念化→実践」の4段階の学習サイクルからなる「経験学習モデル」理論を提唱しました。
ドナルド・ショーン(Donald Schön)(1930- 1997)は、デューイの理論をさらに発展させ、教師や看護師のような複雑で、不確定な状況の中で実践を展開する専門家を「Reflective Practitioner(省察的実践家)」と呼び、専門職教育について、専門的な知識、技術の習得だけでなく、専門家として多様で複雑な変化の著しい現場で経験し、実践する中で、あるいは実践の後で、その経験を振り返って考えその課題を解決していく姿であると提言しました(1983)。その重要性が論じられ、また、教育学者のフレット・A.J.コルトハーヘン(F.A.J.Korthagen)は、「リフレクションは理論と実践を結ぶ架け橋である」と示しています。
リフレクション は、人材育成の方法論として、教育やビジネスの場で活用されてきました。
日本の看護教育では、2001年に田村らによって紹介され、いまやリフレクションは、看護基礎教育だけでなく、臨床現場の継続教育、看護管理領域にまで活用の場が広がっています。
では、なぜ看護においてリフレクションが重要視されているのでしょうか。
看護の難しいところは、状況依存性が高いということです。基本的な考え方はありますが、状況や患者さんによって異なります。そのため、私たちは実践しながら考察しています。
医療技術は日々進化し、社会の人々の関心も変化していきます。こうした医療環境において、看護師はこれまで経験したことのない難しい状況に直面することも少なくありません。そのとき、知識がそのまま適用できるわけではなく、ああでもない、こうでもないと看護師自身のこれまでの知識、技術、経験と突き合わせながら考えたり、調べたり、他者に聞いたり、試行錯誤しながら、実践と考察を繰り返しています。
それを図式化したのが図1です。病室に入った看護師が、ベッドサイドのある場面をみて、状況と対話し、これまでの知識・経験に基づいて看護を行います。その中で様々な感情・思いが湧いてきます。それは自分の価値観と関連しています。
図1 看護とリフレクション
そして状況が落ち着いたあとも、‶なぜ患者さんがそんな状態になったのか″、‶行ったケアは適切だったのか″など考えることでしょう。しかし、それが反省だけで終わってしまったら、その後のケアに活かすことはできません。だからこそ、リフレクションがとても重要となってくるのです。
また、困難な状況でなくても、日ごろ何気なく行っている看護にも意味があります。後述するケースのように、自分の看護の根底にある意識、いわば看護観を深めることができるのです。
ショーンは、専門家には経験している間のリフレクション(reflection-in-action)と、経験が終わった後のリフレクション(reflection-on-action)の2つがあると説いています。看護実践では、経験している間にもリフレクションを行っているといえますが、刻々と変化する状況の中でそれを深めている時間はありません。そのため、経験後のリフレクションが看護では重要だと考えます。
実はリフレクションという言葉こそ出てきませんが、ナイチンゲールも看護実践におけるリフレクションの重要性を説いていました。
看護師と見習い生に宛てた書簡では、看護を行う私たちは、人間とは何か、人はいかに生きるかをいつも問いただし、研鑽を積んでいく必要があることを説き、「実習が終わったら、さっさと自分の部屋に帰り、今日の出来事について、静かに考えることが大切である」といった主旨の言葉を記しています。
さらに、リフレクションは一人でも行うことが可能ですが、より本質的な気づきを得るためには他人との対話が大切です。自身の経験を言語化することにより、その経験を自分から少し離して、発言や行動、気持ち、変化などを俯瞰することができます。
また、他者からの問いかけや他者が語る経験を通して、それまで気づかなかった自分の考えや患者さんの行動や気持ちなどに気づくことができるのです。これらの気づきから、新たな学びや変化につながるのがリフレクションです(図2)。
図2 看護実践とリフレクションの循環
新人看護師のリフレクションの一例
ある新人看護師が勤務後、病院のバス停の前で、入院中の患者さんを見かけました。彼女は、「おかしい」と思い、急いで病棟に連絡し、患者さんが外に出ていることを伝えました。そして、患者さんを咎めることなく、「一緒に部屋に帰りましょう」とやさしく声をかけて、病室に連れていきました。
私は、なぜそうした行動をとったのか、彼女に聞いてみました。
まずはなぜ「おかしい」と思ったのか、彼女はその患者さんの安静度を把握していたので、外出が許可できる状況ではないと判断したのです。
また彼女は、日ごろから患者さんに「家に帰りたい」という言動があったことを思い出し、きっと家に帰ろうとしたのだろうと考えました。そんな患者さんの気持ちを尊重したからこそ、「病室を出たらダメじゃないですか」と咎めることなく、やさしく戻ることを促したのです。
これは単に、病院を抜け出そうとした患者さんを病室に戻したという事象に過ぎないかもしれません。しかし経験にもとづき、‶そのときに、何を考え、どう判断したのか″という思考を振り返ってみると、そこには新人看護師なりの看護があることがわかるのです。彼女の看護観を表していると思った事例でした。
みなさんも、ぜひ、気になる出来事があったときに、一度落ち着いて、振り返って考えてみては、いかがでしょうか。あるいは、同僚の方と話してみませんか。
引用・参考文献
1) 田村由美:リフレクションとは何か―その基本的概念と看護・看護研究における意義看護研究2008; 41(3).
2)フローレンス・ナイチンゲール,著,薄井坦子訳:ナイチンゲール著作集.第3集,284-285,現代社,1977.
3)F.コルトハーヘン,編著,武田 信子,訳:教師教育学:理論と実践をつなぐリアリスティック・アプローチ.学文社、2010.
4)サラバーンズ,他編,田村由美,他監訳:看護における反省的実践――専門的プラクティショナーの成長.ゆみる出版、2005.
5)鈴木康美:リフレクションによる新人・看護管理者の支援と研修の方策.リフレクションの目的、経験との関係について-理論と実践を結ぶ架け橋.看護人材育成2017;14(2):89-93.
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