リフレクションの活用 実施編
- 公開日: 2021/3/1
ここでは、リフレクションを活用した院内研修について、準備編に引き続き、実施におけるポイントを挙げていきます。
研修冒頭:リフレクションの環境を整える
準備編でも述べたように、リフレクションでは「何を話しても大丈夫」という話しやすい雰囲気をつくることが大切です。研修冒頭では、自己紹介などで場の雰囲気をやわらげ、また参加者に注意事項などのルールを伝え、話しやすい環境を整えていきます。
自己紹介とアイスブレイク
研修の冒頭に、研修実施側も含め全員の自己紹介を必ず行います。見知った人同士であっても、自己紹介を行うと安心感が得られ、発言しやすくなります。
また、自己紹介に加え、アイスブレイクを活用すると、その場の緊張感をやわらげることができます。
<アイスブレイクの例>
Good News:最近、身近で起こった「良かったこと」を1つ話す。
好きな色・動物・食べ物など:自分が好きなものとその理由を短く説明する。
リフレクションにおけるルール
リフレクションでは、互いを受け入れる信頼関係が重要となります。参加者には、互いに傾聴し、批判せずに承認する姿勢が大切なこと、個人情報漏洩防止の観点からメモをとらないなどのルールを伝えます。
休憩時間
長時間の研修や勤務後の研修の場合、休憩時間を設けて、飲み物を用意するなど、参加者の疲れをいやし、気分転換ができるように配慮します。
リフレクティブ・ジャーナル
研修の事前課題として、リフレクションを行う経験について記述したものを参加者に用意してもらいます。事前に提示していない場合は、記述する時間をつくります(詳細はリフレクションの活用 準備編参照)。
グループでのリフレクション(グループワーク)
経験を書いたあとは、グループ内で各参加者がその経験について語り、互いに傾聴し話し合うことによりリフレクションを進めていきます。
ファシリテーターの役割
グループごとにリフレクション支援者(ファシリテーター)を配置し、参加者の振り返りを促していきます。どのように振り返っていくかについては、ギブズのリフレクティブ・サイクルやコルトハーヘンのALACTモデルが参考になります(後述)。
ファシリテーターは、コーチングの手法を活用し、参加者の気づきを傾聴、共感、承認するポジティブフィードバックを全員に行うようにします。
このポジティブフィードバックを推進する理由は、参加者が状況やそのときの感情・反応、経験を通して感じたこと、学んだことなどを安心して、話しやすい環境、雰囲気になると、自然と言語化は促進されます。その結果、その患者の行動や発言の理由について深く探求することになり、「本質的なことは何だったのだろうか」と共に考えられる場を創り、看護を探求する面白さを少しでも実感できるように心がけます。
ファシリテーターが留意したい点を以下に挙げていきます。
■フィードバックの対象
フィードバックの対象は、発言者その人ではなく、経験の中の観察された行動や行為であることを意識します。つまり、人格について述べるのではなく、行動を説明するようにします。例えば、悲観的な感情がみえたとしても、「あなたは悲観的ですね」と言うのではなく、「視線が下のほうに向きましたね」と行動そのものを指摘します。
■できている事実や行動の変化に注目する
「できない」という否定的な見方をせず、できている事実や行動の変化に注目します。そして、「よくできた」という評価的な視点ではなく、具体的な判断や行動を承認するようにします。それにより、参加者が自分ではわからなかった強みに気づくことができ、自信につながります。
「本人の強み」「できたこと」を引き出していくように取り組むことが大切です。
<ポジティブフィードバックの例>
新人看護師の経験:患者さんの呼吸がおかしいと気づいた。自分ではどうしていいかわからなかったので、他の看護師を呼んで対応した。
フィードバック:患者さんをよく観察し、呼吸の異常に気づくことができた。自分では対処できなかったが、応援を呼ぶことによって、患者さんの急変を早期に対処できた。
■感情も含めて聴く
大切なのは、事実だけではなく感情も含めて聴くことです。感情を聴くことによって、行動の根底にある自身の意思、価値観などを掘り下げていくことができます。
■問題点・弱点を指摘しない
ポジティブフィードバックにより、参加者が自分の強みに気づくと、弱点を改善しようという余裕が生まれてきます。しかし、そこで弱点を指摘すると、参加者の自尊心を傷つけかねません。
問題点や弱点は指摘するのではなく、「他にもっとよくするとしたら何ですか?」などと尋ね、本人の気づきを促すようにします。
■アドバイスは控える
フィードバックをしていく中で、ファシリテーターは、自分の経験からアドバイスや指導をしたくなるかもしれません。しかし、リフレクションでは、参加者自身が自ら考え、感じ、表現することが大切です。「答えは、その人自身が持っている」と相手を信頼する姿勢で臨みましょう。
■わからないことは質問する
参加者の発言に対して、ただ闇雲に共感するのではなく、理解できないことは質問するなどの誠実な対応が必要です。わかったふりをしたまま進めると、相手に不安な気持ちや不信感を与えかねません。
■参加者の負担を考慮する
リフレクションにより、良くも悪くもさまざまな感情が呼び起こされます。参加者の態度、表情などに注意し、精神的負担を考慮しながら進めていくことが大切です。
■時間を厳守する
タイマーなどを活用して、参加者が公平にリフレクションを行えるように時間を厳守します。また、そのことを参加者にも伝えておきます。
リフレクションの後
対話が終了した後は、全員に、リフレクションを行ってどう感じたか、他者からの意見を聞いてどう感じたかなど、感想を聞いていきます。
リフレクションを深めるために
リフレクションをもっと学びたい人のために、看護教育においてリフレクションを深めるために役立つツールを紹介します。
私自身、研究を通して、リフレクションの奥深さを実感しています。興味のある方、特にリフレクションを支援したいと思っている方は、関連書籍や文献などを調べ、深めていってほしいと思います。
ギブズのリフレクティブ・サイクル
前項で紹介したリフレクティブ・サイクルは、体験学習を深めるためのツールとして、1998年に教育学者ギブズ(Gibbs)により提唱されました(図1)。
図1 リフレクティブ・サイクル
クリス・バルマン,スー・シュッツ 編,田村由美ほか監訳:看護における反省的実践.看護の科学社,2014,p.310より引用一部改変
コルブ(Kolb)の「経験→省察→概念化→実践」の4段階の学習サイクルからなる「経験学習モデル」を活用し、出来事に対する説明と感情の両方を取り上げています。
看護のリフレクションの研究では、田村らが翻訳した「看護における反省的実践」で紹介されて以降、多く採用されています。
コルトハーヘンのALACT モデル
コルブの「経験学習 モデル」を教師教育に適用したのが、コルトハーヘンによるALACT モデルです。コルトハーヘンは、このモデルによるリフレクションを活用したリアリスティック・アプローチを提唱しています。
ALACT モデルは、学校における教師の経験学習のツールとして開発されたものですが、私は看護師のリフレクションでも効果的に活用できるのではないかと考えています。なぜなら、生徒・実習生・教員の関係、対人関係が中心となる援助、教育という専門性、生徒の多様な個性など、看護と重なる部分が多いと考えられるためです。
コルトハーヘンは、経験による学びの理想的なプロセスとは、行為と実践が代わるがわるに行われることと主張し、ALACT モデルにおいて、循環する5つの局面、「1行為、2行為の振り返り、3本質的な諸相の気づき,4行為の選択肢の拡大、5試み」をあげています(図2・表1)。
図2 ALACT モデル
フレット・コルトハーへン:教師教育学――理論と実践を結ぶリアリスティック・アプローチ,学文社,2010,p.54.より引用
表1 ALACT モデルの要素
1 行為: Action 自分自身と相手との具体的な行動・発言 |
2 行為の振り返り: Looking back on the action その行為について、どのような感情、考えをもったか。文脈に沿って、具体的に話す |
3 本質的な諸相への気づき: Awareness of essential aspects その感情や考えがなぜ出てきたのか、さらに考えることで、自分自身についても相手についても新たな気づきが生まれる |
4 行為の選択肢の拡大:Creating alternative methods of action 1から3を通してもう一度考えた時、気づきから新たな行為の選択を考える |
5 試み:Trial 新たな選択肢を実際に使ってみる |
さらにコルトハーヘンは、第2局面の「行為の振り返り」の援助として、8つの質問を紹介しており、ファシリテーターとして振り返りを促す際に活用できます(表2)。
表2 ALACT モデルにおける第2局面で有効な具体化のための質問
0.文脈はどのようなものでしたか? | |
1.あなたは何をしたかったのですか? |
5.相手は何をしたかったのですか? |
2.あなたは何をしたのですか? | 6.相手は何をしたのですか? |
3.あなたは何を考えていたのですか? |
7.相手は何を考えていたのですか? |
4.あなたはどう感じたのですか? |
8.相手はどう感じたのですか? |
気づかずに行動していることにも必ず根底に意思があります。コルトハーヘンは、行為の奥には、表面には表れない思考、感情、要望があり、それをリフレクションにより掘り下げていく「氷山モデル」を提示しています(図3)。
図3 コルトハーヘンの氷山モデル
この氷山を掘り下げていくために、1と5の質問は要望、2と6は行為、3と7は思考、4と8は感情を示しています。
この行為の振り返りがあるからこそ、第3局面の「本質的な諸相の気づき」へとつながっていくのです。
最後に
最近では、休憩などに患者さんのこと、看護のことについて話す機会が減っています。リフレクションを深めたいと思っている人は、まずは、普段の業務の中で他のスタッフと看護について話し合うことからスタートしましょう。
引用・参考文献
1)鈴木康美:リフレクションによる新人・看護管理者の支援と研修の方策.リフレクションの目的、経験との関係について-理論と実践を結ぶ架け橋.看護人材育成2017;14(2):89-93.2)鈴木康美:リフレクションによる新人・看護管理者の支援と研修の方策.新人看護職教育とリーダー研修への活用.看護人材育成2017;14(3):92-97.
3)鈴木康美:リフレクションによる新人・看護管理者の支援と研修の方策.リフレクション支援者に必要なスキル.看護人材育成2017;14(4):123-128.
4)クリス・バルマン, スー・シュッツ 編, 田村由美ほか監訳:看護における反省的実践.看護の科学社,2014,p.310.
5)フレット・コルトハーへン,著:教師教育学――理論と実践を結ぶリアリスティック・アプローチ.学文社,2010.
6)坂田哲人 ほか:リフレクション入門.学文社.2019.