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【連載】先輩ナース・看護管理者が知っておきたい知識・技術

リフレクションの活用 準備編

  • 公開日: 2021/2/18

前回、解説したリフレクションの基本知識に引き続き、院内研修でのリフレクションの活用方法を解説します。まずは、研修の実施にあたり、準備しておきたいことをあげていきます。


院内研修における活用場面

 リフレクションは、経験したことを振り返って、「どういう意味があったのか、どういうことに気がついたのか」と考え、自己の学びとします。しかし、新しい状況の中では、経験してもその状況に適応するのが精いっぱいで、なかなか自分自身で振り返る機会は少ないでしょう。


 そのため、院内の研修では、新たな経験による戸惑いや不安を学びに変えていく機会として、リフレクションの活用が考えられます。例えば、看護師としてさまざまなことに遭遇する新人看護師の研修、新たな役割へと移行するリーダー・師長などの新人看護管理研修などへの活用があります。


 さらに、シャドウイングと組み合わせて、他者の業務を経験し、その振り返りを行う研修も考えられます。例えば、私が過去に企画したリーダー研修では、他部署のリーダーのシャドウイングを行い、その経験についてリフレクションを実施しました。


【研修での活用例】

  • 新人看護師の教育(いろいろと新しいことに遭遇したとき)
  • リーダー(主任)、師長など新人看護管理者研修(新たな役割に移行したとき)

  • 実施までに必要な準備

     リフレクションを活用した研修において重要なのは、「書く(リフレクティブジャーナル)」と、その後に「他者と対話する」という場をつくることです。さらに他者との対話では、話しやすい雰囲気づくりが大切です。そのためには、研修前の準備が重要となります。


     研修を企画する側が準備しておきたいことを、以下にあげていきます。


    リフレクションの支援者

     研修でリフレクションを行う場合、リフレクションを支援する人が必要です。この支援者は、進行役、メンター、ファシリテーターなどと呼ばれます(ここでは、ファシリテーターとします)。


    リフレクションの支援者の役割

     ファシリテーターの主な役割は、以下の4つになります。


    ①リフレクションの目的の理解

     リフレクションの目的は、経験による意味づけ(センスメーキング)であることを理解し、方法や留意点について学習します。看護実践の評価や原因追及、または問題解決のためではないことを認識します(「リフレクションの基本知識」参照)。


     またファシリテーターは、看護職がリフレクションを活用して、看護実践能力を向上させ、より良い看護を実践することを目指します。加えて、研修後も参加者が自律的に看護実践の経験から学んでいくことができるように導くことも重要です。


    ②リフレクションの体験・学習

     リフレクションを自分自身も必ず学習し、実際に体験してから、ファシリテーターの役割を担うようにします。経験がないと、参加者の気持ちや価値観に気づくという認識をもつことが難しくなります。


    <参加者の気持ち>

  • リフレクションで経験を話すことの不安や恥ずかしさ
  • 質問やフィードバックを受けたときの戸惑い、混乱

  • ③ポジティブフィードバックの練習

     リフレクションでは、ファシリテーターの役割として、参加者が話しやすい雰囲気を作ることが大切になります。ファシリテーターは、参加者の発言を傾聴、共感、承認するポジティブフィードバックにより、良い点を少しでも見つけて、参加者が‶この場で話してもよい″という気持ちになってもらえるように、こころがけましょう。そのために、ぜひファシリテーター同士で、ポジティブフィードバックの練習をしてみてください(「リフレクションの活用 実施編、ファシリテーターの役割」参照)。


    ④研修目的の理解(後述)

    ⑤研修後のリフレクション

     研修終了後に、ファシリテーター同士で研修そのもののリフレクションを行うと、自身の学びにつながります。


    研修への参加意思の確認

     リフレクションは、経験にかかわる感情などを呼び起こし、精神的な負担が伴います。そのため、研修への参加は強要するのではなく、対象者の意思に任せるようにします。


    研修の目的を明確化

     研修の責任者は、研修の目的、その研修でどのようにリフレクションを活用できるのかを文章にして明確化します。


     そして、その内容、方法、留意点をファシリテーターになる協力者や研修参加者と共有しておきます。


    事前に課題を提示

     リフレクションでは、参加者自身が印象に残った経験、出来事、気になった場面などを取り上げます。研修当日の前に、どのような経験についてリフレクションをするのか課題を提示し、参加者に負担にならない程度の文章量で記述しておいてもらいます。事前に準備するのが難しい場合は、研修の最初に時間をとるようにします。


     リフレクションは問題解決が目的ではなく、‶自ら考え語ること″を目的としています。そのため、必ずしもできなかった出来事を書く必要はないことを伝えておきましょう。また、参加者に精神的な負担がかからないよう、用いる出来事は参加者の意思に委ねることを丁寧に説明します。


     研修の責任者は、研修目的に沿った課題を提示するとともに、その課題を書くことで参加者がどのような心情になるか、考えておく必要があります。


     加えて、患者さんやスタッフなどが特定できるような情報を記載しないなど、プライバシー保護に関する注意事項も伝えます。


    <研修目的と事前課題の例>
    新人看護師研修
    目的:自己の成長を実感し、自己効力感(自分はある行動を実行できるという自信)をもつ。
    課題:看護をしていることを実感した場面、成長を実感した場面、小さなやりがいを見つけた場面


    新人看護師研修・新人看護管理者研修
    目的:自己の看護観を醸成する
    課題:これまでの経験で印象に残っている場面、看護について考えさせられた場面、患者さんや家族の気持ちに気づいた場面


    新人看護管理者研修
    目的:自身の役職の役割について考える
    課題:役職についてみて、難しかったこと、よかったこと、印象に残っている場面


    参加者の準備性(レディネス)の把握

     参加者が、どのような感情をもちやすいかを予測するために、事前に、職場環境や仕事内容、仕事における成長段階など、参加者の背景を把握しておきます。


    グループの検討

     リフレクションを行うグループの人数は、1対1、もしくは3~4人くらいの少人数のほうが実施しやすくなります。グループごとにファシリテーターを配置します。


     組み合わせについては、人によって知り合い同士のほうが話しやすい場合とそうではない場合があるため、そこに重点をおかなくてもかまいません。


    研修環境の検討

     参加者が話しやすい雰囲気のもと、話し合うことができるように研修会場の環境を検討します。グループとグループの間を少し離すなどテーブルや椅子の配置に配慮し、可能であれば椅子も座りやすいものを準備します。


    全員のリフレクションを行う時間を設ける

     対話が終了した後に、全員にリフレクションの感想を聞く時間を設定します。


    リフレクション研修の流れの例

    リフレクションの課題の検討・提示
    ファシリテーターなどの役割の確認
    参加者への課題の提示
    参加者の背景の把握
    環境の整備(研修場所、グループ分け、席の配置など)
    研修の実施
    ファシリテーターなど研修企画者側のリフレクション


    引用・参考文献

    1)鈴木康美:リフレクションによる新人・看護管理者の支援と研修の方策.リフレクションの目的、経験との関係について-理論と実践を結ぶ架け橋.看護人材育成2017;14(2):89-93.
    2)鈴木康美:リフレクションによる新人・看護管理者の支援と研修の方策.新人看護職教育とリーダー研修への活用.看護人材育成2017;14(3):92-97.
    3)鈴木康美:リフレクションによる新人・看護管理者の支援と研修の方策.リフレクション支援者に必要なスキル.看護人材育成2017;14(4):123-128.


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