第3回 小児の輸液管理|目的、穿刺部位、挿入部位の固定ポイント、注意点
- 公開日: 2022/2/3
輸液の目的
①生体に水・電解質を補給してバランスを保ちます。 ②循環血液量を維持します。 ③栄養を補給します。 ④浸透圧の調節を行います。 ⑤必要な薬剤の投与を行います。小児の水分・電解質バランスの特徴
通常、成人の体液は体重の約60%を占めますが、乳児や新生児においては70~80%と体重に占める割合が大きくなります。特に細胞外液量の占める割合が高く、嘔吐や下痢などの症状に伴い容易に脱水となる特徴があります。
その他、脱水になりやすい理由として、体重当たりの不感蒸泄量や必要水分量が多いこと、胃腸炎などの疾患により水分摂取量が低下すること、腎機能が未熟であることなどが挙げられます。
生体が持続的に安定した機能を営むには電解質の量や組成が一定の値を保つことが重要です。そのため、水や電解質の平衡状態が崩れてしまった場合、輸液療法が必要となります。
小児における主な穿刺部位と血管
末梢静脈の穿刺部位は、年齢や体格によって異なります。基本的に小児は血管が細く、特に乳幼児では皮下脂肪が厚いため血管が見えづらいという特徴があります。そのため、乳幼児は血管の見えやすさや確保のしやすさから手背(尺側皮静脈、手背静脈網など)、足背(大伏在静脈、足背静脈網など)が第一選択となります(図1)。
図1 主な穿刺部位、血管手背に挿入する際は利き手や指しゃぶりをする側は避け、足背はつかまり立ちや歩行獲得前までの選択肢とします。手背や足背は関節の動きで針先がずれる危険性があるためシーネ固定を必要とすることが多いですが、学童以上に年齢が上がってくると成人同様、シーネが不要となる橈側皮静脈や前腕正中皮静脈も選択できるようになります。
輸液速度の設定、挿入部位の固定ポイント
輸液速度の設定
小児は同じ年齢だとしても体重や疾患、病態によって輸液速度は変わってきます。成人と比べ体格が小さく臓器も未熟なこともあり、厳密な輸液管理が不可欠で、輸液ポンプやシリンジポンプなどの医療機器を使用する頻度が高くなります。また、体重に応じた薬剤量となるため微量の指示量になることも多く、薬剤作成時には単位(g、mg、mL)や小数点の位置にも注意が必要となってきます。
自然滴下の場合、小児の特性として活動が活発であったり、啼泣が続いたり、家族(保護者)が患児を抱っこしたりする際に生じる落差により、輸液速度が変動することも多いため注意を要します。
挿入部位の固定
当院で採用している点滴刺入部の固定は、「粘着力が強い未滅菌テープ(ハイラテックス®)による固定」と「滅菌透明ドレッシング材(刺入部が見える)固定」の2種類です。それぞれ利点・欠点があり、患児に合わせた固定方法を選択する必要があります。
【粘着力が強い未滅菌テープ(ハイラテックス®)による固定】(図2)
●利点:粘着力が強いため剥がれにくく、体動が激しい患児や発汗が多い患児、軟膏塗布している患児に適しています。 ●欠点:刺入部の確認ができずに輸液の血管外漏出の発見が遅れたり、粘着性が強くテープによる皮膚障害を生じることがあります。 図2 粘着力が強い未滅菌テープによる固定【滅菌透明ドレッシング材(刺入部が見える)による固定】(図3)
●利点:刺入部が見えるため、刺入部の観察が容易で血管外漏出を発見しやすいです。 ●欠点:新陳代謝が活発な小児では発汗が多く、ドレッシング材が剥がれやすくなるほか、貼付しづらい場所に穿刺した場合は使用できないこともあります。 図3 滅菌透明ドレッシング材による固定シーネ固定
以下は、当院でのシーネ固定の手順と注意事項になります。
【目的】
●関節の動きによって、刺入部やカテーテルの先端がずれる可能性がある場合にシーネ固定を行います。 ●安全な治療の遂行や事故(自己)抜去予防のために、点滴部位の固定を保持します。【必要物品】(図4)
シーネ、ガーゼ、固定用テープ(ハイラテックス®やマイクロポア®)、ストッキネットまたはプレスネット(必要時) 図4 シーネ固定時の必要物品【手順】
輸液時の注意点
輸液療法に伴う合併症は、軽度のものから生命にかかわるものまで広範囲にわたります。小児は認知発達状況から危険予知が困難であり、輸液管理を安全に行うためには、点滴漏れや副作用、ラインの事故(自己)抜去などについて、医療者の細やかな観察・対応により回避していく必要があります。
全身状態の管理
輸液管理を行う場合、過剰な輸液は腎機能や心機能、呼吸状態の悪化に繋がり、過少な輸液は脱水などの改善を遅らせてしまう可能性があります。輸液が指示量入っているか、輸液速度は合っているか観察し、排尿状況やIN-OUTチェック、バイタルサインの測定、脱水症状である皮膚乾燥がないか、ツルゴール反応や浮腫の増強がないかなど、全身状態の観察が必要になってきます。
また、薬剤を投与する場合、薬の副作用がないか、アレルギー症状の出現はないか注意して観察します。初めて投与する薬剤の場合は、アナフィラキシー症状がないか5分程度は患児の近くで観察する必要があります。
輸液の血管外漏出
小児は、輸液ポンプやシリンジポンプなどの精密機械を使用する場面が多くあります。輸液ポンプ類は微量な流量調整ができる反面、痛みや血管外漏出があっても指示量が強制的に注入されたり、針が血管から外れても警報が鳴らないといった側面があります。
乳幼児や小児は的確な表現で痛みや不快を伝えられず、鎮静下では泣くという表現もできません。さらに、体動が多く血管も細く漏れやすいため、点滴の漏れにいち早く気付くことが求められます。皮下脂肪も多く腫脹に気付きにくい場合もあることから、刺入部を手で触れ、自分の目で確認する習慣を付けることが大切です。
点滴固定によるリスク
シーネ固定の項目でも述べたように、シーネ固定や輸液による行動制限は小児の成長発達に影響を及ぼし、精神的なストレスにもなります。一律にシーネを使用するのではなく、挿入部位や患児の行動様式、発達段階も考慮した上で、個々に合わせた固定方法を実施していく必要があります。
また、不適切なシーネ固定によって褥瘡が発生したり、固定がきつすぎることで循環・神経障害が出現したりすることもあるため、定期的にシーネを外し、保清とともに皮膚状態を観察します。
固定時に使用するテープ類においても、小児は新陳代謝が活発であることや皮膚の脆弱性があるため、湿潤やテープかぶれ、テープを剥がす際の表皮剥離などのトラブルが生じることがあります。患児に合わせたテープの選択や、テープを剥がす際には剥離剤を使用するなどの対応が必要になります。
輸液ライン、輸液ポンプの管理
小児は年齢により輸液の必要性を理解することが難しく、輸液を不快なものと認識し、しばしば点滴ルートを自己抜去してしまうことがあります。逆に、輸液ルートを気にすることなく行動し、ルートが身体に巻き付いていたり、輸液ルートを引っ張って遊んだりといった行動もみられます。こまめに訪室し観察することも大切ですが、子どもの発達状況や行動パターン、性格などを把握し、個々の患児にあった予防策をとることが求められます。
輸液ポンプ使用時は、看護師の操作を真似て輸液ポンプのボタンを押したりすることもあり、必要時にはキーロック機能を使用したり手の届かない位置に輸液ポンプを置くなどの環境調整も必要です。点滴台を押して移動する場合は、輸液ポンプごと転倒する場合もあるため、輸液ポンプを下のほうに装着し、重心を下げるようにします。