令和3年度 がん対策推進企業アクション 統括セミナー
- 公開日: 2022/4/3
2022年3月4日(金)、「令和3年度 がん対策推進企業アクション 統括セミナー」が開催されました。今回は、厚生労働省健康局 がん・疾病対策課課長 中谷裕貴子さん、東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座特任教授 がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長 中川恵一先生の講演をレポートします。
「我が国におけるがん対策」
講演:厚生労働省健康局 がん・疾病対策課課長 中谷裕貴子さん
3人に1人ががんで死亡
我が国における粗死亡率の推移によると、がんは1981年以降、現在に至るまで死因の第1位となっています。2019年には年間死亡者数が約38万人に至り、3人に1人ががんで亡くなっています1)。
がん対策が進んだのは、2006年に成立した「がん対策基本法」がきっかけです。この法律は、がん対策を総合的かつ計画的に推進するもので、国や自治体といった関係機関が連携を取りながら、がん対策を進めるフレームワークができたことが大きいといえます。
他国に比べ低い受診率
がん検診には、「対策型検診」と「任意型検診」の2種類があります。対策型検診は、対象集団全体の死亡率を下げることを目的に行われる公共的なサービスで、公的資金を活用できます。一方、任意型検診は個人の死亡リスクを下げるためのものであり、医療機関や検診機関などが任意で提供するサービスを指します。こちらは全額自己負担です。
がん検診の受診率は年々増加していますが、他の先進国に比べると依然として低い傾向にあり、目標値である50%に届かないがん種があるのも事実です。受診しない理由としては、「受診する時間がない」「経済的に負担になる」などが挙がっており、働く世代が受診しやすい環境を整える必要があると感じています。
また、新型コロナウイルス感染症の影響も少なからずあるため、自分の健康を守るための受診は不要不急の外出には当たらないといった啓発も行っています。
検診を受けやすくするためには、職域での対策も重要です。第3期がん対策推進基本計画では職域対策のマニュアルを作成しており、保険制度を活用しながら職域のがん対策を進めていきたいと考えています。
治療と仕事の両立を支援
がん患者さんの3人に1人は20~60代で、治療と仕事との両立を考えなければなりません。治療と仕事の両立を支えるのは、相談員や両立支援コーディネーターといったキーパーソンの存在です。
患者さん、職場、医療機関が連携するとともに、両立支援コーディネーターを適切に配置し、仕事が継続できるよう環境を整える必要があります。このような就労支援は診療報酬(療養・就労両立支援指導料)の点数もつきます。2022年は診療報酬の改訂があり、4月から新しい要件が適用となります。
進化する企業アクションとコロナで減る“がん患者”
講演:東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座特任教授/がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長 中川恵一先生
新型コロナウイルス感染症とがん患者の減少
人口の高齢化に伴い、今後もがん患者さんは増加すると考えられますが、現時点においては減少を認めています。これは、新型コロナウイルス感染症の影響で、がん検診の受診率が低下していることによるもので、体内でがんが成長している過程であっても、検診を受けていないことでがんが発見されず、見かけ上、患者数が減っている現象が起きています。
職域におけるがん対策を国が重要視
日本人男性の65%、女性では50.2%が、生涯において何らかのがんに罹患するとされています2)。ある調査によると、がんは会社員の死因の半数近くを占め、在職中の社員が病死した場合、その原因のほとんどをがんが占めるとされています。つまり、働く世代にとってがんは非常に大きな壁であり、健康経営の課題としてがん対策が重要になってきます。
がん細胞は、約20年かけて診断可能な1センチに成長します。がんは進行期や末期にならないと症状を示さないため、早期がんである1~2cmの間に見つけるためには、自覚症状がなくても1~2年に1回のペースでがん検診を受ける必要があります。
がんは老化によって起こる疾患ですが、女性ではヒトパピローマウイルス(HPV)や女性ホルモンといった老化以外の因子も関与しています。定年延長や女性の社会進出により、国も職域におけるがん対策を重要視しています。
「がん対策推進企業アクション」の取り組み
国家プロジェクトである「がん対策推進企業アクション」では、約3500社の推進パートナー企業・団体、約790万人の推進パートナー従業員の賛同のもと、がん検診受診率の向上を目指したさまざまな活動を行っています。2021年度の主な取り組みは次のとおりです。
企業コンソーシアム研修会での情報共有・発信
「自社と他社の従業員をがんから守る」を理念に掲げ、推進パートナー企業・団体である約3500社のうち、中心となる40社(コンソ40)がほかの企業を牽引し、課題解決につなげる取り組みを実施しています。2021年度は、医師などを講師に迎えた企業コンソーシアム研修会を年3回開催し、取り組み事例の紹介や企業アクション・コンテンツ(eラーニング、YouTubeなど)の共有を行いました。
中小企業への啓発活動
大企業と比べると、中小企業に向けたがん検診受診対策はまだ手薄といえます。中小企業の実態を把握するため、2021年と2022年の2回にわたり、大同生命と共同調査を行いました。そうしたところ、調査対象の約半数は従業員数が5人以下の企業ですが、1/4以上の企業でがん患者さんが就業しており、そのうち退職してしまう社員が3割以上に及んでいることがわかりました3)、4)。
また、経営者のがん対策への関心度と、従業員へのがん検診の実施状況は比例しており、「まったく関心がない」とした経営者の企業では、がん検診の実施率も低くなっています。これは治療と仕事の両立支援にも同様のことが起こっており、傷病休業・病気休暇制度の利用、時短勤務などの活用も経営者の関心と大きく相関しています。
そのため、中小企業の経営者向けにセミナーを開催したり、チラシを配布したりするなどして、啓発活動に取り組みました。新型コロナウイルス感染症の影響によって、がん検診の受診を延期または控えた企業もみられることから、経営者の関心を高められるよう、中小企業への啓発により力を入れる必要があると考えています。
上記以外にも、「Working RIBBON」として、乳がんと子宮頸がん検診の受診を促す啓発活動を開始したり、がんに関する正しい知識と最新情報を伝えるため、「大人のがん教育」というYouTube講座の制作やeラーニングの拡大に取り組みました。
啓発活動で受診控えを克服
がんは早期の段階で発見すれば、完治が期待できます。ステージ0の6割は検診で発見されており、新型コロナウイルス感染症による受診控えで、見かけのがん患者数が減少しているリスクの大きさを考えなければなりません。
「がん対策推進企業アクション」の取り組みを通して、がん検診の受診啓発に努め、新型コロナウイルス感染症による受診控えを克服していきたいと考えてます。