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アトピー性皮膚炎の正しい理解とこれからの治療

  • 公開日: 2022/9/30

2022年6月13日にオンラインにおいて、大塚製薬株式会社によるプレスセミナーが開催されました。テーマは「アトピー性皮膚炎の正しい理解とこれからの治療」です。あたご皮フ科副院長の江藤隆史先生と、広島大学大学院医系科学研究科皮膚科学の田中暁生准教授による講演が行われました。この講演についてレポートします。

これだけは知っておいてほしい! アトピー性皮膚炎に関する正しい知識

あたご皮フ科副院長/東京逓信病院皮膚科客員部長 江頭 隆史先生

6つの「知っておいてほしい知識」

①アトピー性皮膚炎の診断と臨床
 アトピー性皮膚炎の診断基準としては、まず「かゆい」ということであり、かゆくないアトピー性皮膚炎はないとも言えます。そして左右対称に湿疹が出てくる急性、慢性の病変であることです。かなり広範囲の湿疹があれば、アトピー性皮膚炎と診断してもいいのではないかという見解もあります。そして子どものころに治ったと思っても、成人になって出てくるなど、反復性があるのも特徴です。

 アトピー性皮膚炎治療の歴史は図1に示す通りです。1950年代から約50年間は、まだ標準治療が普及しておらず、その弊害として特に眼合併症である白内障や網膜剥離などがありました。顔面には強いステロイドが塗れず、掻き壊すことで目の周りにも症状が現われ、眼にも影響を与えます。

図1 アトピー性皮膚炎治療の歴史

②脱ステロイドの恐ろしさ!
 1992年、メディアによるステロイドバッシングが起こり、眼合併症も増えてきました。そこで2000年に最初に出された「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」の冒頭には、「治療の大切な柱であるステロイド外用剤に対して、患者さらには社会一般に根拠に乏しい不信感が生じ、ステロイド外用剤拒否の風潮が強まり、十分な治療が施せない」という文言が掲載されました。

 また脱ステロイドブームによって、患者さん自身も「ステロイドが怖い」という意識を持ちました。できるだけ少なく、薄くすりこんで塗っていたため、ステロイドが効かない、塗ってもどんどん悪くなると悩んでいる患者さんが多くいました。むしろステロイドは過剰に塗るぐらいで効果を認める薬剤です。

③ステロイドの副作用の誤解(黒くならない、厚ぼったくならない)
 当時、ステロイドの副作用として、「皮膚が厚ぼったくなり、黒くなる」と言われていましたが、これは全くの誤解です。むしろステロイドを塗ることで皮膚は薄くなり、白くなります。

 中途半端なステロイドの用い方により、皮膚炎が抑えられず、皮膚の破壊が進み、苔癬化を起こし、そして軽快後の不十分なスキンケアが皮膚を黒く厚くしてしまうのです。

④外用指導が不十分(FTUの遵守を!)
 では、どのくらいステロイドを塗ればいいのでしょうか。FTU(Finger-tip unit)という単位があります。例えば、軟膏だと成人の人差し指の指腹側の末節部に乗せた量、ローションでは1円玉大が1FTUとなります。1FTUのステロイド軟膏を顔全体に塗ります。実際に塗ってみるとベタベタになります。

 このFTUによる外用薬の指導がとても重要です。この指導がしっかりできるかどうかが、結局はステロイドが効くか効かないかのキーになります。しかもFTU指導は医師から、看護師から、薬剤師からと何度も繰り返し指導し、患者さんがしっかり塗れているかを確認することが重要です。

 実際の塗布量は、全身では1回20gです。しかし、毎回計るのは大変ですから、多めに塗ることを意識してもらえるとよいでしょう。例えば、実際に塗ったときのべたつきが、「ティッシュペーパーをあてて、それが落ちないぐらいのべとつきで常に塗りましょう」と説明する方法があります。

⑤スキンケアの重要性
 出生直後からスキンケアをすると、アトピー性皮膚炎を発症するリスクが低下するという調査報告があります。そのためアトピー性皮膚炎の患者さんも、もっと早くからステロイド、もしくは新しい薬でしっかりと湿疹や皮膚炎をコントロールすれば、アトピー性皮膚炎の発症をほとんどゼロにすることができるのではないでしょうか。

 また、アトピー性皮膚炎の保護者への調査で、「湿疹がなくなると、保湿剤を使わなくなる理由」として、「医師の指示が特にないから」というのが挙げられています。30年前の調査ですが、これが医療側の弱点だったことがわかり、「ゼロ歳からしっかり保湿を指導しよう」ということになりました。つまり、保湿外用はアトピー性皮膚炎の重要な予防法であると言えます。

⑥新しい治療薬の活用
 アトピー性皮膚炎治療の3本柱は「原因・悪化因子の検索と対策」、「スキンケア」、そして「薬物治療」です。本当に治らない患者さんに対しては薬物を使った治療をしっかり行うことが大切です。注射薬、内服薬、外用薬などの新しい治療がいろいろ出てきており、これらをいかに組み合わせて治療するかが重要です。

アトピー性皮膚炎診療の進歩と新しい治療

広島大学大学院医系科学研究科皮膚科学准教授 田中 暁生先生

アトピー性皮膚炎患者に対する治療実態

 広島大学の新入生検診による調査では、アトピー性皮膚炎は約10%前後いるとされています1)。これはかなり高い有症率であり、アトピー性皮膚炎が代表的な皮膚疾患であることがわかります。また、2002年から2019年の間で重症度別の割合をみていくと、軽症の患者さんが少し減り、中等症の患者さんが少しずつ増えています。

 新しい治療が出てきても、病院に来なければ治療のチャンスはありません。しかし、アトピー性皮膚炎の学生に治療の場を尋ねたところ、医療機関にかかっている学生が約30%、自宅で治療している学生が約30%です。さらに「通院している学生」と「自宅で治療している学生」のアトピー性皮膚炎における重症度の違いをみると、前者は軽症と中等症を合わせて40%前後、重症は20%となっています。後者は軽症が60%と多いですが、中等症が40%近く、年によっては半数近くいます。中等症以上でも医療機関を受診していない学生が多くいるということがわかりました。

 また、別の調査である「20歳以上のアトピー性皮膚炎患者1493名を対象としたWEB調査(2014年)2)」で重症度別の通院状況をみると、驚くべきは中等症と重症の患者さんでも医療機関に通っている人は半数であり、広島大学の調査と同じ結果になっています。

 2017年に実施した「10歳以上のアトピー性皮膚炎患者1,059名を対象としたWeb調査(2017年)2)」では、保険医療機関を受診しない理由についても尋ねています。それによると、病院に行くとステロイドを出されるので行きたくないと思われる「ステロイド忌避」が30%近くいます。その他に「治療に希望がもてない」という理由も認めます。こういった人が希望をもって前向きに治療を受けてもらい、症状ができるだけない状態を目指すことが大切です。

アトピー性皮膚炎の治療~寛解導入療法~

 もっとも新しいガイドラインは「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」であり、皮膚科医、小児科医はその治療アルゴリズムにそって診断、治療をしています。

 まず①確実な診断と重症度評価を行い、②疾患と治療の目標(ゴール)を説明し、③薬物療法やスキンケアに関する具体的な説明、適正治療のための患者教育をします。治療に入る前に、②と③をしっかり行うことが大切です。その後④外用薬を使って寛解導入療法を行います。多くの患者さんは外用薬で炎症や痒みが軽減できますが、それで「よかったね」ではなく、その状態を維持する⑤「寛解の維持」をしながら、⑥治療の目標(ゴール)として、スキンケアの継続により快適な状態を維持することを目指します。これは年齢や重症度に関係なく、実施されるものです。

多岐にわたる治療の選択肢

 かつて、アトピー性皮膚炎治療の中心となる抗炎症外用薬はステロイド外用薬だけでした。それが、1999年にタクロリムス軟膏が、その後デルゴシチニブ軟膏が、そして今回ジファミラスト軟膏が新薬として登場しました。

 このように、外用薬にもさまざまな選択肢があります。外用薬ではうまくいかない症例に対しては内服薬や注射薬もあり、治療の選択肢も増えています。重症の患者さんに対しても、「ステロイドを塗りなさい」以外の治療の選択肢が出てきているのが現状です。

 アトピー性皮膚炎は、「寛解導入」と「寛解維持」を意識した外用治療によって症状は劇的に改善し、長期予後も改善することが期待できます。また、新しい抗炎症外用薬のジファミラスト軟膏は皮膚炎と痒みの両方に効果があり、副作用も少ないといわれています。皮疹の改善のみならず、寛解維持のための外用薬として期待されます。

引用文献

1)Akio Tanaka,et al:Prevalence of skin diseases and prognosis of atopic dermatitis in primary school children in populated areas of Japan from 2010 to 2019: The Asa Study in Hiroshima, Japan.J Dermatol 2022.doi: 10.1111/1346-8138.16577.
2)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業(免疫・アレルギー疾患等予防・治療研究事業 免疫アレルギー研究分野)アトピー性皮膚炎調査グループ 分担研究報告書


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