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【連載】最新情報がわかる! 学会・セミナーレポート

がん個別化治療の展望と、小児がんを取り巻くがん治療環境について

  • 公開日: 2021/11/19

2021年10月19日(火)に、「がん個別化治療の展望と、小児がんを取り巻くがん治療環境について」と題したプレスセミナーが行われました。がんの個別化治療や小児がん治療の現状などについて、国立がんセンター東病院 消化器内科 科長 吉野孝之先生と、神奈川県立こども医療センター病院長/小児がんセンター血液・腫瘍科部長 後藤裕明先生による講演をレポートします。


講演1:「がん治療における個別化医療の課題と今後の展望」

国立がんセンター東病院 消化器内科 科長 吉野 孝之先生

 現在のがんゲノム医療は、腫瘍の原発野や組織像に関係なく、アクショナブルなドライバー遺伝子変異を特定し、標的とした治療を行っています。

 この遺伝子変異に基づく個別化治療の臨床的有用性については、より高い奏効率、増悪生存期間及び全生存期間の延長が示されています。非個別化医療と比較しても治療関連死亡率を下げるとされており、インパクト試験の長期フォローアップ結果でも治療効果の延長を認めました。このように、個別化治療を行うことにより、治療効果や患者さんの生存率が高まることが明らかになってきました。

 今回承認されたラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ®)は、NTRK融合遺伝子を有する固形がんに特化した治療薬です。より早い段階で検査を行い、できるだけ早く患者さんの手元に本薬剤が届くことを期待しています。

講演2:「小児がん治療の現状と課題」

神奈川県立こども医療センター病院長/小児がんセンター血液・腫瘍科部長 後藤 裕明先生

治癒が望める小児がん

 小児がんは、特定の定義というものはありません。社会的に「小児期に発生するがん」を指す場合や、学術的に「ある種のがんが小児期に発生することが多いもの」とする場合があります。小児がんの約半数は血液のがんで、次いで脳腫瘍などの固形がん、その他としていわゆる肉腫が多く、成人にみられる大腸がんや乳がんは極めてまれです。

 小児がんは希少疾患であり、日本における新規診断数は年間約2,000件、小児人口10万人あたりおよそ10人(1万人に1人)が発症しています。疾患の種類が多岐にわたるため、それぞれの患者数も非常に少なくなります。

 成人と同様に、小児がんは命にかかわる重大な疾患です。一方で、小児がんは全てが死に至るわけではなく、むしろ治癒可能な疾患と考えられています。

 日本とイギリスにおいて、小児がんと診断された患者さんの5年生存率を疾患ごとに表したデータによると、脳腫瘍の5年生存率は60%弱、それ以外の腫瘍の5年生存率はおおむね70%を超えており、最も代表的な小児がんである急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)に至っては、90%に近い確率で生存できることが示されています1)

強力な治療による副作用と晩期合併症

 小児がんは造血器腫瘍(白血病)や遠隔転移を伴う固形がんが多く、主な治療法は化学療法です。小児の急性骨髄性白血病では1クール7~10日の抗がん剤治療が行われますが、成人に比べて体重あたりの投与量が多く、根治を目指した強力な治療となります。副作用による胃腸障害が高い確率で起こるほか、正常な骨髄の機能が阻害されることから、感染症の合併も必発します。

 晩期合併症や長期副作用と向き合っていかなければならないケースもあります。例えば、骨髄移植に加えて放射線全身照射を使用した場合、低身長・低体重となってしまいます。治療自体がそこまで厳しいものではなかったとしても、情報の処理速度や言語記憶といった神経認知機能低下という見えない障害が残る可能性もあります。

 また、小児がんの多くは1~2年と長期にわたる入院が必要になるため、学校に通えない期間が生じます。患者さんの治療や生活を支える両親や兄弟など家族の負担に目を向けることも大切です。

ゲームチェンジャーの開発による小児がん治療の進歩

 1993~1996年あるいは2005~2008年の間に小児がんと診断された患者さんの5年生存率を比較したところ、2000年を境に多くの小児がんにおいて治療成績の向上が図られてきました1)。その中で、ひときわ目を引く疾患が慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)です。CMLの治療成績は、この10年の間で40%近く向上しています1)

 治療成績が向上した理由の1つに、イマチニブの登場が挙げられます。イマチニブは、CMLと一部のALLが有する遺伝子異常(BCR-ABL1変異)を標的とした分子標的治療薬です。BCR-ABL1変異を有する小児のALLは治癒しづらいという問題点がありましたが、イマチニブの登場により、5年生存率が30%から87%に向上しました2)。このような治療成績を上昇させる薬剤は、「ゲームチェンジャー」と呼ばれています。

 今回承認されたラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ®)は、NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんに対するゲームチェンジャーとして期待されている薬剤です。

 がん細胞は多くの遺伝子異常を持っていますが、NTRK融合遺伝子は成人・小児がんの一部に認められる遺伝子異常で、がん細胞の増殖に中心的な役割を果たします。ラロトレクチニブはカプセル剤のほかに液剤があるため、カプセル剤の内服が難しい小児や脳腫瘍で嚥下機能障害がある患者さんに使うことができるところも大きな意味があります。

新しい薬剤への期待

 小児がんに対する治療は、決して今あるものが完成形とはいえません。新たな薬剤の開発とその薬剤によって小児がんの治療がよりよいものとなることを望んでいます。例えば、治らない疾患への新たな選択肢となる高い奏効率、より少ない急性期毒性や在宅でも可能な治療といった治療負担の軽減です。

 もう1つ、忘れてはならないのが晩期障害の軽減です。治癒後に長い人生が待っている小児では、10年後20年後も薬剤による悪影響が出ないというのも大切にしたいポイントであると考えてます。

引用文献

1)Nakata K, et al:Childhood cancer incidence and survival in Japan and England: A population based study (1993 2010). Cancer Sci 2018;109(2):422-34.
2)Rives S, et al:Longer follow up confirms major improvement in outcome in children and adolescents with Philadelphia chromosome acutelymphoblastic leukaemia treated with continuous imatinib and haematopoietic stem cell transplantation. Results from the Spanish Cooperative Study SHOP/ALL 2005. Br J Haematol 2013;162(3):419-21.

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