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早期乳がん治療におけるリムパーザの役割とは~アストラゼネカの乳がん治療に対する持続的なイノベーション~

  • 公開日: 2022/10/5

2022年9月5日、「早期乳がん治療におけるリムパーザの役割とは~アストラゼネカの乳がん治療に対する持続的なイノベーション~」と題した、アストラゼネカ主催のメディアセミナーが行われました。ここでは、愛知県がんセンター 乳腺科 岩田広治先生の講演をレポートします。


リムパーザの適応拡大

 2018年7月、PARP阻害剤であるリムパーザ(一般名:オラパリブ)は、進行再発乳がんへの使用が承認されました。このとき対象となったのは、「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつ HER2陰性の手術不能又は再発乳がん」でしたが、2022年8月24日、新しいエビデンスをもとに、「BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術後薬物療法」としての適応が追加されました。

 リムパーザは乳がん以外にも、再発卵巣がん、去勢抵抗性前立腺がん、切除不能な膵がんなどにおいて保険適用が認められており、がん治療に広く用いられています。

リムパーザの作用機序

 DNAは、紫外線や化学物質などの外的要因、自然発生的なエラーや細胞内代謝中に産生される毒素などの内的要因により、1細胞あたり5~50万回/日の損傷が起こるとされています。DNA損傷が起こった場合、一本鎖切断ではPARPが、二本鎖切断ではBRCAが機能してDNAが修復されるため、細胞は正常に生存を続けることができます。

 一方で、BRCA遺伝子変異を有する乳がん細胞では、BRCAの機能は失われており、二本鎖切断の修復はできません。ただし、もう一つの機能であるPARPが働けば、がん細胞は修復され、生き残ることが可能になります。この状態においてPARP阻害剤であるリムパーザを使用すると、PARPの働きが妨げられることからDNA修復は不可能となり、がん細胞を死に追いやることができます。

 なお、正常細胞ではBRCAが機能するため、リムパーザでPARPを阻害したとしても、細胞が死に至ることはありません。

*損傷したDNAの修復にかかわる酵素

リムパーザの有効性

 OlympiA試験は、生殖細胞系列 BRCA1/2遺伝子変異陽性、HER2陰性の早期乳がん患者さん1836名(日本人患者さん140名を含む)を対象とし、リムパーザ投与群:プラセボ群=1:1に割り付けて実施された試験です。

 主要評価項目は、無浸潤疾患生存期間(invasive disease-free survival:IDFS)で、副次評価項目は、全生存期間(overall survival:OS)、QOL、遠隔無再発生存期間(distant disease-free survival:DDFS)などです。

 主要評価項目であるIDFSの平均観察期間は、リムパーザ投与群が2.3年、プラセボ群は2.5年でした。36カ月後の絶対値を見るとリムパーザ投与群で85.9%、プラセボ群で77.1%となっており、リムパーザ投与群でがんの再発が少ないといえます。サブグループ解析でも、化学療法の実施時期やホルモンレセプター(HR)発現状況、BRCA遺伝子変異状況など、さまざまな解析対象においてリムパーザの有用性が示されています。

 さらにリムパーザ投与群では、遠隔再発の発生も明らかに少なくなっているほか、最も重要であるOSに関しても、リムパーザの使用により有意に延長することがわかりました。乳がんの周術期における薬物療法で、生存期間の延長まで認める結果が出ている試験は珍しく、実はそこまで多くありません。やはり今回、BRCA遺伝子異常がある患者さんに対して、非常に効果的なリムパーザを使用したことが、患者さんの生存期間の延長につながったと考えられます。

 遠隔再発を抑えられるかは、乳がん患者さんの命にかかわる大切な事象であり、DDFSやOSの延伸というポジティブな結果は、乳がん患者さんにとって画期的なことといえます。

リムパーザの有害事象

 リムパーザの特徴的な有害事象に貧血があります。プラセボ群の3.9%に対し、リムパーザ投与群では23.6%で、そのうちグレード3以上のものも8.7%発生しています。ほかに、嘔気・嘔吐も多い傾向にあり、いずれも十分注意してみていく必要があると考えます。

乳がんにおける周術期の治療選択と遺伝子検査

 術後の乳がん治療には、化学療法、内分泌療法、抗HER2療法といった選択肢がありましたが、OlympiA試験の結果を受けて、リムパーザの使用が選択肢に加わりました。ただし、リムパーザの投与にあたっては、がん組織の発現状況を確認するのとあわせて、BRCA遺伝子検査を行い、血液中のBRCA遺伝子変異の有無を必ず調べなければなりません。

 また、BRCA遺伝子検査ですが、遺伝子変異の有無を調べる以外に、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)の確定診断を行う際にも実施されます。

 HBOCの確定診断が得られると、リスク低減を目的とした乳房切除術や卵巣・卵管切除術が保険適用となります。しかしながら、HBOC診断の適格患者さんに、BRCA遺伝子検査を実施している病院はまだまだ少ないのが現状です。

 再発高リスクだからと術後に慌てて検査をしなければならなかったり、リスク低減手術の同時実施の機会を逃したりというケースを減らしていくためにも、確定診断時に検査の機会を設けることを主軸に、乳がん診療を組み立てていかなければならないと考えています。

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