COVID-19に対する長時間作用型抗体の併用療法「エバシェルド」の特性と期待される役割
- 公開日: 2022/11/16
2022年9月26日、東京・日本橋ホールの会場とオンラインによるハイブリッドで、アストラゼネカ株式会社によるメディア勉強会が開催されました。テーマは「COVID-19に対する長時間作用型抗体の併用療法「エバシェルド」の特性と期待される役割」で、アストラゼネカ社のワクチン・免疫療法事業本部長の松尾恭司氏と、東邦大学医学部微生物・感染症講座の舘田一博教授による講演が行われました。この講演についてレポートします。
エバシェルドが果たす役割
アストラゼネカ株式会社執行役員 ワクチン・免疫療法事業本部長 松尾恭司氏
アストラゼネカは600万人の命を救ったと言われる「バキスゼブリア」を30億回分、全世界へ供給してきました。2022年9月には、こうしたワクチン開発で培ったノウハウをもとに「ワクチン・免疫療法事業本部」を日本で新設。感染症に対する公衆衛生の向上を目指しています。
2022年8月30日、SARS-CoV-2による感染症の発症抑制及び治療を適応とした「エバシェルド®筋注セット」の日本における製造販売承認を取得しました。「発症抑制」として承認されたのはエバシェルドが国内初、「治療」での承認は世界初です。
この薬剤は免疫不全患者さんに大きなニーズがあります。日本では、約16万人の患者さんがCOVID-19ワクチン接種で免疫応答を十分に得られない可能性があります(表1)。具体的には、血液悪性腫瘍の治療中や造血細胞移植後の患者さんが免疫応答を得られにくいと考えられています。
2020年からコロナ禍が始まり、感染対策として手洗い、マスク、ワクチン接種などが浸透しています。免疫応答が期待される方はコロナありきの生活をしており、世界は社会経済活動を進めていくステージに移行しています。
一方、もともと免疫応答が期待しづらい疾患を抱えている方にとっては、通常の生活も送りづらい中でさらにコロナ禍を乗り越えなければなりません。その方たちの医療ニーズはとても大きいといえます。
その一つの選択肢がエバシェルドの発症抑制目的での投与です。免疫応答が期待できない方たちに貢献できるのではないかと考えております。幸い日本では政府購入によりすでにエバシェルドの投与が開始されています。
●抗体産生不全あるいは複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者 |
●B細胞枯渇療法(リツキシマブ等)を受けてから1年以内の患者 |
●ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者 |
●キメラ抗原受容体T細胞レシピエント |
●慢性移植片対宿主病を患っている、又は別の適応症のために免疫抑制薬を服用している造血細胞移植後のレシピエント |
●積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者 |
●肺移植レシピエント |
●固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから1年以内の患者 |
●急性拒絶反応でT細胞又はB細胞枯渇剤による治療を最近受けた固形臓器移植レシピエント |
●CD4Tリンパ球細胞数が50 cells/μL未満の未治療のHIV患者 |
SARS-CoV-2感染管理における残された課題と新たなアプローチ~COVID-19治療/免疫不全患者における感染予防~
東邦大学医学部 微生物・感染症学講座教授 舘田一博先生
現在、新型コロナウイルス感染症の第7波は減少傾向にあります。感染者数をどこまで下げきれるのか、あるいは年末から年始にかけて起こると予想される第8波がどうなるか、その動向を注視しなければなりません。
今回、既存の治療に加えもう1つの治療・予防手段を得ることができました。それが「エバシェルド」です。ワクチンを打てない、打っても抗体価が上がらない方たちをどう守るのか。エバシェルドをどのように活用していくのかということが重要視されています。
これまで、日本では2000万人もの感染者が発生し、そのうち4万人以上が亡くなっています。おそらく第8波が来れば死亡者数は1万人規模と、好ましくない状況が推定されています。
例えば第4波の死亡率は1.74であるのに対し、第5、6、7波の死亡率は確実に下がっています(表2)。死亡率低下の原因として考えられるのは、ワクチンや治療薬の登場したからであり、エバシェルドはそのうちの1つということになってきます。
観察期間 |
感染者数 |
死亡者数 |
死亡率(%) |
第4波 2021年4月~6月 |
約32万人 |
5,590人 | 1.74 |
第5波 2021年7月~10月 |
約92万人 |
3,460人 |
0.38 |
第6波 2022年1月6月 |
約760万人 |
12,888人 |
0.17 |
第7波 2022年7月~9月6日 |
約1021人 |
10,039人 |
0.10 |
コロナウイルスに対しては、この2年半でさまざまな治療薬が使用可能となりました。具体的には、スパイク蛋白に結合して感染を抑える「カシリビマブ」や「イムデビマブ」などの抗体薬、「モルヌピラビル」や「ニルマトレルビル」などの抗ウイルス薬です。エバシェルドは今流行している「BA.5」についても、効果の高い抗体薬として利用できます。
コロナの重症度は軽症、中等症Ⅰ、中等症Ⅱ、そして重症の4つに分類され、抗ウイルス薬は軽症の段階から投与が可能です。さらに発症予防を目的とした位置づけにある薬剤がエバシェルドとなります。
ワクチンを打てない人がいる。打っても抗体がつかない人がいる。そういうまさに弱い人たちをどう守るのか、そういう視点で使用できるようになったのがエバシェルドで、いろいろな免疫不全の人や、抗体がつきにくい人に対して、エバシェルドをどう使うのかを考えていかなくてはいけません。
エバシェルドは主に3つの特徴があります。1つ目は、2種類のモノクローナル抗体の併用療法であること、2つ目は半減期が長くなるように工夫していること、3つ目は副反応が出にくいようにできていることです。
エバシェルドは誰にでも使える薬剤ではありません。まずは感染予防として基本的な感染対策をしっかり行うことが大前提です。マスクの装着とワクチン接種を行うことが大切です。しかし、ワクチン接種を受けられない人がいる、受けても抗体ができにくい人がいる、そういう人たちをどうやって守るのかという選択肢としてのエバシェルドということを理解していただければと思います。
予防の基本はワクチンです。エバシェルドの発症抑制目的での投与がワクチンに置き換わるものではないということをしっかりと認識した上で、この薬剤の良さを最大限に発揮できるような使い方を考えていくことになるでしょう。
まさに「ウィズコロナ時代」に向けて一歩踏み出そうとしているこの時期に、今ある薬剤を、あるいはワクチンをどう活用いくのかが大事です。その中で、①高齢者や基礎疾患を有する人を守る対策、②ワクチン効果が低い人への対応、③ワクチンを受けられない人、受けたくない人、受けても抗体が上がらない人たちを守ること、④内服、点滴、筋注による治療薬、つまり軽症者から使える薬剤があること、⑤2価、インフルエンザ混合などの新しいワクチンをどのように活用していくか、これらが大事になってきます。
新型コロナに関しては少しずつ収束が見えてきていますが、パンデミック感染症がなくなるわけではありません。SARS、MERS、新型コロナを経験しましたが、何年かするとまた新たな病原体が出てくることを見据え、危機対策の視点でそれに対する備えを行う必要があります。
そのためには今、マスクやワクチン、診断、治療、予防、そういった新型コロナウイルス感染症の経験を次のパンデミック感染症に対する備えとして、私たちの経験として落とし込んでいくということが非常に大事になるのではないかと思います。