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【連載】形成外科で必要な看護技術を学ぼう

包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の病態と治療

  • 公開日: 2023/2/28

形成外科では難治性創傷を扱いますが、その中で包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の症例が増加しています。一般的にフットケアというと、爪切り、胼胝けずり、足浴・保湿をイメージする医療従事者が多いようですが、それだけでは透析患者さんの足を救うことはできません。 重要なことは、足を観察し何が起こっているのかを、特に感染と血流に関して評価すること、つまり、足に対して何かを行う前に、「診る・診察」ということです。

2016年から透析クリニックから足の治療の専門病院への紹介を行うための下肢末梢動脈疾患指導管理加算が算定できるようになりました。これはCLTIを早期発見、連携するための医療制度としては画期的なものでした。また、2022年4月に新設された下肢創傷処置料は、透析施設を含む足病を治療するすべての施設で算定することが可能な制度です。CLTIの治療が必要になった患者さんにはどのような治療が行われるかを知っておくことは、透析施設にとっても重要です。この記事ではCLTIの病態と評価と治療について概説しました。

足を「診る」こと

1 CLTIとは

 包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)は、2019年の米国血管外科のガイドラインにて記載された概念です1)。感染のある神経障害性足病変を含むようにしたことが変更点です(図1)。

図1 CLTI
CLTIの概念

 今まで虚血主体に診療していた体系を、WIfI分類に基づいて、Wound:創傷、Ischemia:虚血、foot Infection:足部感染の3つの項目で足の状態を評価する方法です。グレードというようにおのおのの項目について0-3までの4つにスコア化されています。

 細かいスコアまで、正確に評価ができるようになる必要はありませんが、どういう視点でスコア化されているかは、知っておくべきです。また2022年4月より下肢創傷処置点数が算定できるようになりました(表1)。この点数は、WIfI分類のWに基づいて算定するので、Wのところだけでも評価できる必要があります(図2)。

表1 J000-2 下肢創傷処置
1 足部(踵を除く。)の浅い潰瘍 135点
2 足趾の深い潰瘍又は踵の浅い潰瘍 147点
3 足部(踵を除く。)の深い潰瘍又は踵の深い潰瘍 270点

(1) 各号に示す範囲とは、下肢創傷の部位及び潰瘍の深さをいう。
(2) 下肢創傷処置の対象となる部位は、足部、足趾又は踵であって、浅い潰瘍とは潰瘍の深さが腱、筋、骨又は関節のいずれにも至らないものをいい、深い潰瘍とは潰瘍の深さが腱、筋、骨又は関節のいずれかに至るものをいう。
(3) 下肢創傷処置を算定する場合は、区分番号「J000」創傷処置、区分番号「J001-7」爪甲除去(麻酔を要しないもの)及び区分番号「J001-8」穿刺排膿後薬液注入は併せて算定できない。
(4) 複数の下肢創傷がある場合は主たるもののみ算定する。
(5) 軟膏の塗布又は湿布の貼付のみの処置では算定できない。

図2 WIfI分類 
WIfI分類

①Wound:創傷

 創傷の大きさ、深さ、部位でグレードが決まります。

 前足部よりも踵の方が重篤であり、浅い創より骨や関節に通じる創の方が重篤と評価します。足趾に限局した浅い潰瘍は1になります。黒色壊死は2か3になります。踵以外の前足部、中足部で骨または関節が露出した創、全層壊死は2になります。

 踵の全層壊死は3です。踵の浅い潰瘍は2です。

grade
部位
潰瘍
1 足部(踵を除く)
足部(踵を除く)
2 足部(踵を除く)
深い
踵部
浅い
3 足部(踵を除く) 深い
踵部
深い
浅い:骨・関節・筋・腱露出なし
深い:骨・関節・筋・腱露出
東 信良,他:包括的高度慢性化し虚血の診療に関するGlobal Vascular Guidelinesポケットガイド日本語訳版.日本血管外科学会雑誌 2021;30(2):141-62.より引用改変

②Ischemia:虚血

 これは見た目の評価ではなく、いくつかの客観的データにもとづいてグレードで評価します。ABIが世界標準ですが、石灰化が強い透析患者では、正しく評価ができない欠点があります。SPPは日本で一般的に行われている血流検査法です。

Grad
ABI
Ankle systolic pressure
TP.TcPO2
SPP*
0
≧0.80
>100mmHg
≧60mmHg
≧50mmHg
1
0.6-0.79
70-100mmHg
40-59mmHg
40-49mmHg
2 0.4-0.59
50-70mmHg
30-39mmHg
30-39mmHg
3
≦0.39
<50mmHg
<30mmHg
<30mmHg
日本循環器学会,他:末梢動脈疾患ガイドライン 2022年改訂版(2022年7月19日閲覧)https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Azuma.pdfより引用改変
*SPP値は、本ガイドラインにて追記

③foot Infection:足部感染

 局所感染であれば1か2になります。創辺縁から2cm未満の発赤は1、創辺縁から2cm以上離れた部位まで発赤があれば2になります。全身性感染は3です。3の場合、SIRSの評価法に従います。

grade
状態
0
臨床症状なし
1
局所感染(発赤≦2cm)圧痛、熱感、膿、腫脹
2 局所感染(発赤>2cm)深部感染
3
全身性感染・炎症 SIRS
東 信良,他:包括的高度慢性化し虚血の診療に関するGlobal Vascular Guidelinesポケットガイド日本語訳版.日本血管外科学会雑誌 2021;30(2):141-62.より引用改変

病態

 CLTIは、虚血、創傷、感染の3つで評価し治療を行いますが、従来の虚血についての概念が変わったわけではありません。動脈の閉塞または狭窄によって末梢組織が虚血状態になります。PADは本来四肢の動脈疾患のことを意味しますが、動脈硬化や石灰化は全身の動脈で起こります。したがって、脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な脈管の疾患とも深い関係にあります。PADやそれが進行したCLI患者さん(図3)では、脳梗塞や心筋梗塞を起こす可能性が高いことがわかっています2)(図4)。CLTIの予後は悪いことが分かっています(図5)。また、透析導入前からの腎臓病や糖尿病に起因する動脈の石灰化が関与しているといわれています。透析導入後にリンやカルシウムをコントロールすることによって、石灰化の進行を遅らせることが可能です。

図3 末梢動脈疾患の分類:症状によるFontaineの分類
症状によるFontaineの分類"


図4 末梢動脈疾患、冠動脈疾患、脳血管疾患とそれぞれの合併頻度
末梢動脈疾患、冠動脈疾患、脳血管疾患とそれぞれの合併頻度末梢動脈疾患、冠動脈疾患、脳血管疾患はそれぞれ合併して存在することも多い
足に虚血病変があれば、脳梗塞、心筋梗塞のリスクが高いということを意味する
Bhatt DL. et al:International Prevalence, Recognition, and Treatment of Cardiovascular Risk Factors in Outpatients With Atherothrombosis.JAMA 2006;295:180-9.をもとに作成


図5 末梢動脈疾患患者の生存率
末梢動脈疾患患者の生存率
TASC Ⅱ Working Group /日本脈管学会 訳:末梢動脈疾患の疫学.下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療方針Ⅱ.メディカルトリビューン,2007,p.24.より転載

早期発見のために必要なこと:スクリーニング(視診、 触診、ドップラー、 客観的指標)

●視診
 黒色乾燥壊死があるときは、虚血であることが簡単に判断できますが、壊死がないときは観察には経験が必要です。また、虚血足趾にはチアノーゼ(紫色から赤黒い皮膚色)を認めることがあります。

 クリニックでも簡単にできる虚血の検査には以下のようなものがあります。仰臥位で下肢を挙上すると、下肢の色が肌色から白色に変化し、下肢を下ろすとピンク色に戻る変化を認めることがあります(図6)。これは、下肢が挙上された高さに対しての重力に抗して足趾まで血流を送ることができないこと、つまり虚血傾向にあることを意味しています。

図6 虚血検査
虚血検査

 虚血があると、爪の成長が遅くなりますし、足趾の毛がなくなり無毛になります。皮膚の性状も弾力がなくなり、見た目はツルツルになることもあります。

●触診
 触診は重要です。虚血性変化があると、足の温度は低下します。そのため皮膚の温度と動脈の拍動を観察します。脈を触れる場所は中枢から、鼠径部:大腿動脈、膝:膝窩動脈、前脛骨動脈の末梢の足背動脈(足背)と後脛骨動脈(アキレス腱の内果側)の足部では2カ所です。下肢には3本の動脈がありますが、下腿と足部において腓骨動脈は触知できません。

●ドップラーによる聴診
 触知できない腓骨動脈もドップラーでは聴取可能です。透析における石灰化例では、動脈が硬化しているために触診で拍動が触知できないことが多くみられます。そのようなときには、ドップラーにて聴診を行います。しかし、さらに高度石灰化症例では、ドップラーの音波も石灰化した中膜に反射して聴取できないこともあります。

●客観的指標:ABI、SPP
 客観的虚血の指標として足関節上腕血圧比(anklebrachial index ; ABI)や皮膚灌流圧(skin perfusion pressure ; SPP)が用いられています。2016年の診療報酬改定でもABIとSPPによる血流評価が記載(ABI値0.7以下、SPP値40mmHg以下では専門病院へ紹介する)されています。血流計測に関しては、月に一度100点を算定可能です。特にSPPは、40mmHg以下であると創傷治癒が進行しないので血行再建の対象とされ、SPPの数値40mmHg以上を目標として血行再建が行われます。

ABIの正常値にご用心
 ABIは、マンシェットで血管を圧迫しつぶして、動脈の流れが途絶えるところを計測しています。しかし透析の高度石灰化症例においては、血管が固くマンシェットで動脈がつぶれないために、正常値に近い値が出ます。つまり実際には虚血があるのにABI値が0.9〜1と正常値に近い数字が出ることがあります。このような場合でもSPP値は比較的正確に虚血を評価することが可能です。一方SPPにも欠点があります。虚血の著しい患者さんでは、疼痛を認めて計測ができない場合や、不随意運動で足が動く場合には正確に計測ができません。SPPと同時に計測できるPVRという脈波計測では、臨床的経験が必要ですが、SPP値だけでなく石灰化や虚血の予測も可能となります。

2 CLTIの治療

CLTI治療のゴール設定

 CLTIにおいてゴール設定は重要です。これは「がん」の治療と似ています。末期がんの患者さんには治癒をめざした治療を行わないのと同様に、例えば、長期臥床で寝たきりで、食事も経腸栄養剤をチューブで投与されているような患者さんでは(そもそも透析クリニックにはそのような患者さんはいないでしょうけれども)、積極的なCLTI治療は推奨されません。

 CLTI治療には2カ月から3カ月という時間がかかることと、現行の医療制度では転院を数回必要とすることから、はっきりとした指針やきまりはありませんが、一般的に表2のような条件の患者さんは、CLTIの積極的な治療対象とはなされないことが多いようです。

表2 CLTIの積極的な治療が適応とならない条件
1 長期臥床、歩行困難
2 高度の低栄養、高度のサルコペニア
3 膝関節の高度の屈曲拘縮
4 高度の認知症
5 心機能低下(昇圧剤の使用など)
6 脳血管疾患などによって麻痺を認める(歩行可能であれば積極的に治療することもある)

 ①②は歩行の可能性がない、長期臥床で低栄養、透析の患者は、CLTI治療において、治療が上手くいかないというエビデンスがあります。

 ③④は、血行再建時に局所麻酔で血管内治療が行えないからです。③は膝が屈曲していると、末梢に向けて鼠径部よりカテーテルを物理的に通しづらいなど、血管内治療(EVT)の手技が困難になります。

 ④は局所麻酔だと安静が保てず、これも③と同様に、EVTが困難です。

 ⑤は、例えば透析患者さんに比較的多い石灰化による大動脈弁狭窄症の患者さんでは、末梢動脈の狭窄や閉塞を治療しても、心臓の機能が低下していると末梢組織まで十分な血流が得られません。

 CLTIを認めても、積極的に治療が適応とならない場合は、大腿部または下腿部での切断が適応となります。①②⑤があれば、大腿部切断といえども感染や創離開のリスクを伴います。さらに全身麻酔を行うことや大腿部での切断手術すらもリスクがある場合には、担がん患者さんの緩和ケアと同様に、長期予後は見込めませんので、本人と家族に病状を説明し納得していただいて疼痛ケアと可及的な創傷処置:壊死部を乾燥させ(ミイラ化させ)、抗菌薬で管理しながら壊死部の自然脱落(auto-amputation)をめざします(図5)。早期に治療を終了させることや積極的な治療を行わないことが患者のQOLの向上につながります。すなわち治癒ではなく、乾燥壊死との共存(ミイラ化)が治療のゴールとなります。実はこのために、透析をしながら入院をさせてくれる病院が日本には少ないのが現状です。

図7 ミイラ化(乾燥壊死)した足部の状態
乾燥壊死した足
積極的なCLTI治療の適応ではない状態。可及的な創傷処置と疼痛コントロールを行う

 このような患者さんは、透析クリニックに通院しながらの在宅での看取りが今後必要になってくるでしょう。

 積極的なCLTI治療のゴールは、「血流が改善し、創治癒が得られ、リハビリテーションを行って歩行できるようになること」または、「車いすへ移乗が一人でできるようになること」です。CLTI治療を積極的に行う条件は4つあります(表3)。最終的には、歩行とADL向上によって生命予後の改善をめざします。簡単に言えば、「透析クリニックへの通院が継続できること(車いすでの通院も含む)」がゴールとなります。

表3 CLTIの治療を積極的に行う条件
1 CLTIを発症する少し前まで、歩行が可能であった
2 栄養状態が比較的保たれている
3 積極的にリハビリテーションをする意思がある
4 創傷治療の内容と免荷装具の必要性やリハビリテーションの内容を理解できる(自分で足について管理できる)

血行再建術と創傷治療

 CLTIは、虚血と壊死(感染)の2つの病態が複雑に関与しています。CLTIを積極的に治療する場合には、基本的には局所治療の前に早期に血行再建を行う必要があります。血流が改善しないといかなる創傷治癒過程も始まりません。つまりいかなる創傷治療薬を使っても効果がないのです。

 2016年の診療報酬改定で重視されたのは、血流評価ですが、CLTI治療においては、感染の評価も重要です。高度の滲出液を認めたり、程度の強い創感染の場合には、血行再建が行えない場合もあります。感染創に対して血流量が増加すると血流にのって敗血症となり、全身に細菌が拡大することがあります。高度の感染を認める場合には、血行再建よりもデブリードマンが優先されることがあります。

●血行再建術
 血行再建術には、冠動脈疾患においての血行再建術と同様にバイパス術と血管内治療(EVT)(図8)の2つの方法があります。それぞれ長所短所があり(図9)、長期開存が得られるのがバイパス術で、低侵襲のEVTです。

図8 血管内治療の手技
血管内治療の手技

図9 血管内治療とバイパス術のメリット・デメリット
血管内治療とバイパス術のメリット・デメリット

内膜摘除術とバイパス術
●内膜摘除術
 大腿部や鼠径部などの大きな血管の石灰化や狭窄症例で、外科的に血管を切り開き、血管の狭窄・石灰化した内膜を丁寧に切除し(外膜はそのまま温存する)、その後、再縫合、静脈を採取してパッチとして縫合する方法です。太い血管で適応があります。

●バイパス術
 狭窄部位が長いか、EVTが困難である症例において、大腿部から膝窩部、膝窩部から下腿部の3つの動脈に、大伏在静脈などの自家静脈を吻合移植する方法です。EVTと比較してflow rate(血流速)が速く、血流量も多いことが特徴です。EVTよりも長期開存が得られます。しかし、EVTよりも侵襲が大きく、一般に全身麻酔下で行われるため、リスクが高い患者さんは、適応になりません。

血管内治療(EVT)
 EVTは、低侵襲で、全身麻酔のリスクが高い患者さんでも、行うことができます。大腿部の狭窄症例では、比較的多くの病院で治療が可能です。しかし、下腿の完全閉塞症例などでは、高度の技術を要するため、どこの病院でも可能なわけではなく、EVTができる病院が限られます。

 また、たとえ下腿の完全閉塞症例をEVTで開存できたとしても、flowが遅く、血流量が少なく、再狭窄率も高く、長期開存は得られません。創傷を治癒させる力もバイパス術と比較すると劣ります。したがって、EVT後に注意深い観察が必要です。現在は、ハイリスク患者さんではEVT、全身麻酔が可能で、創傷が大きい症例は、バイパス術が選択されることが多いようです。

 バイパス術とEVTのどちらを選択するかは、冠動脈疾患のようにガイドライン等で決めることができず、カテーテルデバイスと技術の進歩などでEVTもより良くなる可能性があり、今後の多くの研究課題が残されています。

血行再建後に注意すべき点
 バイパス術もEVTなども、血行再建は、効果が永久的に維持できるわけではなく、バイパス術では閉塞したり、EVTでは再狭窄したりすることが高率で起こります。例えば、下腿におけるEVT後の再狭窄率は、3カ月間で70%以上もあります。すなわち3カ月以内に7割の患者さんにおいて、血流量が低下するのです。回復した血流が維持できているか、定期的に血流を評価し、虚血に対して常に留意する必要があるのです。もし再狭窄が起こってしまったときには、再度血行再建をしなければ、壊死が進行します。つまりCLTI患者さんにとって継続的な経過観察は必須なのです。

 また長期的開存を維持するために、1~2剤の抗血小板薬が推奨されています。もし内服を中止すると再閉塞する可能性が高くなります。

●創傷治療
 血行再建後は、足部への血流量が増加するため、感染が起こりやすくなります。このことは理解し難いかもしれませんが、CLTIでは、感染が起こるための炎症性の細胞が創部に動員されることがないために、腫脹や滲出液の増加も起こらないのです。血流が改善すると、通常の壊死組織がある創傷と同様の状態となり、感染が起こる可能性が高くなるのです。

デブリードマン
 血流が改善する前に積極的なデブリードマンを行うとCLTIでは壊死が進行します。つまり壊死組織を切除したにもかかわらず、断端が再び壊死に陥ります。CLTIにおいては、褥瘡などの治療と異なり、血流を評価してからデブリードマンを行う必要があります。例えばSPPで40mmHg以下では、デブリードマンは推奨されません。血行再建を行ってSPPで40mmHgより高い値にしてからデブリードマンを行う必要があるのです。

創傷治癒を促進する治療
 壊死組織を除去した後で、bFGF製剤と局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)等を行って肉芽形成の促進を図ります(図10)。

図10 局所陰圧閉鎖療法(NPWT)の例
陰圧閉鎖療法(NPWT)の例

3 歩行のために必要なこと

 血行再建され虚血が改善された後に、創傷が治癒する過程で(肉芽形成が獲得できたら)、免荷用の装具を使用して歩行を開始します(図11)。歩行によって創傷が増悪する場合には、外来での通院は困難であり、入院が必要です。歩行を開始する前に、ベッド上で大殿筋や中殿筋や前脛骨筋の筋力強化をすることは重要です。特に創傷治療に時間がかかる場合には、尖足位となることが多く、ハムストリングが硬化して、起立時に前足部に高い圧が負荷されるようになります。尖足にならないように創傷治療中は、前脛骨筋を常に動かすように指導する必要があります。

図11 医療用サンダル(ダルコ社)
医療用サンダル

 創傷治療に時間を要しすぎると、治療中にEVTした血管が再狭窄をし、虚血が再度進行して、創傷治療をデブリードマンからやり直すことになったり、筋力が低下して廃用症候群が進行し、創傷は治癒したが、歩行できなくなるといった問題も発生します。

 低栄養状態のままリハビリテーションを開始すると筋肉が基礎代謝維持に使用されるサルコペニアが進行します(つまり、筋肉が栄養源として消費されてしまう)。そのため、リハビリテーションを開始する前に、栄養状態を改善させます。栄養は、創傷治癒とも関係が深いので、CLTIになる前、予防の段階から常に留意する必要があります。透析クリニックでも、足を守るために、在宅の管理栄養士と連携をするなど早期から栄養介入が必要なのです。

まとめ

 透析クリニックでもCLTIの病態を知って、積極的にCLTIの治療を行えると救える患者が増加します。下記のhttps://www.aaa-amputation.net/で、足病の情報発信を行っています。是非ご活用ください。

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引用・参考文献

2)J Vasc Surg. 2019 Jun;69(6S):3S-125S. Global vascular guidelines on the management of chronic limb-threatening ischemia Michael S Conte 1, Andrew W Bradbury 2, Philippe Kolh 3, John V White 4, Florian Dick 5, Robert Fitridge 6, Joseph L Mills 7, Jean-Baptiste Ricco 8, Kalkunte R Suresh 9, M Hassan Murad 10, GVG Writing Group.
2)Bhatt DL,et al:International Prevalence, Recognition, and Treatment of Cardiovascular Risk Factors in Outpatients With Atherothrombosis.JAMA 2006;295:180-9.
3)TASC Ⅱ Working Group /日本脈管学会 訳:末梢動脈疾患の疫学.下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療方針Ⅱ.メディカルトリビューン,2007.


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