1. トップ
  2. 看護記事
  3. 診療科から探す
  4. がん
  5. がんによるボディイメージの変容・乳房再建
  6. 乳房再建で乳がん患者さんの満足度・QOL向上をめざす

乳房再建で乳がん患者さんの満足度・QOL向上をめざす

  • 公開日: 2024/12/26
アッヴィ合同会社は、「乳房再建の選択肢が当たり前の世の中へ~乳がんになった後も、患者さんが自分らしく生きるために~」と題したメディアセミナーを開催しました。ここでは、そのセミナーの内容をレポートします。


乳がんの現状と乳房再建について

東京女子医科大学 乳腺外科 教授・基幹分野長 明石定子先生

 がんのなかで、日本人女性が最もかかる割合が高いのが「乳がん」です1)。これには、食生活の欧米化、出産経験のない女性や初産年齢が高い女性の増加などが関係していると考えられており、今後も乳がん患者さんは増え続けると予想されています。

 乳がんの大きな特徴として、若年女性での発症が多いことが挙げられます。胃がん、大腸がん、肺がんなどは、高齢になるほど罹患率が高くなっていくのに対し、乳がんは最初のピークが40代後半にあり2)、ほかのがんと比べて、若年で発症するケースが圧倒的に多いといえます。また、罹患数が多い一方で、5年生存率は92.3%3)と高く、ほかのがんに比べると予後が良好なところも特徴です。

 若年での発症が多いこと、生存率が高いことなどから、乳がんを発症したあとの人生も非常に長くなります。そのため、ただがんを治すのではなく、その後の長い人生を考えた対応やさまざまな選択肢を示していくことが求められます。

 乳がんの治療に伴い、患者さんが苦痛に感じることとして、髪の脱毛、嘔気・嘔吐、手足のしびれや全身の痛みなどのほかに、乳房切除があります。かつては、乳がん患者さんというと選択の余地がなく、乳房を全摘出するしかない時代もありましたが、90年代に入ると乳房温存術を行うケースが徐々に増えてきました。

 一方で、がんができている場所やがんの大きさによっては、無理に温存を行うと変形が強くなってしまい、患者さんの期待に沿えない結果になることがしばしばみられるようになりました。そのようななか、2011年に自家組織による乳房再建、2013年には人工物による乳房再建が保険適用となり、温存以外の方法で、乳房を残すことができるようになったのです。

 しかしながら、乳房再建を行うためには施設認定基準を満たす必要があること、また、形成外科医や乳腺外科医が足りておらず、再建まで手が回らないなどといったようなことから、日本における乳房再建の実施率は低いのが現状といえます。

乳房再建の国内普及のために

富山大学学術研究部医学系 形成再建外科・美容外科 教授 佐武利彦先生

 『乳房再建診療ガイドライン2021』では、「乳房再建術そのものに対する患者の満足度は高い」としています4)

 実際に乳房再建を受ける患者さんを増やすには、患者さんはもちろん、乳腺外科や他の診療科の医師にも乳房再建の存在を知ってもらうことが重要であり、そのためのプロモーションの必要性を感じています。

 日本乳がん学会において、患者さん向けに乳がんの診療内容を詳しく解説した「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」が2~4年ごとに作成されていますが、日本形成外科学会でも乳房再建についてよく知ってもらいたいと考え、ガイドブックの作成に着手しました。

 ガイドブックは、患者さんからの質問をもとに作成しており、基本事項から最近のトピックスまで網羅しています。作成の際は形成外科医だけでなく、患者さん、乳腺外科医、放射線科医、ブレストケアナースなどにも参加してもらい、最終的に形成外科医や他学会の医師からの評価を受けたうえで、2024年7月に「患者さんと家族のための 乳房再建ガイドブック」として発行に至りました。

 乳房を失ったことによる喪失感は、乳がんの患者さん自身だけでなく、夫やパートナーといった家族も感じることがあり、「第2の患者」と言われています。そういった家族の方にも乳房再建について知ってもらいたいという思いから、「患者さんと家族のための」とタイトルに冠しています。

 ガイドブックの発刊から3年後には、ウェブでの全文掲載を予定しています。また、動画サイトの作成を計画しているほか、外国語(英語、中国語、韓国語)に翻訳することで、日本国内に暮らす外国人の方に読んでもらったり、海外に日本の医療事情を伝えたりすることも重要な使命だと考えています。

 今後も乳房再建についてわかりやすく説明し、理解を深めてもらえるように尽力していきたいと思います。

乳がん術後乳房再建術の概要

ブレストサージャリークリニック 院長 岩平佳子先生

 乳がんの手術において、かつては乳房温存率が高い病院が評価される傾向にありましたが、無理に温存すると乳房が大きく変形してしまうといったことなどから、全摘をして再建するという方法が提案されるようになってきました。

 乳房再建には、素材による分類と再建時期による分類があります。まず、素材についてですが、腹部の脂肪や背中の筋肉などを使う「自家組織再建」と、エキスパンダー(皮膚拡張器)とシリコーンインプラントを用いる「人工物再建」に大別されます。

 自家組織再建は身体への負担が大きく、乳房以外の場所に傷跡が残ったり、ある程度の入院期間が必要になるなどの欠点がありますが、温かい血の通った組織が使えることがメリットです。一方で、人工物再建は身体への負担が軽く、日帰りも可能で、保険適用にもなっています。ただし、製品を適切に選ばないと仕上がりに影響する可能性があります。

 人工物再建に使用されるインプラントは、破損などがなければ入れ替えの必要はありません。X線検査を行ったときに、インプラントによって心臓や気管支が見えなくなるということはなく、マンモグラフィ検査を受けることもできます。

 インプラントに関連する有害事象として、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)がありますが、万が一、BIA-ALCLを発症したとしても、インプラントとその周囲の組織を取り除くことで治癒するケースがほとんどです。正しく怖がることが重要で、インプラントを挿入している患者さんは1年に1度は必ず検診を受けること、急に腫れてきたり、腫瘍が触れたりした場合は、すぐに相談できる関係性を医師と築いておくことが重要です。

 続いて、再建時期による分類に関してですが、乳がんの手術と同時にエキスパンダーを挿入する「一次二期再建」と、手術や抗がん剤治療などが終わってしばらく経ってから再建を行う「二次二期再建」に分けられます。

 一次二期再建では、術後に乳房の膨らみが失われた喪失感を味わわずに済む点や、一度に処置ができるため、身体への負担が少ないというメリットがあります。しかし、乳がんの手術はできても再建には対応していない病院があるほか、手術の日程が決まっている場合、それまでに再建するかどうかを決めなければならず、考える時間が限られてしまうところが欠点として挙げられます。

 二次二期再建では、術後に喪失感を味わうことになってしまいますが、再建について考える時間を確保でき、病院や方法についても検討できる点がメリットです。

 このように、乳がんの治療により乳房が失われた場合、再建という選択肢があるものの、全摘をした患者さんで再建まで行うケースは依然として少ないのが現状です。その理由として、再建が保険適用になっていることを知らない患者さんが多く、積極的に勧める医師も少ないこと、新型コロナウイルス感染症の流行により、再建は不要不急であるとされてしまったことなどが考えられます。

 また、地域によって乳腺外科医や形成外科医の数が少ないこと、SNSなどのツールを持たず情報が得られないことなどを背景に、地方の患者さんや高齢者が置き去りにされている状況もあります。

 乳房再建は、年齢や地域、社会状況に関係なく、QOL を上げるうえで非常に重要です。患者さんが正しい情報を得て、自分に合った再建をしていけることを願っています。

引用文献

1)がん情報サービス:最新がん統計 1.最新がん統計まとめ がん罹患数の順位(2020年).(2024年12月18日閲覧) https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
2)がん情報サービス:がん種別統計情報 乳房 2.罹患(新たに診断されること) 年齢階級別罹患率【乳房2020年】.(2020年12月18日閲覧) https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html
3)がん情報サービス:がん種別統計情報 乳房 1.統計情報のまとめ 5年相対生存率(2009~2011年).(2020年12月18日閲覧) https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/14_breast.html
4)日本形成外科学会,他編:第VI編 乳房再建診療ガイドライン.形成外科診療ガイドライン1 2021年版.金原出版,2020.(2024年12月18日閲覧) https://jsprs.or.jp/general/breastrecon/pdf/CQ1.pdf

この記事を読んでいる人におすすめ

カテゴリの新着記事

がん患者さんへのアピアランスケアとは【PR】

がん治療の進歩や通院治療環境の整備により、生存率の上昇とともに、仕事をもちながら通院している患者さんも増えています。しかし、社会と接触しながら治療生活を送ることは、がん治療に伴う外見の変化を患者さんにより意識させる結果となっています。 分子標的治療薬のように、皮膚障害の

2024/12/24