摂食障害の現状と治療|日本精神神経学会 第18回記者勉強会
- 公開日: 2023/3/21
2022年9月29日に東京・フクラシア八重洲の会場とオンラインのハイブリッドにより、日本精神神経学会による第18回記者勉強会が開催されました。テーマは「摂食障害、痩せすぎモデル規制~金の鳥かごからダイエット病に~」です。なんば・ながたメンタルクリニックの理事長・院長であり、日本摂食障害学会理事長の永田利彦先生による講演が行われました。この講演についてレポートします。
コロナ禍での10歳代、20歳代の摂食障害の急増
コロナ禍で10代の摂食障害が増えているというレポートが、世界中のいろいろなところから出ていますが、日本摂食障害学会で調査したところ、日本は10代だけでなく、20代の摂食障害も急激に増えたことがわかりました。
今回、学会で呼びかけて、各施設の先生方にお願いして「どのくらいの新患さんがいるか」というデータを出していただいたところ、図1に示すように、初診患者さんが2019年から2020年、2021年に非常に増えていることがわかりました。
世界中では10代、中高生が増えているようにレポートされていますが、日本のデータでは20代も非常に増えているというところが、特徴となっています。
これまでも日本の20歳代の女性は痩せすぎ(Body Mass Index:体重(kg)/[身長(m)]2が18.5未満、やせ症はさらに低く、17.5以下)が多いことが問題となっていましたが、国民栄養調査は、コロナ禍により、この2年間は中止されており、今回の調査は貴重なデータとなりました。
いつから摂食障害は「普通の病気」になったのか
往年の有名な神経性やせ症の権威であるH・Bruchは1978年に著書に「金の鳥かご」という著書を出版しましたが、親子間の葛藤が食欲や情緒に影響していると言っていました。しかし、そのずっと前の100年以上前から、GullやCharcotは摂食障害のやせ症の子どもは家から離さないといけない、家族は最悪の看護人だとしています。
その時代では、摂食障害は先進諸国の良家の子女の稀な疾患で、患者さんの数も非常に限られていました。ブルジョア階級の人たちは家に抑圧され、それは種々の病型の精神疾患となって現れました。当時の神経性やせ症は裕福な限られた人たちの疾患であり、これが古典的な神経性やせ症のタイプといえます。
こうした限られた人たちの疾患が、いつから普通の疾患になってきたのかというと、欧米では1980年代から急激に増えてきたと言われています。日本の正確な統計はありませんが、10年遅れで1990年から2000年くらいにものすごく増えてきたという感じです。その当時、ちょうど高校への進学率が90%を超え、同級生の目を気にするようになった時期です。今や誰もがかかりうる疾患に変わってきています。
現在の摂食障害の共通する病理は、Clinical Perfectionismというのですが、これを意訳すると「すごい負けず嫌い」です。家族病理から負けず嫌いという全く違う病理となっていった中で、摂食障害というのは増えてきたため、治療の方法や考え方も変えていかないといけないということですね。
ダイエットと摂食障害の関係
金の鳥かごと言われていた時代は家は裕福であるけど息苦しかったわけで、同級生の争いではなかったのです。それが誰もが高等教育の学校に通うようになって同級生と比べ合うということになり、ダイエットを契機として摂食障害になるということが増えてきています。
昔の研究ですが、ロンドンの15歳の女子学生1010名を対象に行った調査では、ダイエットをしていると1年後に20%ぐらいの人が摂食障害になっていたというデータもあります1)。また、20年前のオーストラリアの14、15歳の人がダイエットをシビアにしていると、1年後には摂食障害になっているという研究結果もあります2)。
このように、摂食障害とダイエットという関係を研究したものはたくさんありますが、最近の研究はありません。というのは現代では100%に近い人がダイエットをしているので、縦断的にフォローアップしても比較研究できないわけです。
日本人の場合はもともとやせているほうなのに、日本の女子学生の70%がダイエット中というデータもあります。
世界で最も自分のことを太っていると思っている国・日本
今、日本という国は、最もダイエットをしている人が多い国の1つです。図2に示すように、世界の22カ国の女子学生に対して、自分が太っているかについて聞いた調査では、日本は第1位です3)。図2にある「20.5」というのはBMIです。BMIは18.5未満が痩せすぎ、25以上が太り過ぎで、20ぐらいだとちょっとスリムすぎる感じですが、十分スリムなのに「私は太っている」と思っているのが日本人です。
J Wardle,et al:Body image and weight control in young adults: international comparisons in university students from 22 countries.Int J Obes 2006;30(4):644-51.より引用
日本人は太ってもいないのに、最も自分のことを太っていると思っているし、日本の女子学生は、太っていないのにダイエットしている。これは健康のためではなくて、完全に美容のためだけですね。
2012年に発表されたミネソタ大学で平均年齢12.8歳の女子学生1083人を対象に、ダイエット後BMIがどうなったのか、10年間フォローアップした研究があります。結果として、ダイエットをしている人は10年後にはBMIが上がっています。さらに分析の結果、もっと驚異的なことがあり、15%の人が不健康なダイエット、食事を抜くといったダイエットをしていたのですが、10年後にはBMIが反対に5.2上がったのです4)。
不健康なダイエットを行う人たちは、ダイエットは短期的な行動変化であって、バランスの取れた食事をし、運動量を確保するというような生活スタイルそのものを変えることとは考えません。食べなければ痩せますが、ただ単に絶食をするとその後余計に食べたくなります。そして、断食後に食べだすと止まらなくて食べ過ぎます。そうすると焦ってまた断食するという悪循環になります。このような過激なダイエットが太りやすい体質の原因となり、肥満の元とも言えます。
また、骨というのは20歳くらいで最大骨量になって、そこから下がっていきますが、20歳の時点で低ければ、40歳以降で骨粗鬆症となるリスクは高まります。そのほかにもダイエットによるリスクはさまざまあります。
政策の後退と外圧頼み
声をあげないと政策というのは動きません。2000年の「健康日本21」では20代の痩せすぎの割合を15%以下にするとしていましたが、2012年の「健康日本21(第二次)」では20%以下に後退してしまっています。やはり僕たちが何とか訴えていかないと動かないということで、学会声明を出しているところです。
現状としては、政策としては動いていませんが痩せすぎが止まっているというのは、海外のスターたちに、痩せすぎのスターがいないからだと思います。
欧米では、摂食障害がいかに危険かということが、1980年から90年にかけて、カレン・カーペンターの死や数多くの摂食障害の患者さんたちがトークショーに出演し、一般的によく知られるようになっています。死に至る疾患であると、みんな知っているわけですね。
そこで、モデルたち自身もやせ過ぎの危険性がよくわかっているのに、やせることを強要する業者やエージェントに対する不満が溜まり、各国で2006年以降、規制されるようになり、フランスの国民会議が痩せすぎのモデルを起用してはいけないとして、業者やエージェントを取り締まっています。だから、海外のモデルさんたちは、そこまで痩せた人はいなくなっています。
摂食障害は死んでしまうこともある、本当に怖い疾患なのです。
入院から外来治療へ
治療が大きく変わりました。欧米には摂食障害専門病棟というのがありますが、アメリカの摂食障害専門病棟では、患者さんは3カ月ぐらい入院していましたが、1998年ごろには20日間程度の入院となりました。
また、スタンフォード大学では、2015年、もう7年前に平均在院日数は8日間となっています。摂食障害専門病棟の入院費は天文学的に高額なため、医療経済的な面ばかり注目されますが、在院日数が減少しているのは本当は精神病理が変わってきたからです。家族病理ではなくなったので、家族や家と引き離す必要がなくなり、反対に家族が一団となってお母さんお父さんが一生懸命にご飯を食べさせましょうと変わったのです。摂食障害をさっさと治しましょう。それは家でもできますよというふうに、治療が大きく変わったのです。そして、その背景に何らかの生きづらさがあって、青年期の場合は高校や中学の仲間関係に早期に戻すことで、自我は成長が得られます。成人になると大変ですが、長期的視点からの精神療法的なアプローチが必須となってきます。
こうした精神病理に合わせたいろいろな治療というのは、外来で気長にやっていくということが、今以上に必要だと思います。僕は大学病院にいたときからですが、ずっとそのように治療してきて、今でも100人弱ぐらいの患者さんを診ていますが、入院するのはだいたい年に1人ぐらいしかいないです。
現在の摂食障害には負けず嫌いというのが非常に強くありますが、間違った方向に発揮するのではなく、自分が幸福になるように生きていってほしいと思っています。また、負けず嫌いという共通点はありますが、その背景にある精神病理というのは非常に多種多様で、どのように生きていくのか、どんなふうに生きづらいのか、それに合わせた治療というのが非常に必要だと思ってやっています。
患者さんは摂食障害と生きづらさが、一緒になってしまっていますが、摂食障害さえ治ったら生きやすくなるのかというとそうではありません。「摂食障害は生きづらさをさらに生きづらくしているよ。それは治して、手放して、生きづらさはゆっくり治していきましょう」というようにやっていくことが必要です。患者さんにとっては摂食障害は生きていく上でなくてはならない心の杖となっていることが多いのですが、この杖を取り上げられるのではないかと疑っていることが多いのです。だからこそ、生きづらさへの積極的な治療が必要なのです。
摂食障害というのは精神障害の中でも、最も死亡率が高くて、一度なってしまうとなかなか手放しにくく、その人の生涯にわたっていろいろな障害をもたらす、非常に大変な疾患であるにもかかわらず、それを誘発するダイエットに対して、日本の国というのは非常に寛大で危機感がないですね。
たくさんの人々がお亡くなりになっているのに、まだまだそこに対して寛大過ぎることについて、皆さんにはもっと危機感を持っていただきたいと思います。
引用文献
1)G C Patton,et al:Abnormal eating attitudes in London schoolgirls–a prospective epidemiological study: outcome at twelve month follow-up.Psychol Med 1990;20(2):383-94.
2)G C Patton,et al:Onset of adolescent eating disorders:population based cohort study over 3 years.BMJ 1999;318(7186):765-8.
3)J Wardle,et al:Body image and weight control in young adults: international comparisons in university students from 22 countries.Int J Obes 2006;30(4):644-51.
4)Dianne Neumark-Sztainer,et al:Dieting and unhealthy weight control behaviors during adolescence: associations with 10-year changes in body mass index.J Adolesc Health 2012;50(1):80-6.